取り敢えず建国した俺は暇を潰すため敢えて優勝する事にした。
「痛い! 光の剣痛い!」
足元を氷で固められ二刀流でフルぼっこ状態の俺。
超反応でくそ重いツヴァイハンダーを細かく刻み、なんとか直撃は防いではいるが……。
「やはり固いねカズトは……!」
デボルグにも言われた台詞を吐いたユウリは一瞬のうちにバックジャンプ。
そしてノーチャージで魔法を発動。
「全ての闇を払う力をここに! 《シャインイクスプロウド》!」
俺の胸の前に光が凝縮する。
おいこれやヴぁいやつやろ!
「くそ……! 《激震》!」
咄嗟に《陰魔法》を発動。
振動と共に俺の足を凍らせていた氷と共に闘技場の床に大きな亀裂が入る。
それと同時に光の爆発が俺を襲う。
「……」
静まり返る会場。
あまりの戦闘に誰一人として声を発するものはいない。
「いっつっつっつ……。またこの《光魔法》かよ……。滅茶苦茶痛いんだよこれ! ああ! また新調したばかりの服が……!」
以前の大会でアルゼインに食らった時のような直撃は避けたが、ノーチャージで発動しやがったせいで逃げる暇は無かった。
くそ……! マジで強ぇぜユウリの奴……!
上級職である《魔道戦士》並みの戦闘力にチートスキルである《二刀流》?
さらに2種類の属性魔法を同時に使いこなす未知なる新職業の《双魔剣士》?
おまえ何者だよ!
「……この『強さ』と『固さ』……。そして弱点属性の《光》と得意属性の《陰》……。それにその《ツヴァイハンダー》……。まさか本当に君は――」
ユウリが真面目な表情で俺を見やる。
くそ、流石にそろそろばれるか……!
なら隠しておく必要は無いかもな……!
なんか負けそうだし。
俺は《ツヴァイハンダー》を投げ捨て、アイテムウインドウを開く。
「? 何を……?」
ユウリの疑問を無視し、アイテム欄から2種類の片手剣を選択。
一つは街の武器屋で買った『豚牛猿の牙剣』。攻撃力5。
もう一つは《アゼルライムス》からダッシュで帰ってくるときにモンスターがドロップした『錆びた鉄剣』。攻撃力3。
俺はそれらショボイ片手剣を両手に装備。
「《二刀流》……!! やはり……!!」
ユウリの表情が変化する。
歓喜に満ちた様な。
それでいて好敵手に出会ったときの様な狂気にも似た『表情』に。
「……《ツーエッジソード》……」
攻撃力が2倍に跳ね上がる。
総攻撃力はこれで16に。
「……《弐乗》……」
身体の底から力が湧く感覚が俺を包み込む。
これで攻撃力は16の二乗で256に。
大した攻撃力では無いが1よりは遥かにマシだ。
「取り敢えずこれが今の俺が出来る『本気』の装備だぜユウリ……!」
言ったと同時に地面を蹴る。
「くっ……! 《アイスソード》! 《シャインソード》!」
ユウリも氷と光の二刀を装備する。
《二刀流》対《二刀流》。
当然会場は――。
『わあああああああああああああああ!!!』
「うるさっ! 歓声うるさっ!」
《スライスカッター》と《ラインスラッシュ》を同時に繰り出しながらも毒を吐く俺。
「早い……! くっ……!」
なんとか攻撃を凌ぐユウリ。
嗚呼、良い匂い…………はっ!
「《ダブルインサート》!」
両手の剣を蟹鋏の様に繰り出すユウリ。
ギリギリで避けるが返す刃により髪が切られ三つ網がいくつか解けてしまう。
「女の髪を切りやがっててめぇ!」
匂いで油断を誘われた俺が悪いんだけどね!
逆手に持った『豚牛猿の牙剣』と『錆びた鉄剣』を全身を使って回転させ奇襲。
よろめくユウリ。
「くっ……! 《シャインソーサ――》」
「させるかよ!」
《光魔法》をノーチャージで使用される前にダッシュで間を詰める。
嗚呼……また良い匂いが……。
「《ゲートフリーズ》!」
「しまっ――」
再度足元を凍らされる俺。
既に次の魔法を準備しているユウリ。
「これで終わりだカズト……! 《光氷斬貫雨》!!」
《光魔法》と《氷魔法》を同時発動するユウリ。
俺の頭上には数え切れないほどの先の尖った氷柱と光の剣が――。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
咆哮し足元の氷を物理破壊する俺。
降り注ぐ氷と光の雨の中、ユウリに再突進する。
ガキン――!
「う……」
俺の全力の突き攻撃を光と氷の二刀で受け止めたユウリ。
だが――。
パリン!
と音を立て、崩れていく二刀の魔法剣。
奴の腹部には深々と俺の剣が――。
「……はは、最後まで君は……」
気を失う寸前にそう笑ったユウリ。
いや、マジでお前は強かったよ。
いずれお前が《勇者》になって、勇者の剣である《聖者の罪裁剣》を装備すると思うとぞっとするよ……。
「当然だろ? お前を殺したら優勝にならないだろ」
剣の柄の部分がユウリの鳩尾にめり込んでいる。
咄嗟に刃の部分に持ち替えて打突したから俺の掌は剣の刃で切れちゃったけど。
でも大した傷じゃない。
攻撃力一桁の剣なんて掠り傷にもなりはしない。
「優勝……おめでとう……。麗しの……女王……様……」
そのまま前のめりに倒れ気絶するユウリ。
ハラリ。
「うん?」
何かが俺の顔から地面に落ちる。
それは変装用の黒の眼帯。
あ――。
『か……カズハ・アックスプラント……様……?』
主審の声が会場中に広がる。
静まり返る場内。
そして徐々にざわつきが大きくなって――。
『《戦乙女》!!! カズハ・アックスプラント様ああああああああ!!??』
「あー……」
ばれてもうた。
でもいいか。
優勝したし。
その後の俺が、表彰式終了までどんな目にあったかは想像に任せるとして――。




