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私のキャンパスライフは百合展開を避けられないのか?  作者: 平井淳
最終章

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四 未来

感想をお待ちしております。

 五日間に及ぶ期末試験が今日ようやく終わった。

 私はしっかり対策をしていたので、どの科目もなかなかの手応えがあった。


 きっといい成績が返ってくると思う。特に村松教授が担当する『近代社会経済学』は満点の自信がある。いつも講義が終わると教授に不明点を質問するなどして、熱心にノートにまとめていた。今回の試験では、そんな日頃の成果が出たといえるだろう。


「テストしゅーりょー! 明日から夏休みだよ、春ちゃん!」


 さっきまで試験が行われていた講義室には、まだたくさんの人が残っている。だが、桃は人目を気にすることなく私に抱き着いてきた。


 私はまわりから誤解されることがないように、すぐに彼女を身体から引きはがす。


「お疲れ様。無事に単位は取れそう?」

「うん! 春ちゃんが教えてくれたところ、たくさん出てたもん」


 桃には試験で出題されそうな箇所を重点的に教えていた。そして、私の予想は見事に的中したのであった。


「それならよかったわ。じゃあ、勉強頑張ってたし、約束通りご褒美のプリン買ってあげる」

「やったぁ。ありがとぉ」


 桃を連れてキャンパス内のコンビニへと向かう。


 その途中、同じくテストを終えたばかりの川口さんに出会ったので、彼女と軽く話をすることになった。


 彼女は夏のコミケに遠征し、たくさんのコスプレイヤーを撮影するのだと言って張り切っていた。また、後期が始まったら私に着て欲しい衣装を持って来るそうなのだが、大学でコスプレするのは恥ずかしいのでやめていただきたい。


 夏コミ以外にも複数のオタク向けイベントに参加するらしく、川口さんは今からワクワクが止まらないようだ。


 私も今年の夏は予定がいっぱいだった。友人たちと色んなところへ行く約束をしている。去年の今頃はキャンパス内に友達なんて一人もいなかったのに、この一年で自分を取り巻く環境は大きく変わったものだ。気づけば私は「ぼっち」を卒業していた。


 だが、相変わらず彼氏はいなかった。こんなに可愛いのにナンパすらされない。その一方、女の子からはモテまくりの毎日だった。美波や桃、バイト先の友人である菜々香から猛烈なアプローチを受けている。彼女たちの勢いに押され、女の子どうしで「いけないこと」をしてしまいかねないので、少しも気を抜くことができない。


 思い描いていたキャンパスライフとはかけ離れたものになってしまった。けれど、今となってはそんな日常でさえ愛おしく思える。


 要するに、私はもうとっくに幸せだったのだ。


 現状に不満がないと言えば嘘になる。やっぱり彼氏は欲しいし、美人な私が男にまったくモテないのはどう考えてもおかしい。あと、高学歴で高収入のイケメンにプロポーズされたいという願望は今でも残っている。


 だけど、お金持ちのカッコいい男性と結婚することだけが人生の目的ではないということに気づいた。


 生きる理由は他にもたくさんある。生きてさえいれば、どんなことでも楽しむチャンスがある。それを幸福だと感じるべきなのだ。

 

「焼きプリンあるかな~?」


 コンビニに着いた途端、スイーツコーナーにピョコピョコと駆け寄る桃。まるで母親の買い物についてきた子供のようだ。

 

「あった! ちょうど二個残ってるよ」


 桃は両手にプリンを持ってニコリと笑った。


「私はいいわ。このラスト一個は他の人に譲ることにする」


 そう言って私は片方のプリンを桃から取り上げ、商品棚にそっと戻す。


「えー? どうして食べないの? もう飽きちゃったの?」

「そんなことないわ。今でも大好物よ。食べたら、すごく幸せな気分になれるもの。でも、私以外にもこれが食べたいっていう人がいる。だから、たまにはその人に幸せを残してあげてもいいかなって思うの」

「そっかぁ。春ちゃん、優しいね」

「ええ、そうよ。私は優しいのよ」


 私は優しい女の子だ。

 冗談で言っているのではない。本気でそう思っている。


 だが、優しさを持つことができるようになったのは、友人たちのおかげである。彼女たちが私に気づかせてくれたのだ。優しい心を持つことが他の何よりも幸福につながるということを。


「じゃあ、半分ずつ食べようよ。桃の幸せを春ちゃんに分けてあげる」

「いいの?」

「いいよ。春ちゃんの幸せは桃の幸せだもん」

「桃は優しいわね」


 私は桃の頭を撫でる。


「えへへ」


 桃は無邪気な顔で嬉しそうに笑うのだった。


 私や美波を陰謀に巻き込んだ最悪の神はもういない。

 世界はチコちゃんを新たな神に迎え、優しさに包まれようとしている。


 とはいえ、この世から戦争や差別が消えることはない。悲しみや苦しみはいつも私たちの幸せのすぐ隣に存在している。事件や事故、病気で亡くなる人、悪意のある言葉によって傷つけられてしまう人は必ずいる。


 だが、少なくとも神のワガママで命を奪われてしまう人がいなくなったのは事実だ。チコちゃんは私情で世界を左右するような神ではない。すべての人類に対して平等に接する存在なのだ。


 きっとこの世界はいい方向へと進んでいく。

 私たちの未来は明るい。


お読みいただきありがとうございます。

感想をお待ちしております。

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