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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第一章 旅の幕開け
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女子会......?

「いやね、一度してみたかったのよ女子会!!」

「ふぅ......。良いコーヒーだぁ」


 一人で盛り上がるオッドアイさんの話を聞き流しながら、アンナはカフェの一角でコーヒーをすすっていた。


 二人でやってきたのは、落ち着いた雰囲気のカフェ。サンドイッチはもちろん、デザートも充実している。

 オッドアイさんの奢りと言われたが、お腹が空いていないのでホットコーヒーを一つだけ頼んだ。


(コーヒーの味は一緒か......。ま、あるだけ助かるな)


 まさか別世界でコーヒーを飲むことになるとは。しかも前の世界と変わらない香りと味だ。コーヒー好きとして嬉しいポイントである。


「それにしてもアンナちゃん、ブラック飲めるんだぁ。アタシなんてミルクないと無理よ〜」


「それでオッドアイさん」


「ああ、オッドアイでもいいけど、アタシの本名は別にあるんだ。アタシの名前はネイ。ネイ・フィリム。好きな方で呼んでね」


 流石にオッドアイというのは本名ではないと思っていた。

「ネイさん」と改めて呼び直し、本名を呼ばれたオッドアイことネイさんは「なぁに?」と聞き返す。


「なんでウチにこんな格好させたの」


 久しぶりに感じる羞恥心。その理由は、ネイさんに着せられた新しい服のせいだ。



 見た目は超カジュアルな感じで、ありえない丈の短いズボンを履かされている。確か「ホットパンツ」という名前だったはずだ。


 しかも外の気温は恐らくだが10℃から15℃くらいの間なのでかなり寒い。感覚がイカれてるアンナじゃなかったら「おしゃれは命より大事!」とか冗談かましてても着られない。


 靴は意外に普通でただのシューズだ。おかげで歩きやすく、靴擦れはしていない。


 しかし問題は上の服である。肩出しでおへそが丸見え。左腕を隠すためのグローブと布、そして外側からの接触を防ぐために、左腕に薄い鎧を装備させられた。


 鎧を固定するために左腕にいくつかベルトを巻いているので、少々動かしづらい。



「んん? 利便性とアタシの趣味だけど。本当はその鎧は着せたくなかったんだけどねぇ」


「そ、そうですかっ......(腕の恩もあるし、とやかく言いづらい!)」


「可愛い子には可愛いもの着せたくなるの。ごめんねぇ〜」


 別に謝る必要はない。結局この服に着替えることを選んだのはアンナなのだから。

 それに今着られる服はこれしかない。借り物の服を着て街に出ているのだ。逆に感謝しないといけない立場なのだが......。


(たまに感じる視線が......)


 この街に来た時より明らかに注目されている。道を歩いていると、時々誰かの視線を感じるのだ。


 それを自覚しているからこそ、いくら自分に興味がないアンナでも視線を集めることに耐えられない。


 街を歩いているとき、同じように寒さに耐えておしゃれをしていた男女は何人かいたし、生前にも見かけたことがある。正直よくあんな格好できるなと思っていたのだが、まさか自分が同じ土俵に立たされるとは思ってもいなかった。


「は、恥ずかしい!」

 羞恥心が蘇り、顔を真っ赤に染めて思わず手で覆い隠す。


「まだまだ子供だねぇ。こんなの序の口だよ」とネイさんに言われ、内心「生前オシャレしたことねえもん!」と言い返した。


「それでアンナちゃんや。君はデリバーと出会ったばっかなんだってね。どう、君のピュアな眼差しから見るアイツ!」


 やけに盛り上がっているネイさん。どうと言われても、頼れる兄貴くらいにしか思っていないのだが。

 素直に思っていることを伝えると、「へぇ」と面白そうに頷くネイ。


「それじゃ、今でに好きになった人は?」


 今まで恋愛経験もなく、終いには興味が失せたまま生まれ変わったのだ。話せることなど何もない。


「いないです」


 申し訳ないがここは正直に伝えると「そっかー、今からってことねぇ」と何やらよくわからないことを言っている様子。今から誰かを好きになろうにも、恋愛がわからないのは生前と変わっていない。


「あの、さっきからなんなんです? まるで女子会みたいな......」

「女子二人で飯に行けば女子会よ! 本にも書いてあるでしょ?」


「か、書いてないと思う......」という言葉をグッと飲み込み、心の中で吐き出す。

 アンナも女子会の定義を知っているわけではないが、人によって認識が違うのだろうか。


(そういえば昔、ラーメン屋でおばさん四人の女子会を目にしたなぁ)


 女子会と聞いてかつてのどうでも良い記憶が蘇る。おばさん四人が、すぐに食べないと伸びるラーメンを、一本ずつ丁寧に啜っていたのだ。

 お前らが食べているのはパスタじゃないんだぞと、遠目ながら変な現場を目にしてしまった時のことだ。


 アレと比べると、今の状況は女子会なのかもしれない。

(女子二人で集まれば女子会。男と女が出歩けば一応デート。ふうん、難しい)


 他人の交流は遠巻きに見て観察するタイプだった。アンナには縁遠い話だと思ってたので、まさかその観察対象と同じことをすることになるとは。

 おかげさまで会話の流れも掴めず、一方的に話の腰を折るばかりである。


「でもウチに話のネタなんてないです。それより、色々と教えて欲しいんですけど......」


 コーヒーを飲み干してしまい、既にこの店に止まる必要も感じなくなったアンナ。

 自分勝手なのは自覚しているが、自分が聞きたいことだけ聞いて、このあと予定していることを済ませたい。これ以上話を続けられるとは思っていないからだ。


 しかしコミュニケーション能力が絶望的なアンナを、対照的にコミュ力抜群のネイが引き止める。


「答えてほしいならアタシの質問に答えてからね。ほら、好きな飲み物頼んでいいからさ」


 どうやら解放してくれる気はないらしい。

 仕方ないのでコーヒーを一杯頼み、そうしてしばらく談話に付き合ってあげた。



 話のネタは恋愛から始まり、続いてネイさんの生い立ち。デリバーとの関係についての軽い説明を挟んでくれた。


 ネイさんはこの世界に生きる一般人の子供として生まれ、生来持っていた性格の明るさと頭のよさがそのまま成長。

 今は自分で作り出した商品を売り出して、一人分の生活費を稼ぎつつ、結婚するなら誰かなと考えているらしい。


 そしてネイさんは父親がデリバーと同じで、母親が違うらしい。つまり生き別れの兄弟という考察は当たっていた。それでも歳は三つ違うらしい。


「でもアタシが優秀だったからね。入学して半年でデリバーと同じ学年まで飛び級したの」


 年齢が離れているのに一緒に過ごすことが多かったのは、飛び級したかららしい。正直、ここまですごい人だとは思っていなかった。


 そして二人とも同じ学園で学び、そしてたまたま出会った。

 お互いただの友人とは思えないほど気が合い、何年も一緒に過ごして、そしてついにデリバーがさりげなく告白。その時のセリフは「お前といると楽しいんだ。だから、これからも一緒にいて欲しい」だそうだ。


 しかしデリバーが告白したのを知ったネイの父親が、デリバーを一眼見て、昔捨てた息子と確信。そこから関係が拗れてしまったという。

 今は修復済みだが、お互い兄妹という認識が強いらしく、デリバーもあの時の恋愛感情は実は家族愛だったではとすら疑っているとか。


(だから髪の色とか身長の高さとか、似ているなと感じたのか)


 デリバーと似た色の銀髪、そしてガタイの良いデリバーとスタイルの良いネイさん。身長も二人とも同じくらい。違うのは目の色だけだ。


「さあ、次は君の話をしておくれよ。アンナちゃん?」


「ウチか......。そうだなぁ」


 デリバーに話したことと同じような内容をそのまま伝え、簡潔に話を終わらせる。


「ほうほう。兄弟思いなのねぇ」

「あの、そろそろ......」


 すっかり二杯目のコーヒーもなくなってしまった。

 流石に時間をかけ過ぎたと自覚したのか、ネイさんも「ごめんね」と一言謝り、足早に会計を済ませる。


 店を出て次に行く場所。それはアンナのために服屋へ行くことだ。

 本当はデリバーと一緒に行くつもりだったのだが、デリバーがネイさんにその話をすると「アタシに任せて」と引き受けたらしい。


「流石に女物はアタシの方が知ってるからね。さ、二、三着くらいまでなら許容するよ!」


 お言葉に甘えて、自分が好んで着れるおとなしめの服装一式、身につける装飾品を少し、そして変えの下着をいくつか選び、手短に済ませた。



 両手に荷物を持ち、街中を少し歩き回ったり、買い食いに付き合ったり寄り道して家に帰る。

 一日はあっという間だ。カフェに行って、服を選んで、歩き回っただけで夜が訪れる。


 生前もそうだった。仕事中は一日が長いと感じ、休みの日はあっという間に終わってしまう。

 あの喪失感を毎度味わうのは中々辛かった。


「たっだまぁ〜!」

「お邪魔します」


 家に着き、両手の荷物をそっとおろす。アンナに疲労は溜まっていないが、ネイさんはくたびれてしまっている。

 そして部屋を見渡し始め、デリバーがまだ帰ってないのを確認している。

 何をするのかと思えば、突然下の服を脱ぎ捨てて、下着をもろに晒け出した。


「何してんですか」


「んんん? どうせあいつ遅いだろうし、今は女だけでしょ? 本当はいつも一人暮らしだから、休みの時はこうやって服は脱いでんのぉ〜」

(仕事に疲れた親父みたいだ......)


 とはいえ言いたいことはものすごく共感できる。


(ウチもたまにめんどくさくなって、ああやってパンツだけで過ごしたこともあったなぁ)


 一人暮らしの末路はこうなるものなのだろうか。

 下着姿でソファに寝っ転がるネイさん。寝ていたと思えば突然飛び跳ねて起き上がり、アンナの方に向かってくる。


「そういえば寝るところ用意してなかったね。こっちの部屋が空いてるから、好きに使って」


 荷物を持って案内された部屋に入る。ベッド一つと小さな机があるだけで、あとは何もない。ゲストルームという感じだ。

 部屋の大きさは六畳くらい。かなりキツキツである。


「それじゃお風呂の準備するね」

 そう言って出て行くネイさん。部屋には一人きりになった。


(一人は久しぶりだな)


 デリバーと出会う前は森の中で一人だった。その時からずっと誰かと一緒にいる。

 他人と一緒に過ごす時間の方が短いはずなのに、どうして一人きりを久しぶりだと感じているのか。デリバーと出会ってまだ二日ちょっとしか経っていないのに。


「......人間って不思議だなぁ」


 少し硬いベッドに座り、鎧とベルトを外してラフな格好になり、ベッドに仰向けで寝る。

 そのまま天井の木の板を見つめながら、お風呂の準備ができるまでの数十分間、ぼーっとしていた。

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