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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第一章 旅の幕開け
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別れ道を進んだ先に

 ネイさんと別れて、デリバーと二人きりのまま歩き続けた。


 雑木林を抜け、川を越えて、道を下へと降っていく。

 下へ行けば行くほど、空気が暖かくなり、雑木林にいた時より寒さを感じなくなってきた。


 そうして夕方近くまで歩いたところで、小さな建造物を見つけた。


「あれは?」


 既に半壊状態で、遠目でもわかるくらい立ち入るのを躊躇うほどである。

 そいつを指さして聞いてみると、「昔の名残だろうな」と呟くデリバー。

 どういうことか聞いてみる。


「そんなに気になるんなら、近づいて見るか」


 そう言ってデリバーと一緒に、半壊した建造物へ足を運んだ。


 石造りの建物。石のレンガが積み重なった家で、人が一人くらい住める大きさで、四角形の家だったと推測できる。


 四角形のうち二面の壁が崩れており、中の家具も散乱して、植物に侵食されている。

 一人世帯だったのだろうか。家は立派に石造りなのだから、老後の隠居生活でもしていたのか。色々な想像がふくらむが。


「あれを見てみろ」


「え? ......なっ!?」


 言われた通り、家の奥に集まる家具の残骸で隠れて見えなかったモノを見て、思わずビックリして後ずさる。

 無理もない。今までの認識を覆すもの全てが、奥にあったのだから。


「ありゃ、殺されたな」

「骨......」


 奥に隠れていたのは、既に骨となった誰かの頭蓋骨の一部。そして肋骨。

 それ以外は見つからない。壊れた棚やテーブルの陰に隠れて見えなかった。


 それに骨のすぐ隣には、何かで汚れたナイフが落ちている。


「あまりここらに長居しない方がいいな。行くぞ」


「う、うん」


 道外れの何もない場所。木を切り開いてできた、わずかな空き地。

 そこにあった小さな家。


 色々と不気味だなと思いつつ、デリバーの後を追って先へ進んで行った。



 〜〜〜夜。大規模な平原と森の境目付近にて、本日は野営することにした。


 どうして平原に行き、そこで野営しないのか。

 デリバー曰く「格好の餌食だからな」ということらしい。


 肉食動物か、もしくはよからぬことを考えている人間に襲われる可能性があるということだ。

 どうしても周りに障害物がない、開けた場所にいるのなら、その時は仕方ないと割り切るそうだが。


「ほら。できたぞ〜。超質素なスープ!」


「質素ねぇ。肉があるだけマシかな。ありがと」


 道端で運よく出会った、異世界イノシシの群れ。

 そのうち一匹だけを狩ることができたので、デリバーが捌いてスープや焼き豚にしてくれたのである。


 残った部分は彼オリジナルの手順で干し肉にするらしい。


「こんなに作ってよかったの?」


「どうせ大した量は持っていけないからな。奪った命に感謝して、食えるところは食わないと罰当たりだろぉ?」


 (おっしゃる通りだな)


 普段はあまりお腹に食うものが入らないアンナ。しかしお昼に何も食べず、ぶっ通しで歩き続けたので、今はお腹が空いていた。


 肉を原始人のように焼いて、そしていただく。

 スープも頂戴して、旨味を存分に味わいつつ、今日あったこと。そして今後の計画を詳しく話し合った。


「今日見つけた家のことなんだけど......」


「ああ。あそこらへん見たらわかると思うが、御察しの通り誰かが住んでいたんだろう。運悪く悪党に襲われたか、もしくは獣にやられたかだな。それも()()()()のな」


「そんな昔なの?」


「この世界じゃよくある話だからな。お前も知ってると思うが、この世の中は小さな衝突から大きな武力のぶつかり合いが腐るほどある。じゃなきゃ、街が壁を囲ってまで防衛設備を整えたりなんかしない」


「あの壁にそんな意味があったのか......」


 外敵から街を守るためにある壁。それはてっきり危険生物からかと思っていた。

 しかし違った。デリバーの言う通りなら、外敵とは侵略者のことでもある。


「争いか......」


「争い破れたら住処を失う。そうしたら、慣れない土地で動物たちが住む危険地帯だろうが、身を削ってまでそこに移住するやつも多い。特に数十年前は大きな戦争が何度も勃発し、地図にない集落ができたり、さっきみたいな家がポツンとあったりと、住処を変えたやつが大勢いたさ」


 段々とこの世界の状況を理解してきた。


 数十年前から続く争い。広い世界なら当然、争いの一つや二つはあるだろう。


 この世界にはテレビはない。インターネットも存在しない。衛星だってないと思われる。


 だとすれば、この世界の人類は世界を見据えているのではなく、まるで戦国時代のように自国の領土を守って平和を作っていると言うことだろうか。


 そこまで考えるには情報が足りない。それにこの世界の地図すら頭の中にない。


「なんか......。頭がこんがらがってきた」


 頭を抱えて「う〜ん」と唸るアンナ。それを見て「ハハっ」と笑うデリバー。旅人とは何たるかを語ってくれた。


「どのみち俺たち旅人には関係ない話だ。俺たちに出身地や生まれた国は関係ない。ただ、思うがままに旅をして、世界を見ていけばいいだけだ」


 彼の言うことは理解できる。

 しかし目にすると考えてしまう。関係ないと割り切る気持ちがまだアンナには足りない。


 そもそもそんな簡単な話しなのだろうか。

 色々と考え込むうちに眉間に皺が寄るほど、表情が硬くなっていくのを自覚する。


 額を手で抑えつつ、少し「う〜ん」と唸って考えてから、ポツリと呟く。


「そんなものかなぁ」


「ああ。そんなもんだ。深く考えるな。()()()()()()()()()!」


 しかしその硬い表情も、最後の言葉を口にしたデリバーの顔を見て、一瞬ネイさんと被って見えたことで拍子抜けし呆気に取られた。


(さすがは兄妹だ......)


「やりたいことをやれ」と二人の兄妹から言われ、やはり二人は似たもの同士だなと思う。

 彼らのやりたいこと。それは詳しくはわからない。


「そっか〜」


 スープを飲み干し器をそばに置き、焚き火をぼーっと見つめる。

 何かを考えるわけでもなく、ただ無心でいるだけだ。


 使った食器を片付けるデリバー。

 片付けを済ませた後、今後の予定を話してくれた。


「平原は広い。それに次の目的地は霧の山谷にあるところだ。早くても歩いてあと三日はかかる」


「三日かぁ」


「旅は楽しいが過酷なもんだ。途中、地図に載っている集落に訪れ、そこで民宿に泊まる。明後日の予定だ。他の旅人も寄るところだな」


 高速道路でいうサービスエリアのような場所だろうか。なんだか少し気になる。

 それに民宿までやっている集落なら、何か面白そうなことも見つけられるかもしれない。


 焚き火を見つめながら想像を膨らませていると、デリバーが寝巻きを用意して、その上で大仏のように横になった。


 まだ眠るわけではないのだろうが、時々大きなあくびをしているので、眠気は感じているようだ。


「ウチが起きてるから、安心して寝なよ」


「もう少しだけ起きておくぞ。まだ耐えられる」


 と言いつつ、目を閉じているデリバー。

 アレは「起きてる」と言いつつ寝てる奴がよくやる、結局睡魔に飲み込まれてしまうのと同じだ。


 放っておけば勝手に眠るだろう。

 周囲に何かがいるといった気配は感じない。背中がもぞもぞするような視線も感じない。


(ウチも横になるか......)


 不眠症は不眠症らしく、アンナは焚き火を前にして、特に何も思うことはなく夜を過ごした。

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