取り敢えず建国した俺は暇を潰すため敢えて叫び出す事にした。
「さて、じゃあ出発すっか」
次の日の朝。
飲食街で朝食を済ませた俺らは大通りから西門へと向う。
「とても良い街でした。特にあのモンブランプリンなんて最高なのでしたぁ」
「お前きっと食い物の思い出しか残らないように出来てるんだろうな……。その頭ん中は……」
西門から街の外に出る。
「エアリー? お前も闘技大会に参加するってくらいなんだから、ある程度は戦えるんだろう?」
「当然なのです。私はエルフ族の中でも37番目に強い戦士なのですよ? カズハ様ぁ」
……なんか微妙な順位だな。
しかし昨日エアリーにマッサージをして貰った時にも感じたことだが、あのうつ伏せの体勢で俺が『身動きが取れなかった』という事は、それなりに相手を捕縛する能力に長けているという事なのだろう。
今までの人生で直接エルフ族と戦った事は無いから能力も未知数だし。
(……やっぱまだまだ知らない事っていっぱいあるもんだなぁ。『3周目』でも……)
しかも先の《精霊王》の一件でもそうだが、俺の知る過去2回の前世とも大きく内容が変わってきているのも事実。
あんまり調子こいてると足元を掬われかねないかもな……。
「……あ。そういえば、カズハ様はそのまま『ご変装』されて闘技大会に参加されるのですよねぇ」
エアリーがぴょんぴょんと跳ねながら俺の前方に回り込み聞いてくる。
既に俺は長髪の何箇所かを細かく三つ編みにし、左目に黒の眼帯を付けた格好に変身済み。
これである程度は観衆を欺く事が出来るだろう。
「うん。そうだけど」
「なら呼び名はどうしたら宜しいでしょうかぁ? 『カズハ様』では名でばれてしまうのでは無いのでしょうか?」
「あー……確かに。じゃぁ……これからは『カズト』って呼び方変えて貰っても良いか?」
和人。
懐かしいな、俺の本名。
「カズト様、ですね。では私の事は『エリト』で宜しくお願い致します」
「お前は偽名使う意味があんのかよ!」
「うぐぅ、何か……ちょっとカズト様が羨ましくなってしまいまして……しゅん」
勝手に落ち込んだ様子のエアリー。
いちいち姉の真似をする妹みてぇな奴だな。
エルフで犬で妹か……。
需要が出来る事に期待しよう。
「ま、取り敢えず気ー抜くなよエアリー。《エーテルクラン》までの道中もモンスターが結構出て来るからな」
「は、はいなのです! 気合入れて行くのでありますぅ!」
ちょうど良い。
《エーテルクラン》までの長い道中でエアリーの戦力を見極めさせて貰うとするか……。
◆◇◆◇
「えい」
『ギュワアアアア!!!』
「自然の敵は私の敵! 環境破壊は許しません! 《ウッディ・エッジトラスト》!!」
エアリーの詠唱と共に地面から何本もの尖った木が出現する。
『ギャンッ!!』『ゴエエエエ!!!』『キュキュンッ!!!』
直線状に並んだ3匹のモンスターに次々と突き刺さる鋭利な剣先。
「おお、エアリーは《木魔法》かー。……でも環境破壊してるのお前の方っぽいけどな」
俺は穴だらけになった地面を見て1人呟く。
「私が……森を愛するエルフ民族である私の方が……環境破壊………しゅん」
「あ」
戦闘中に地面に『のの字』を書き始めたエアリー。
やっぱり……馬鹿なのかも知れないぞこいつ……。
体育座り真っ最中のエアリーに四方からモンスターが飛び掛ってくる。
「ああもう! 仕方無ぇなぁ……! 《フルスイング・インパクト》!!」
エアリーに飛び掛る4匹のモンスターにダッシュで近づいた俺は直前で一回転して大剣の《スキル》を発動。
遠心力と腕力を全て《ツヴァイハンダー》に注ぎ込み、全力で大剣を振り抜く。
「ぶっ飛べ阿呆ども!」
カキーーーーン!!
モンスターの叫び声を聞く間も無く、遥か彼方にすっ飛んで行くモンスター達。
せいぜいお月様でウサギさんと餅つきでも楽しんできな。
「……環境破壊……」
「戦闘中に凹むなアホ! ああもう! のの字書くの止めなさい!」
「……森と共に歩む筈のエルフが……」
「・・・」
やヴぁい。本気で凹んでるっぽい。地雷踏んだのは俺か?
「……《エーテルクラン》に着いたらケーキを奢ってあげよう」
「カズト様! 何をやっているのですかぁ! 一刻も早く《エーテルクラン》に到着してエントリーを済ませなければっ! ケーキを食べてからっ!!」
……うん。
エルフ単純で良かった……。
◆◇◆◇
2日後――。
『闘技場のある街《エーテルクラン》:城門前』
「おい! そこのお前ら!」
街の門の前で重鎧に身を包んだ二人の兵士が長い槍を交差させて道を阻む。
ていうかこいつ等見覚えあるぞ……。
確か『あの時』、俺とアルゼインの全裸を拝んで鼻血噴出してぶっ倒れた奴らじゃん……。
生きてたんだ、良かったね。
「どこの街からここに来た! ここはこの国一番の厳重な警備で知られる闘技場のある街――」
「はわわぁ……何だか怖い門兵さんなのですぅ……」
エアリーが俺の後ろに身を寄せるように隠れる。
「うむ/// 可愛いのである///」
門兵の一人が鼻を伸ばす。
おい。
「なななんと! これは珍しい……! お嬢さんは『エルフ族』の方とお見受けした!」
もう一人の門兵が物珍しそうにエアリーをガン見する。
俺のペットを厭らしい目で見るなハゲ。
「は、はいなのですぅ……。あの……私達は闘技大会に参加する為に……その……《オーシャンウィバー》の街から……」
完全に怯えながら俺の背に隠れながらも答えるエアリー。
なんだ……? 男性恐怖症か何かか……?
「おい、お前ら、あんまりこの子を――」
じろじろ見てくる二人の門兵に注意をしようと声を掛ける俺。
「合格! 通って良し!」
「へ?」
「あ、有難う御座いますですぅ……」
「「可愛い!!///」」
「・・・」
なんか、なんだろう。
俺が初めて《エーテルクラン》に来た時は、門兵は俺の姿にメロメロだった気がする。
しかし、今はどうだ。
この2人の門兵は完全に俺を無視し、背後に隠れているエアリーに夢中な御様子。
いや、別に俺もキャーキャー言われたい訳じゃないんだよ?
でもなんか、こう、思いっきり俺の存在とかスルーされると……。
いや、確かに眼帯とかしててアレだけどさあ、髪も伸びたしちょっとオサレに三つ編みとかしてるのにさぁ……。
……あれ、なんか俺嫉妬してる?
いやいやいや、ナイナイナイ。
俺は男だ。何故女のエアリーに嫉妬する?
それヤヴぁいだろ。
え? 俺、男にモテたいとか本心では思っちゃってる?
え? やだ。なにそれ怖い。
この『女』の姿になってそろそろ1年が経とうとしている。
もしかして俺……だんだん心までもが『女』に変わって行ってしまってるのだろうか。
それはマズイ。色々マズイ。色々怖い。
どうしよう……男が好きになっちゃったら……。
え? グラハムに恋心抱いちゃうとかゼギウスのじじいに囲われたいとか思っちゃうのか?
ヤヴァい、吐き気がして来た。
叫びたい、叫びだしたい、もう止まらない――。
「カズト様ぁ?」
門兵をやり過ごした俺は周りに人がいない事を確認し、大きく息を吸う。
そして、こう叫んだ。
「アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」




