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私のキャンパスライフは百合展開を避けられないのか?  作者: 平井淳
第七章:死神の葛藤編

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八 遺恨

感想をお待ちしております。

「私は天界の支配人なのです。死後の世界を統括する立場なのです」


 チコちゃんはすんなりと自らの正体を明かした。

 

 天界。そこは私が本来、行くはずだった場所である。


「そっか。あの世の支配人か。チコちゃんは偉いんだね」

「それほどでもないのです……」


 謙遜している姿も可愛い。

 支配人を任されるということは、かなりの実力の持ち主なのだろう。


 見た目に騙されてはいけない。私の方こそ彼女を警戒すべきだといえる。


「あなた、さっきから馴れ馴れしいですよ。このお方を子供扱いするなんて失礼にも程があります」


 死神の少女が言った。彼女は私の態度が気に入らないみたいだ。


 チコちゃんは死神にとって、恐れ多い存在であるらしい。その証拠に彼女はチコちゃんを前にして、すっかり固くなってしまっている。顔の表情は強張り、声も震えている。


 そこまでビビるような相手なのか。私には詳しいことはわからない。


「別にいいのです。私は気にしていないのです」


 チコちゃんのお許しが出た。というわけで、これからも「ちゃん」付けで呼ばせてもらうことにしよう。その方が親しみがあっていいからね。もちろん警戒は続けるけど。


「そういえば、あなたの名前まだ聞いてなかったわね。死神さん」


 桃と似た容姿を持つ少女。髪色が違うので見分けはつくのだが、双子同然と言えるくらい桃とそっくりな背丈と顔立ちをしている。


 不気味な留守電を残したり、体育館へ私を呼び出したり、鎌で私の身体を半分に斬ったり。この子には今日出会ったばかりなのに初っ端から容赦なく酷いことをされたものだ。


「わざわざ名乗る必要などありません。どうせあなたはすぐに冥府へ行くのですから」

「仲良くしないとダメー! なのです。ちゃんと自己紹介をするのですよ」


 チコちゃんが死神を咎める。


「は、はい! 申し訳ございません」


 背筋をピンと伸ばして謝罪する少女。

 この二人はまるで上司と部下のような関係だった。


 それから「コホン」と咳払いをして彼女は言った。


「私はユーリアです。いずれあなたを冥府へお連れする者の名です。以後お見知りおきを」

「ユーリア。いい名前ね。可愛らしいわ」

「何を……。ふざけているのですか?」


 ふざけて言ったつもりはない。純粋に良い響きだと感じただけだ。


 自分の名前を褒められたことが恥ずかしいのか、ユーリアはそっぽを向いた。今はもう私と顔を合わせてくれない。


 桃は素直で人懐っこい性格だが、ユーリアはあまり馴れ合いを好まない性格のようである。見た目は似ていても、中身はまるで違うのだった。


「先ほどはユーリアがご迷惑をおかけしたのです。この通りなのです」


 そう言ってチコちゃんはペコリと頭を下げた。

 この子が謝る必要はないと思うのだが、ここは上に立つ者としての責任があるみたいだ。


 あわあわしている姿も可愛いけど、しっかりしているところもあるのね。


「さぁ、あなたもごめんなさいをするのですよ、ユーリア」

「はい……」

「ちゃんと仲直りの握手もするのです」

「えぇ……」


 嫌そうな顔をしながらも、ユーリアは私に向かって「先ほどはすみませんでした」と謝罪の言葉を述べる。


 それから、引きつった笑顔を浮かべながら、右手を差し出してくるのだった。

 私はその手をサッと握り返す。


「いいわよ。気にしないで。色々あったけど、全部水に流しましょう。私はあなたを微塵も憎んでいないわ。これから仲良くやっていきましょうよ。あなたとは是非お友達になりたいと思っているわ」


 ……まぁ、嘘なのだが。


 身体をぶった斬られたのに、「ごめんね!」「いいよ!」で済ませられるわけないでしょ。


 この子にはいつか仕返しをしてやりたいものだ。さすがに暴力でやり返すつもりはないが、効果的な報復手段がないか今から検討しておこう。


 ユーリアもまた、今回の結末には納得していない様子だった。私と仲良くなろうなどとは全く考えもしていないだろう。きっとリベンジの機会を望んでいるに違いない。


 と、まぁお互いに火花を散らしたまま遺恨を残す形となったわけだが、チコちゃんの仲裁により私がこの場で殺される事態は免れた。ユーリアはこの先しばらくの間、そう簡単に私に手を出すことはできなくなったはずだ。


「ふぅ。これにて一件落着なのです」


 チコちゃんはホッと息を吐いた。



お読みいただきありがとうございます。

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