五 切断
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死神の少女を突き動かすもの。それは死神としての使命感であった。彼女は命を賭して戦うことを選んだ。私を討つためならば命など惜しくはないのだという。
そこまで頑張る必要なんてないだろう、というのは私の勝手な考えであるかもしれない。死神の世界では敵前逃亡や無条件降伏が許されず、いかなる状況であっても戦わなければならないというルールが存在しているのかもしれない。もしそうだとすれば、「別に無理しなくていいじゃない」などと言っても聞く耳を持たないはずだ。
戦う覚悟と死に怯える不安の両方が入り混じったような顔つきのまま、少女はゆっくりと鎌を引いてタメの姿勢に入った。
私は今から彼女の手で斬られる。痛いのは嫌だ。避けられるものなら避けたい。だが、身体が動かない。
襲い掛かる鎌の動きがスロー映像のように見えていた。
これなら咄嗟に避けることができそうな気がした。だが、そう思った時にはもう遅い。今からでは間に合わない。
シュルル、と鎌が空気を切り裂く音がした。その直後、私は上半身と下半身を真っ二つにされてしまうのだった。
「くはっ……」
声にならない声で鳴く私。上半身はそのまま地面に落下し、私は背中を強打した。
すぐそばには下半身が転がっている。
さすがはスタイルのいい私だ。スラリとした綺麗な脚をしているな、などと腰から下を喪失した状態で呑気なことを考えている。
下半身の断面からは腸と思われる内臓がはみ出ていた。私のような美少女であっても、身体の内側はグロいものだ。こんなものが中に詰まっていたのかと思うと、何だか自分が気持ち悪いもののように思えてくるのだった。人体とは奇妙なものである。
ジュクジュクと腹部から血液が流れ出すのを感じる。これほどの勢いで出血すれば、あっという間に絶命するだろう。
意識が薄れていく。息をすることも忘れそうになる。
ダメだ。もう無理。
私は助からないだろう。今から病院へ行っても間に合わない。どうしようもない。
死ぬのはこれで三回目だ。それ以外にも何度か死にかけたことはあったが、辛うじて生き抜いてきた。だが、今度こそ本当に死んでしまう。
「今度こそ逃がしませんよ。魂を冥府へ送り届けるまで、私は決してあなたを離さない……」
少女はしゃがんで、私の瞳を覗き込みながら言った。
言動に似合わず可愛らしい顔をしている。ロリっ子のくせに鎌を振り回して人を殺すなんて、ギャップ萌え狙いにも程があるわよ。
それにしても、この子は本当に桃とそっくりである。もしかして双子なんじゃないかと思うくらいだ。こんなことってあるのかしら。
「まだ息があるのですか。あなた、結構しぶといですね。とどめを刺してしまいたいところですが、そう楽には死なせません。これは私に余計な手間と時間をかけさせたことに対する復讐です。あなたには苦しみを感じながら死んでいただきますよ」
なんて酷いことを。悪趣味だ。
っていうか、何で私はまだ息絶えないのだろう。こんなに苦しいのに、どうして踏みとどまっているのだろう。自分がこんなに粘り強かったとは驚きだ。
どうせ生き返るのだから、さっさと死んでやり直せばいい。いつまでも引き延ばす意味などないはずだ。
それなのに、なぜか私はまだ死ねない。死ぬ気になれない。死にたくない。
肉体と魂に刻み込まれてきた痛み、苦しみ。それらを今ここで手放すのは納得がいかないからだ。
私は「今の私」として、生きていたいのである。
死んでリセットすれば解決する話ではない。致命傷を負った死にかけの身体であっても、最後の最後まで戦いたいのだ。
たとえ、上半身だけの姿になったとしても。
「これで勝った……つもりかしら……?」
私は両腕に力を込めて、身体を起こすのだった。
「そ、そんな……! なぜまだ動けるのですか」
驚愕する少女。
まるで化け物でも見るかのような目だ。
まぁ、今の私はどう見ても化け物でしかないのだが。
妖怪だの怪物だの、好きに言ってくれて構わない。
どんな姿や形であっても、私は私なのだ。
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