レインハーレインの変態日誌。
「カズハ様ぁ///? 我があるじ、カズハ・アックスプラント様は何処にぃ///?」
城中を隈なく探しても何処にもいらっしゃらない私の、私だけのカズハ様。
せっかく美味しいお茶を淹れて差し上げたというのに、一体何処に行ってしまわれたのでしょう。
これでは私の愛情をたっぷりと注いだ愛のお茶が冷めてしまいますわ。
……ああ、そうですわ!
こうなったら私のこの甘美で麗しい柔肌で温めながら……///
「……おい。そこの変態。なにやってんの?」
「きゃっ/// ……い、居らしたのならそう仰って下さいカズハ様。危うく私の豊満で傲慢な胸の谷間が火傷する所でしたわ」
洋服をずらし胸の谷間からどうにか茶を零さずにカップを取り出す私。
柔肌計画、どうやら失敗してしまったようですわね……。
「……相変わらず言っている意味が分かんねぇし。ていうか一体どっからお茶を出してんだよレイさん……」
「え? 『私の身体の何処からお茶が出てきたのか詳しく聞きたい』、と。今そう仰いましたか?」
「言ってねぇし! ……あ、いや、言ったか……? てかそんなんどうでもいいの! 今忙しいの! 大変な時なの! この城の中、みんな馬鹿ばっかりで俺超困ってんの!!」
なにやらプンスカしながら私の横を通り過ぎてしまわれたカズハ様。
ふむ、これはだいぶご立腹されておりますわね。
ここは私が身を粉にしてでも熱い愛の籠もった抱擁をして差し上げなければならない時なのではないのでしょうかっ!
「……レイさん。一ついいかな?」
今、まさにこれからダッシュからの大ジャンプでカズハ様に飛び掛かり。
そしてそのまま倒れ込むようにして愛しのカズハ様に抱き付こうとしたその瞬間。
私を振り向き声を掛けて下さるカズハ様。嗚呼、その横顔も美しいですわ。舐め回したいくらいに。
「はい♪ 如何いたしましたでしょうか? 何でも仰ってくださいな♪///」
カズハ様に羨望の眼差しを向け、期待に胸を躍らせる私。
嗚呼、一体どんなプレ――御命令を下してくださるのかしら、カズハ様は……!
「…………言わなきゃ駄目?」
「……はい?」
顎に手を乗せ、まるで私の全身を舐め回すかのような視線を送るカズハ様。
嗚呼っ! もう私! 蕩けてしまいそうですわ……///
「……じゃあ、一応突っ込んでおくね」
「つ、突っ込んで……!/// いいい一体、どんなモノを……!?」
何ということでしょう!!
まさか、カズハ様……? そういうことですか! そうですよね!?
きっとそうに違いありませ――。
「なんで、裸エプロンなんすか……」
「…………へ?」
予測していた回答とは違い、私の期待感は見事に総崩れしてしまいました。
……いや違う。違いますわ。これはそう、恐らく『プレイ』の一環。
カズハ様の中には本人もまだ理解していない壮大なSっ気があることを私は見抜いておりますの。
ええ、そうです。そのはずですわ。私はカズハ様のことは誰よりも理解しておりますもの……!
「……レイさん? さっきから涎がお茶の中にポタポタと――まあいいや」
そのまま踵を返してしまうカズハ様。
私は我に返りすぐさまカズハ様の後を追いかけます。
「ああッ! お待ちになってカズハ様ぁ!! このエプロンの柄ですね!? この柄が気に入らなかったのでしょう!? 今すぐ別の物に着替えますからぁ! 嗚呼、待ってぇ! お待ちになってぇぇぇ!!」
◇
別の日の深夜。
ここユーフラテス公国の最果ての地に建てられた臨時の城であるアックスプラント城では、依然として厳戒態勢が敷かれたままであった。
無法地帯でもあるこの最果ての地において、ユーフラテス公国の宰相から借り上げた土地に急遽建築された臨時の城。
城と聞くと耳当たりが良いが、元々放置されていた砦を改装し城として使っているに過ぎない。
国土の譲渡交渉もまだ正式にはユーフラテス側と話の決着が付いていない状況に、カズハ様は苛立ちを募らせていた。
――私は考える。
そうだ、こういう時にこそ私の出番ではなかろうか。
カズハ様の身も心も同時に癒して差し上げる――。
そのために私はアゼルライムスの街を出て、こうやってカズハ様の元に召し仕えているのだから。
寝室を抜け出した私は、忍び足のまま閑散とした城内を迷うことなく進んで行く。
きっと今頃カズハ様はルル様と一緒に御就寝されているはず。
……と言いますか、ルル様のポジションを私に譲って下さいませんかね。
あの『精霊王』との戦いの一件以降、一気に距離が縮まった御様子のお二人。
毎晩毎晩一緒のお部屋で夜を過ごし、あろうことかそのまま一緒のベッドで寝ておられるなんて……。
どうにも納得がいきませんわ。私という者がありながら。
「(……はっ! ま、まさか……! カズハ様は『そっち系』のご趣味が……! いけません……! いけませんわ! カズハ様……!)」
思い返せばカズハ様はこれまでも何度か公衆の面前でルル様にハグを迫っていらっしゃいましたし……。
周りの者はみな一種の愛情表現だと理解している様子でしたが、それはなりません、なりませんよカズハ様!
何故なら私――『幼女』には何一つ太刀打ち出来る要素がありませんからぁ!!
一般の女子に比べて背丈が高くスタイルも抜群。
はっきり言ってその辺の女とは比べ物にならないモノを持っている自覚がありますもの。
剣の腕もカズハ様に認めていただいている私は、いわば才色兼備とも言えるでしょう。
それが、寸胴で、ちっぱいで、小さくてひ弱で可愛らしくて、スク水が似合いそうな幼女が相手となればどうあがいても勝てるわけがないでしょうが! 種目が違いますもの! ちくしょう!
「(……いけませんわ。このまま夜這をかけたところで、私にはルル様に勝てる要素が御座いません……)」
完全に自身を喪失した私は立ち止まり、そっと涙を拭いました。
こうなったら私の出来る事はただ一つ――。
意を決した私は顔を上げ、再び自室へと戻るのでした。
◇
「……ん。……あ……ルル? どうした? おしっこか……?」
人の動く気配を感じた俺は目を擦りながら身を起こします。
薄く目を開くと辺りはまだ真っ暗。ということはまだ深夜だということです。
城の警備はグラハムとアルゼインで交代で見てもらってるからぬかりは無いはずなんだけど……。
「……起きてしまいましたか、カズハ。目を覚まさない方が幸せだったのでしょうが」
「?」
そう言ったルルは何故か深い溜息を吐きました。
俺は何が何だか全く分からないまま枕元にある灯篭に火を灯します。
そして信じられないモノを目の当たりにし、絶句しました。
「……か、カズハ様ぁぁ/// こ、こんなんで如何でしょうか……///?」
――そう。何故か目の前にはレイさんがいました。
「……レイさん。なんで俺の部屋にいるんですか? という質問は後に回すとして……。何なんですか、その格好は……?」
どう考えてもサイズの合わないゴスロリっぽい服。
大きめの熊のぬいぐるみ。
おやすみ帽子みたいなのも被ってる。
そして極めつけはゴスロリ服の隙間からスク水っぽいのがチラチラと見えている。
口にはおしゃぶりまで咥えてるし……。完全に意味わからん。どうした。この人は。
「は、ハグして下さい……/// カズハ様ぁぁ///」
「嫌です」
「!!! ……そ、そんなぁ………………がくっ」
愕然とした表情を浮かべたレイさんはそのまま膝から崩れ落ちました。
うん。なんなの。誰か状況を説明してください。
「……どうしてカズハの周りには、こういった変な人ばかりが集まって来るのでしょうか……」
「本当だよなぁー……って、おい」
そんな、レイさんの――変態日誌。




