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私のキャンパスライフは百合展開を避けられないのか?  作者: 平井淳
第五章:五月の憂鬱編

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六 深夜

感想をお待ちしております。

 そろそろ就寝の時間だ。明日も一限目から講義がある。だから早く寝なくてはならない。

 私は布団を敷いた。だが、まだ眠れるような気分ではなかった。精神的な理由で。

 

 「はぁ。どうしてこうなったのよぉ……」


 枕に顔を埋める私。

 今日の出来事を振り返ると、頭の中には「なぜ」の二文字しか浮かんでこない。


 「どうなさったの、春華。らしくないですわよ」


 隣に布団を敷くアンネリーゼが言った。

 逆に聞きたいのだけど、私らしさって何? 私が悩んでる姿はおかしいとでも言いたいわけ?

 思わずそれを口に出しそうになったが、寸前のところで止めておいた。今はアンネに八つ当たりしても仕方がない。彼女には何の罪もない。


 「私、もうバイト辞めたいかも……。いや、辞めるわけにはいかないんだけど……」

 「唐突ですわね。以前はあんなに張り切っていらしたのに。ですが、辞めても問題はないと思いますわ。お金ならわたくしが春華のためにいくらでも用意しますの。魔法を使って」


 得意げに話すアンネ。何でも魔法で解決する精神は今でも健在だった。最近はちょっと人間らしくなってきたと思っていたのだが。


 「お金の問題じゃないのよ。今のバイトは続けたいけど、バイト先に行きづらくなったってこと」


 バイトの内容自体に不満はない。だが、この先も普段通りに働ける自信がないのだ。もうそこから逃げたい気分なのだ。


 「バイト先で何か問題でもありまして?」

 「そうね。人間関係ってヤツかな……」

 「それは難しい話ですわね。わたくしは人間ではありませんの。だから人間関係のことは……」


 別に魔女にアドバイスなど求めていないし、何も期待していない。今の私の悩みは、誰かに相談しても仕方がないことなのだ。


 私が今抱えている悩み。それはバイトの同僚、前島奈々香のことである。

 

 前島はずっと私に想いを寄せていたらしい。私は今日のバイト帰りに、彼女から愛の言葉を突然告げられたのだった。


 その告白に対して、何も言葉を返すことができなかった。当の前島もだんまりだった。しばらく沈黙が流れ、その場は気まずい空気になってしまった。


 どうして彼女はあのタイミングであんなことを言い出したのか。彼女があんなことを言ってこなければ、こうやって悩む必要なんてなかったのに……。


 いや、元はと言えば私が原因だ。悩みがあるなら相談に乗ると言ったのは私だった。その結果、前島は私のことが好きで悩んでいると言ってきたのだ。ならば、あの時の私は彼女の相談に応えてあげるべきだったのだ。「私も好きよ」とか「ごめんなさい」とか、具体的な「答え」を出す必要があったのだ。


 それなのに、私は黙り込んでしまった。答えを出すことから逃げてしまった。返答を渋ったヘタレな私が悪い。だから、責めるべきは前島ではなく自分自身なのだ。


 「報告しておくわ。あなたのライバルが増えたわよ」

 「ライバル? わたくしの?」

 「そう。あなたの恋のライバル」

 「まぁ。それは一体誰ですの? 今すぐ呪殺するので、その者の名前と生年月日を教えてほしいのですわ」


 アンネは藁人形と五寸釘を魔法の力で呼び出した。待て待て、そう早まるな。っていうか、呪い殺しちゃダメだから。


 「バイトの同僚で女の子なの。私、また同性から告白されちゃった」

 「あらあら、まぁまぁ。ますます春華の百合が加速していきますわね」


 アンネリーゼは何だか楽しんでいる様子だった。

 デリカシーのない魔女め。人が真剣に悩んでいるというのに……。


 「春華は彼女のことをどう思っていらっしゃいますの? わたくしから乗り換えたいとお考えですの?」

 「そんなわけないでしょ。そもそも私はあなたに乗ってる覚えはないんだけど」

 「愛人契約の話、お忘れではないでしょう?」

 「そ、それはまた別でしょ……」

 「いいえ、同じですわ。すでに春華とわたくしは恋人同士なのですわ」


 恋人などではない。これはただの設定だ。私は本当に魔女の恋人になったわけではない。ただの演技なのだ。


 「そういえば、最近疎かになってますわね。今夜は久々に、二人の愛を確かめ合いませんこと……?」


 アンネは笑みを浮かべた。獲物を捕らえようとする野獣の目をしていた。すると、仰向けに寝転がる私の上に乗りかかってきた。


 「し、しないから……!」


 私は魔女の手を振り払う。

 

 「ですが、このままでは二人とも死んでしまいますわよ? お互いの心を満たし合わなければ、わたくしたちは果ててしまう。そういう契約だったはずですわ」

 「くっ……!」


 私は顔を歪めた。

 屈辱だ。生きるためには魔女とイチャイチャしなければならない。魔女の欲求を満たし、同時に私の心も満たされなければならないのだ。


 「わたくしが忘れさせてあげますわ。あなたの悩み事を全部……」


 そう言ってアンネリーゼは私の唇をふさいだ。


 私は黙ってそれを受け入れるしかなかった。ここで騒げば隣の部屋にいる春樹に怪しまれる。

 こうして、私と魔女の長い夜が始まるのだった。




 

お読みいただきありがとうございます。

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