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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第一章 旅の幕開け
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とうとう次の街へ出発

 

「元気モリモリ。復活ですっ」


「思ったより早いわ......。流石の回復力といったところね......」


 ネイさんの見立てでは数時間は動けないはずだったアンナ。


 しかしソファで寝ていて僅か三十分未満で、熱が引いて気分がよくなった。


 ソファから起き上がって、久しぶりに空腹を感じてお腹を鳴らす。


「......お腹が減りました」


「アンナちゃんからその言葉を初めて聞いたなぁ.....」


「ほら。朝飯だ。昼前には出発するから、たんと食えよ!」


 デリバーがあらかじめ作っていてくれてたスープ。それと市販のパンとヨーグルトの朝食セット。

 しかもおかずとして目玉焼きとベーコンのようなお肉まである。


 いつもならこんなに食べられないのだが、戦闘で死ぬ思いをし、予想以上のエネルギーを使ったためか、アンナのお腹はかなり空腹だった。


「いただきます」と言って、早速モグモグと食べ始める。

 その様子を傍で見ながら、デリバーが今日の予定を話してくれた。


「今日はギルドに行って、俺が依頼を受ける。途中までネイも同行する」


「いえい!」


 ネイさんがこちらを見て、調子良さそうな様子で、右手でピースしてくる。


 続けて話を聞くと、今回の依頼は重要物の配達任務だった。

 しかも一つだけではなく、同じ街に二つの届け物を持っていくらしい。


 一つはギルドからギルドへ移送する誰かの私品(高級品)。もう一つは街の今後に関わる重要な情報を伝達することらしい。


「なんでも、目的だった街が少々荒れているらしくてな。その手助けとなる情報らしいが、情報の中身まではわからん」


「そんな荒れたところに行くの?」


 どうしてわざわざ危険地帯に足を突っ込むのか。そのことを素直に疑問に思い、食べるのを一時中断して聞いてみた。


 デリバーは「それはだな......」と一息置いて、少々困った様子で教えてくれた。


「一言で言えば情報が集まる街だ。良くも悪くもなぁ」


「良くも悪くも......?」


 なんであそこまで眉間に皺を寄せるのか。最後の一言も色々と違和感を感じる含み方だ。


 それにどうして情報が必要なのか。今後の旅に活かすためなのだろうか。

 色々と聞きたいことが増えてしまったが、今聞いても仕方がなさそうだ。


 思わず左手で頬杖をついて、左目を閉じ右目だけでじっと見つめる。


「ふぅん」


「おっと、そんな顔すんな。言いたい事は大体わかる」


 どうやら無意識に心が表情を繕っていたようだ。

 今のような冷徹にも間違われる、ぶっきらぼうな表情だけは生前と同じく勝手に繕ってしまう。


(そういや生前もこんな癖があったな......)


 友達の話を聞きつつ考え込むと、時たま頬杖をついて片目を閉じ、独特のポーズをとることがあった。


 もしかしたら今までも無意識にやっていたのだろうか。

 身についた癖は生まれ変わっても変わらない。魂というものがあるなら、それに焼き付けられているのだろう。


「とまあ、次の街では俺は情報集めに勤しむ。お前は仕事をこなせ」

「仕事?」


 仕事といっても一体何をすればいいのか。

 この疑問には答えてくれるようで、デリバーが自分の免許証を取り出し、それを指さした。


 それを見て「あっ」と言葉を漏らす。

 つまり、次の行き先にあるギルドで依頼をこなせということだろう。


「一緒に行動しないの?」


「俺には俺のやるべきことができるだろう。それに現地でのスケジュールを緻密に作ったところで、思い通りにいかないことの方が多い。案外、大雑把に行った方がいいってもんだ」


「確かに」


 デリバーの言い分はよくわかる。生前も何度か同じような思いをしたことがあり、その場で臨機応変に対処することが最善の策だった時が何度もあった。

 そういうことならアンナにもできる。


「簡単なやつを複数やってくれ。無論、一人でじゃなく、その場で仲間を集ってもいい。頃合いを見て次の目標を定め、現地で臨機応変に動くぞ。以上」


「なるほど、了解した」


 話し合いが終わり、朝飯も食べ終わった。

 あとは着替えて準備をして、この家を出発するだけ。


「それじゃあアタシも準備をするわ。各々、準備出来次第ここに集まってね」


 ネイさんの言葉をきっかけに、アンナたちは各自で部屋に戻り、荷物をまとめ準備を始めた。




 アンナの部屋。ネイさんから貸し与えられた質素なお部屋。

 本日付けでこの部屋ともおさらばだ。


「あっという間だったなぁ」


 この部屋に来た初日を振り返る。


 デリバーに案内され、なされるがままにやってきたネイさんの家。


 左腕の問題。対話。これからの目標。

 色々なことがあって、実際には数日間と短いにも関わらず、とても長い時間に感じた。


「ありがとうございました」


 部屋に妖精がいるわけでもなく、しかし感謝の言葉を口にせずにはいられなかった。


 買った服や道具。今は使わないものをまとめてバックパックに詰め込み、背中に担いで部屋を出る。

 そしてリビングのソファに座って、他の二人を待つことに。


「よし、これで準備完了!」


 ネイさんが部屋から出てきた。

 続いてデリバーも出てくる。

 全員の準備ができた。


「よし。行くか」


 こうして皆でネイさんの家を出発した。




 やってきたのはギルド総本山。ここで依頼を受けて、街の外に出る。


 アンナとデリバーは一緒に。ネイさんは別の場所で依頼を受けに行った。


「コイツを受けたい。頼めるか?」


「これは......。はい。ではお借りします」


 クエストボードの真ん中あたりに貼られていたにも関わらず、誰の手にも止まっていなかった依頼。

 それを一枚手に取り、デリバーは免許証とともに受付の女性に渡した。


 依頼を見た時の受付さんは少し驚きつつも、丁寧に仕事として手続きをこなすだけだった。

 しかし彼がデリバーの免許証を機械に通したとき、目を丸くしてデリバーをマジマジと見つめたのである。


「あ、あなたがそうでしたか......。ではこちらも?」


「ああ。そういうこった。立て続けに悪いな」


 受付さんの驚く表情。そして何事も内容に受け答えするデリバー。

 訳がわからず、気づくとやりとりが終わっていた。


 受付の女性から大きな荷物の入った袋を受け取り、続いてビー玉のような、透き通った小さな青い石が入った透明の容器を受け取る。


 二つともデリバーがもらって、あとは受付を離れてネイさんを待つのみとなった。


 受付の女性がいまだにデリバーを視線で追っており、それを尻目に見つつ、彼に「なんの話?」と問いただす。


「さっきも言ったろ。俺の追加の依頼だ。コイツは直々の依頼でな。この玉っころを届けろってことだ」


 見たところただのビー玉だ。大きさもなんら特別ではない。


「コイツの使い道は知ってるが、俺たちには必要ない。守り切って届けるだけだな。まあ、こいつに価値があると見抜ける奴なんてまずいないだろうが」


 何が言いたいのかよくわからない。デリバーも特に疑問を持った様子ではなく、ネイさんが来ないかと視線を泳がして待つだけだ。


 そうしてしばらく待っていると、ネイさんも戻ってきた。

 こうして三人で街を出て、各々の目的を果たすべく行動するのであった。

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