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私のキャンパスライフは百合展開を避けられないのか?  作者: 平井淳
第八章 神軍の結束編

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十二 限界

感想をお待ちしております。

 レイアさんはとても口が堅く、拷問を受けてもなかなか自白しないタイプだ。


 強い意志を持つ彼女を屈服させる手段を模索する私だったが、思いついたのは至極単純で何の捻りもない作戦だった。


 時間が過ぎるのを待つ。ただそれだけである。


 しかし、彼女の尊厳を踏みにじり、大きな屈辱を与えるという点では最大の効果を発揮するやり方であった。どうしてそんなことが言えるのかというと、これにはちょっとしたワケがあるのだが、理由はそのうち明らかになるだろう。


 プライドを引き裂かれ、メンタルがボロボロになった彼女にありとあらゆる情報を吐かせることが私の狙いだ。


「長期戦になりそうだけど、私たちが戻って来ないと他の皆は心配するでしょうね」


 私は自分が懸念している事柄をアンネリーゼに伝えた。

 この作戦における唯一の心配事は友人たちを待たせてしまうことなのだった。


 美波と桃だけでなく、私やアンネまで消えてしまったら、城田さんと林さんはいよいよ本格的に焦り始めるのではないだろうか。


「気にする必要はありませんの。この空間で過ぎる時間は外の世界よりもずっと早いのですわ。たとえ、ここで二十四時間過ごしたとしても、現実ではたった一時間しか経過していませんの」

「ホント? それは好都合だわ」


 よし、これなら時間をかけても問題ないわね。

 おかげで憂いごとは消えた。あとは気楽にやるだけだ。


「いくら待っても無意味ですよ。あなたが交渉に応じない限り、絶対にあの二人を元には戻しませんから」


 レイアさんはまだ気づいていない。これから本当の苦しみが彼女を襲うということに。


 余裕の態度でいられるのは今だけだ。あと少しすれば、彼女はこの作戦の本質を知り、恐怖するだろう。


「アイスコーヒーを少し飲み過ぎてしまったわ。ねぇ、アンネ。お手洗いに行かせてくれないかしら」


 さっきコーヒーを二杯飲んだ私はトイレに行きたくなっていた。生理現象には抗えない。

 

 トイレ。これこそが作戦のポイントなのだ。


 拘束中のレイアさんも、いずれ我慢の限界を迎えるはずだ。

 すでに彼女はもよおしている。その兆候を私は捉えていた。


「わざわざお手洗いまで行く必要はありませんの。この水晶玉に触れてみるのですわ、春華」


 海のような青い色をした水晶玉を手のひらの上に出現させるアンネ。


「何なの? これ」

「体内の老廃物を浄化する道具ですの」


 ふーん、そんなものがあるんだ……。


 私は言われた通り、右手で水晶玉に触れてみた。

 すると、スッと身体から何かが抜けていくような感覚がした。なんと尿意が一瞬で消えてしまったのである。


「どうなってるの? 急にスッキリしたんだけど……」

「便利でしょう? これがあれば用を足さずに生きていけるのですわ」

「便利過ぎるわね……」


 そういえば、私はこれまで一度もアンネがトイレに行くのを見たことがないのだけれど、もしかして、この水晶玉ですべてを済ませているからなの?


「私も欲しいわ。どこで売ってるの? いくらで買える?」


 トイレに行かなくていいなら時間の節約になるので、めちゃくちゃ生活が捗るだろう。誰もが欲しがる超便利アイテムだといえる。


「これを使用するには上級魔法のスキルが不可欠ですわ。素人がただ持っているだけでは効果を発揮することはできませんの」

「そっか……。じゃあ、いらないかな」


 どうやら優秀な魔法使いにしか扱えない道具であるらしい。

 魔女になりたくない私には縁のない物であった。


「ふぅ。トイレには行かなくていいし、ずっとここで待機できるわね。私はのんびり過ごすことにするわ」

「本当に何もする気がありませんの? こんなに素敵な獲物が目の前にいますのよ? たっぷり可愛がってあげないと彼女に失礼ですわ」

「別にいいのよ。後でもっと面白いものが見られるから……」

「面白いもの? 何なのかよくわかりませんが、春華がそう言うのなら、わたくしもその時が来るまで楽しみに待つことにしますわ」


 アンネは近くにある丸椅子にちょこんと座った。

 私も部屋の片隅に置かれている拷問用の椅子に腰を下ろす。


 じっとレイアさんの姿を見つめる私たち。

 何度見ても綺麗な人だった。私に劣らないレベルの美人だ。


 だが、そんな彼女ももうすぐ恥辱に顔を歪ませることになる。


「二人ともどうして私のことをジロジロ見ているのですか? 不愉快極まりないです」


 レイアさんはキッとこちらを睨みながら言った。

 いい表情をしている。プライドが高い人物のしかめっ面はとても絵になる。一種の芸術性を感じさせるものだ。


 しばらくして、彼女は地面に正座した状態で小刻みに身体を震わせ始めた。

 落ち着きがなく、そわそわしている。顔にも焦りが見られる。


 ついに始まったようだ。彼女の限界までのカウントダウンが。


「そんなにモジモジして、どうかしたんですか?」


 私はニヤニヤと笑いながら、わざとらしい口調で尋ねる。

 ここから少しずつ揺さぶりをかけていこう。


「何でも……ありません……」


 否定するレイアさん。トイレを我慢していることを悟られまいと必死だった。

 もうとっくにバレてるけどね。


「何だか辛そうね。もしかして、足が痺れてきたの? 正座なんかしないで足を崩せばいいのに」

「余計なお世話です。私はこの体勢の方が……」


 なるほどね。その方が我慢しやすいってことか。


「本当はもっとわたくしに虐めてほしくて体が疼いているいるのではなくて?」

「……ちっ、違います! 誰がそんなことを」


 この状況で拷問を受けたら、もう我慢を続けることはできないだろう。


「うぅ……」


 小さく唸るレイアさん。顔は赤くなり、呼吸も荒くなっていた。かなり辛そうだ。

 身体を揺らして気を紛らわせようとしている。そんなことをしてもあまり意味はないだろうけど……。


 さっきまで虚勢を張っていたが、今となっては口数も少なくなっている。喋ることさえ「命取り」になりかねない状況であった。


 目を閉じ、口を結びながら、ジッと耐える。額には汗が浮かんでいた。

 あとどのくらい耐えられるかしら。


「喉渇いちゃったなぁ。魔法でお水とか用意できないの?」


 水を使ってさらに追い打ちをかける。


「できますわよ。ミネラルウォーターでよろしくて?」

「うん。ありがとう」


 アンネリーゼは水入りのペットボトルとガラスのコップを魔法で呼び出した。


 私はそれをアンネから受け取り、コップに水を注いで飲んだ。

 美味しい。渇いた体に水分が染み渡る。


「飲みます?」


 レイアさんに尋ねる私。


「……いいえ。いりません」


 そりゃそうでしょうね。水なんて飲んでる場合じゃないわよね。


「美味しいわ。もう一杯飲んじゃおうかな」


 トポトポトポ、と音を立てながら水を注いでいく。

 レイアさんは水から目を逸らし、敢えて見ないようにしているのだった。


「はぁっ……。くぅぅぅ……」


 彼女は声を上げる頻度が増えてきていた。さっきよりも限界が近づいていることを意味している。

 

 もし今ここで、私が彼女をくすぐったり、ワッと大声を上げてビックリさせたら、どうなってしまうのだろう。その拍子にダムが決壊してしまうのかしら。


 私の胸の中にある意地悪な感情がムクリと芽生え始めていた。

 高く積み上げたジェンガのタワーを指で突いてみたくなるような、そういった出来心が湧いてきたのである。


 私がその気になれば、彼女に『とどめの一撃』を下すことができる。彼女の運命は私が握っているも同然だ。そう思うとなぜか不思議と楽しくなってきた。


 ――そろそろ、いいわよね?


 ごめんなさい、レイアさん。あなたに恨みはないの。私は美波と桃を元の姿に戻してくれれば、それで十分なのよ。でもね、今はあなたを揺さぶることが楽しくて仕方がないわ。


 そして、恥辱にまみれ、泣き顔を晒すあなたの顔を見てみたいの。

 これは本当に単なる興味本位よ。あなたを憎んでいるから、そんなことをしたいと思っているのではないと理解してほしい。


 レイアさんの限界が近いのと同じで、私も我慢の限界なのだ。

 解放したい。この欲望を。


 だから、許して。もうやっちゃうわ。ホント、ごめん。


 私は椅子から立ち上がると、彼女の前に移動し、そこで仁王立ちする


「な、何か用ですか……?」


 レイアさんはこちらを見上げながら言った。


お読みいただきありがとうございます。

感想をお待ちしております。

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