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私のキャンパスライフは百合展開を避けられないのか?  作者: 平井淳
第六章 追跡者の野望編

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五 住居

感想をお待ちしております。

 「ところで、私はこれからどうすればいいのですか? お姉さま。人間界で暮らせと言われましても、住むところがありませんの」


 メアリーは困った様子で言った。

 そういえば肝心なことを考えていなかった。彼女の住む場所について何も決めていなかったわね……。


 アンネは留学生として私の自宅にホームステイしている。というか勝手にそういう設定にされてしまった。この私の了解なしに。


 「そうですわね……。では、あなたに手頃な家を私が用意しますわ」


 アンネが言った。彼女はまた魔法を使うつもりなのだろうか。


 「どうやって用意するつもり? 魔法で家でも建てるの?」

 

 念のために質問する私。

 彼女ならば、村松教授の家を凌駕する大豪邸を一瞬で作りかねない。


 魔法の乱用が住宅格差を助長することもあり得る。そんなことになるのは許せないだろう。特に私が。


 メアリーが私よりもでっかい家に住むのは気に入らない。要するに嫉妬だ。


 「新しく建てる必要などありませんわ。空き家で十分ですの」

 「空き家……? そんな都合よく見つかるかしら。それに、空き家だって購入するのにお金がかかるのよ? 言っておくけど、魔法でお金を密造するのはナシね? それ犯罪だから」

 「あら、それは困りましたわ。でしたら、やはり新築を建てるしかありませんわね」


 新築か……。結局そうなってしまうのね。

 

 「素敵なお家をお願いします、お姉さま! プール付きで大きな庭とバルコニーのあるお家を所望します!」

 

 メアリーは目を輝かせながら、色々と注文を付けた。魔女も家にはこだわりを持ったりするらしい。


 「甘えてはいけませんわ。あなたは修業中の身ですの。贅沢な環境で暮らせると思うのは大間違いですわよ」


 厳しい言葉を告げるアンネ。師匠である彼女は、弟子のメアリーを甘やかすつもりはないようだ。こういうように、しっかりと師匠らしい態度を取ることもできるのね。少し意外だわ。


 「そうでした……。出過ぎたことを言って申し訳ございませんでした」


 メアリーは謝った。師匠の言うことに対し、不満を述べることはなかった。素直で真面目な子であるという印象を受ける。

 きっと彼女たちの間には固い信頼関係が築かれているのだろう。


 「わかればよいのですわ。では、あなたにはこれを与えます」

 

 メアリーは何か呪文を唱え始めた。

 すると、目の前に銀色の光を帯びた魔方陣が浮かび上がった。


 「ちょ、何やってるのよ! こんなところに家建てちゃダメでしょ!」


 ここはボウリング場のトイレである。家なんて建てたら……。


 魔方陣から物体が現れ始めた。

 まさか、これが家になるの……?


 直視できないほどの眩しい光が発生する。私は目を閉じた。

 次に目を開けた時、そこには小さな箱のようなものがあった。


 いや、これはただの箱ではない。屋根のような形をしたものがてっぺんに付いている。側面には大きめの穴が一つだけあり、箱の中が空洞であることがわかった。身をかがめれば、その穴から箱の中に出入りすることができるだろう。


 え? もしかして、これってアレじゃない……?


 「できましたわ。犬小屋ですの!」

 「素敵な犬小屋……。私にはもったいないくらいです、お姉さま!」

 「ええええええええ?!」


 さすがにこれはないでしょ。いくら修業中だからって、犬小屋暮らしは厳しすぎるでしょ!

 犬小屋で喜んでるメアリーもおかしい。これでも文句言わないのは逆に気持ち悪い。

 この二人、普通の師弟関係じゃないわ……。


 「さ、これを持っていくのですわ。好きな場所に置いて生活をするのです」

 「はい! ありがとうございます」

 

 頭おかしいでしょ。すんなり了承してる場合ではないだろう。


 「ねぇ、メアリー。あなたはホントにそれでいいの? 犬小屋よ? 犬小屋なのよ、これ。犬と同レベルの生活環境で納得できるの? プライドとかないの?」


 私はツッコまずにはいられなかった。むしろこれにツッコまない人なんていないはず。

 

 「これでいいのよ、柊春華。私には十分すぎるくらいだわ」

 

 メアリーは満足げに語った。


 「で、でも……」


 彼女の心情がわからない私。どうしてここまで従順でいられるのか。どうして文句一つ言わずにいられるのか。


 「だって……お姉さまが作ってくださった家ですもの……。お姉さまが魔法で、私のために……」

 「メアリー……」

 「アンネリーゼお姉さまの魔方陣……。お姉さまの呪文詠唱……。はぁはぁ……」

 「どこに興奮してんのよ、アンタは」


 意味がわからない。魔女の神経は理解不能だ。

 アンネの弟子なだけあって、やっぱりこの子も変だ。変人を慕う者は自らも変人なのだった。


 住居が犬小屋なのは不憫でならない。でも、本人が満足しているなら別にいいか……。


 「では失礼します、お姉さま!」

 

 メアリーは犬小屋を持って、トイレを去った。そのまま出て行くのね……。


 犬小屋を抱えた女が手洗い場から出てきたら、他の人たちも驚くだろう。


 「さて、ボウリングの続きをしますわよ」

 「あ、うん……」


 私は戸惑いを覚えつつ、アンネと皆の所へ戻った。

 


お読みいただきありがとうございます。

感想をお待ちしております。

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