表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第一章 旅の幕開け
28/427

帰宅・一日の終わり

 帰宅して早々、アンナは玄関前で靴を脱いで、籠手やらなどの装備を外す。


 血で固まった服が気持ち悪いので、着ていた装備を急いで脱ぐためだ。

 邪魔な装備を脱ぎ捨て、そして上の服も躊躇なく脱ぎ捨てた。


「おぉい!! 俺の前で着替えんなよ!」


「っても、血が気持ち悪くて我慢できなくてねっ! ごめん!」


 とりあえず上の服を全て脱ぐ。

 まるでチョコレートをぶち撒くように、パリパリになったアンナの血が玄関周りに飛び散った。


 これは後で掃除するとして、血が下着すら侵食している。このままだと、赤色の下着になってしまう。

 それに血の臭いが酷い。買ってもらったばっかりなのに、この下着をダメにするのは嫌だ。


「んっ!」

「ちょっ、ばかヤロー!!」


 躊躇いなく上の下着をむしり取るアンナ。思春期の中学生のように、デリバーが両手で目を覆い、「アア〜、変態〜!」と叫ぶ。


「うるさいわよデリバー!! 頭に響くでしょうがァ!!」


 頭を抑えながら、ネイさんが自室から飛び出して来た。髪の毛がボサボサなのを見ると、今まで二日酔いで寝込んでいたようだ。


「だって、紳士として見ちゃったらダメでしょ!」

「おわっ、何がどうなってんの!?」


 兄妹二人してギャーギャーと叫んでいる。

 そんな二人を無視して、ネイは汚れた服を抱えて持ち、ネイさんのもとに行き。

「洗濯ってどこですか?」と上半身裸のまま聞いた。


「あ、アンナちゃん!? どうしたのその血!?」

「ちょっと汚れちゃって。それで洗濯は......」


 全てを言い終わる前に、ネイさんがアンナから衣服を奪い、急いで洗濯室へ。

 そこへデリバーが一枚のタオルを持って、アンナに渡してきたので、受け取ったタオルをさらしのように巻いた。



 騒動も一通り片付いて、結局全ての服をネイさんに預け、アンナは一足早くシャワーを浴びていた。


「うう......。髪の毛に混じったゴミが取れん......」


 何度洗っても、髪の毛を手で揉む度に砂利などのゴミが見つかる。

 その作業の繰り返しにイラつき、久しぶりに地元の訛りが口に出てしまった。


「くぅぅ!! こんな、腹が立つがやけどぉ!」


「アンナちゃん。ここに服、置いとくよ〜」


「あ、は〜い!!」


 今の言葉聞かれていただろうか。聞かれていたとしたらなんか恥ずかしい。


「......髪。短くするかぁ」


 この世界にきた時から、髪は伸ばしたままにしてある。

 この体は髪が伸びるのに時間がかかるようで、放置していても意外と違和感のない長さであった。

 今は腰くらいまで、青い髪が伸びている。個人的な理想は肩くらいまで届くかどうかだ。


「ボブカットにするかなぁ」


 髪に気合いを入れるほど、そこまで心は女子じゃない。

 自分が女という自覚はまだなく、はたまた男かと言われるとそれも違う感じがする。


 前世の自分はもはや遠い存在だと、この世界に来てからつくづく思っていた。


「ネイさん家のお風呂、意外と大きいな」


 シャワーを終えて、足を伸ばして肩まで湯に浸かる。足を曲げなくてもお風呂に体が収まるとは。

 こんなに大きなお風呂、今はないおばあちゃんの家にあった。


「ふいぃ......。はぁ〜〜ん......」


 今日は一段とお風呂が気持ち良く感じる。このまま眠りたいくらいだ。


「少し目を閉じるかぁ」


 左腕を浴槽から出して頭を縁に置き、アンナは目を閉じ瞑想した。




 〜〜アンナがお風呂に入っている間のこと。

 デリバーとネイは「対アンナどうしよう会議・第二回」を、テーブルを挟んでお互い正面に向き合って開催していた。


「それで。見てたんでしょ? あの血はどうして......」


「ああ。ありゃ、アンナが首斬られたせいだ」


 心配するネイに、あたかも「斬られたらそうなる」と当然のようにとんでもないことを言うデリバー。

 ぶっ飛んだ発言を耳にし、一瞬呆けていたネイは、兄が真実を言っているのだと理解すると。


「なんですと!? アンタなら危険な真似はさせないと思って頼んだのに、何死なせる思いさせてんの〜〜!」


 首元の服を掴み、ぶんぶんと体を揺さぶり始めた。

 揺さぶられながらも「まあ落ち着け」とネイを宥めて、どうしてそんな無謀なことを許したのかということに対し、デリバーが自分の見解を説明する。


「アンナは過去に臓器が吹っ飛ぶほどの傷を受けて、それすら再生したらしい。その話が本当かどうか確かめたくてな。首を斬られるとわかってても、あえて割って入らなかった。あと実力も測っておきたかった」


「でも死んでたらどうしたのよ!」


 確かにネイの言う通りだ。アンナの言っていたことが嘘だったら、あの場でアンナは死んでいたことになる。


 しかしデリバーだってただの人間じゃない。強さだけなら上位種と自負しているように、首を斬られて死にかけていたとしても、助け出す手段は持っていた。


「もしもの責任は果たすつもりだった。()()()を応用してな。だから......わかるだろ?」


「うっ......」と何かを言いかけていたネイも、不服そうではあるが、これ以上の追求は無駄だと分かってか黙り込む。


 二日酔いもだいぶマシになったとはいえ、アンナとデリバーの無茶がいつか身を滅ぼすかもしれないと想像する。

 悩みの種が一個増えた結果、ネイは自身の頭痛が酷くなっていく感じがしたように思えた。


 いや、身を滅ぼすかもしれないというのは間違っている。正確には、間違いなく——


「っ、ああ。頭、痛いわぁ......」


 今きいたこと。そして未来視で知ってしまったこと。色々な情報がごっちゃになって、ネイは頭を抱えた。


「すまん」と反省したのかしてないのかわからない調子で謝る兄の声が聞こえて、顔を上げる。

 何のつもりか。悩んでいるのはお前のせいでもあるんだぞと訴えるようにジロリと睨み返し、その視線を受けてネイの気持ちを察し、デリバーは話題を変えて宥めようとする


「まあまあ。アンナが風呂から上がったら夜飯にしよう。今日は俺が作る。と言っても、鍋料理だがな」


「うわ。効率飯だ」


「おいおい、美味いからいいだろ別に」


 もう夜飯の準備にしないとならない時間だ。

 ネイはもちろん、デリバーの両者とも時間の流れを早く感じていた。大人になれば、子供の時には無限に感じた一日すら、全て自分で計画できるようになるとあっという間だと感じる。


(それにしても、もうそんな時間かぁ)


「んん? なんも入ってねえな」


 デリバーは席から立ち上がり、冷蔵庫の中を勝手に見て漁る。

 人様の冷蔵庫を覗いて失礼な物言いだ。

 冷蔵庫を閉めて「全く......」と口うるさい母親のように振る舞うデリバーを見て、ふといたずら心が働き、少し冗談を飛ばしてからかう。


「いやんエッチな男」


「冷蔵庫に興奮する奴がいたら是非あってみたいねぇ」


「あら、違うの?」


「ちょっと口を閉じてろバカ」


 隙あらばくだらない冗談を送ってくるネイ。こんなくだらないことを何度も繰り返してきた関係なのだ。

 適当にあしらいつつ、冷蔵庫の中には大した物が入っていないことを確認したので、買い出しにいく必要がある。


「よし。買い出しに行ってくる」


「じゃあアタシはアンナちゃんと談笑しちゃう。嫉妬しないでねっ!」


「うるせえ二日酔い」と言い返しながら、メモ用紙に買うものを記載。

 マイバッグを手に持ち、デリバーは家を出発した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ