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私のキャンパスライフは百合展開を避けられないのか?  作者: 平井淳
第七章:死神の葛藤編

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四 意地

感想をお待ちしております。

 自称「死神」の少女は大きな鎌を手にしている。これは恐らく魂を刈り取るための道具なのだろう。一般的に死神といえば鎌を持っているイメージだが、彼女はまさにその通りの恰好をしている。


 鎌を私に突き付けた少女は、恨みがましい表情を浮かべてこう言った。


「あなたが生き返ったせいで、私はとても酷い目にあったのです。死者の魂を冥府へ送り届けることが死神の役目ですが、あなたの魂を取り逃がした私は降格処分を受けることになりました」


 それはすまないことをした。まさか死神にまで迷惑をかけていたとは思わなかった。


 だけど、それは仕方がないことだった。私はまだ死ぬわけにはいかなかったのである。あの世へ行くには早過ぎた。未練というものが残っていた。


「あれから十年以上が過ぎました。本当はもっと早くあなたを冥府へ連れ戻すつもりでしたが、計画はいつも狂わされてばかり……」


 紆余曲折を経て、やっと今日のこの時を迎えたのだろう。少女はこれまでの苦労を思い返している様子だった。彼女がどのような道を歩んできたのか私は知らない。だが、同情はする。


 私も十年の歳月をかけて夢のキャンパスライフを掴み取った。意地と執念で運命に抗い続け、やっと今の生活を手に入れたのだ。


 戦いはまだ終わっていない。平穏を脅かす存在は次々と目の前に現れる。


 敵を退けながら私は日々を過ごしていた。守りたいものを守るために体を張って生きている。そういった苦労があるからこそ、少女の気持ちにも少しばかり寄り添える気がしているのだ。


「あなたも色々と大変だったみたいね」

「何を他人事のように言っているのですか。あなたは今からここで死ぬのですよ? どうしてそんな気楽に構えていられるのです?」


 解せぬと言いたげな顔で困惑する少女。彼女は私をとても憎んでいるのだろう。その相手から哀れみの言葉を向けられては、複雑な気持ちになるのも無理はない。


「ところで、私に何度も電話をかけてきたのは、あなたなの? あの趣味の悪いイタズラは感心しないわね。もっと違うやり方は思いつかなかったのかしら」


 深夜の留守電に残された悲鳴。あれは洒落にならない。心臓が止まるかと思った。


 拷問されている桃の声を電話で聞かせたのは、ここまで私をおびき寄せるための作戦だったのだろう。だとしても、さすがにやりすぎだと思う。


「そんな回りくどいことをする必要なんてなかったのに。もっと堂々と私の前に現れるべきだったのよ」

「それができれば苦労しません。あなたを確実に捕えるには、それなりの準備が必要だったのです」

「準備……?」

「あなたのまわりには邪魔が多い。特に『闇の魔女』が絡んでくるのは想定外でした。私の力では彼女に太刀打ちすることは不可能です。しかし、あの女を排除しなければ標的であるあなたに手出しすることはできない」


 アンネリーゼの存在に少女は気づいていたらしい。

 死神からも警戒されているとは、闇の魔女の名も伊達ではない。


「でも、魔女は倒せないんでしょう?」

「はい。ですが、あなたと魔女を一定時間、引き離すことならできます」


 今まさに私とアンネは離れ離れとなっている。

 だが、私の身に危機が迫れば、たとえ遠く離れた場所にいても、彼女は魔法を使って瞬時に助けに来るだろう。


「言っておくけど、地理的な距離なんて意味ないわよ。相手は魔女なんだから。地球の裏側にだって一瞬でワープできる。とても不愉快な話だけど、私は常に魔女と繋がっているの。私の身に何かあれば、彼女はすぐにやって来るわ。たとえここで私を殺すことに成功しても、あなたが魔女から報復を受けることは避けられないでしょうね。命が惜しいとは思わないの?」


 私が死ねばアンネリーゼも死んでしまう。私たちの契約にはそういう規定が存在する。だが、そんなことなど死神は知らないだろう。


 脅しを交えながら少女の説得を試みる。私は無意味な争いを望まない。それに、私は殺されても死なない特殊な存在なのだ。何度でも蘇ることができる。私の魂は死神でさえも管理できないものである。


「闇の魔女による報復ですか……。きっと私は抵抗すらできずに殺されるのでしょうね」


 すべてを悟った様子の少女。死ぬことも覚悟の上ということなのか。


 だが、それだと何のために今日まで努力をしてきたというのか。逃した獲物を再び捕まえて、あの世へ送り届ける使命を果たすには、彼女はまだこんなところで死ぬわけにはいかないだろうに。


「自分の命と仕事、どっちが大事なの?」

「愚問ですね。仕事に決まっています。私は任務遂行のためならば命も惜しくありません」


 その声は震えていた。彼女は本心でそう言っているようには見えない。

 たとえ死神であっても、生に対する執着はあるらしい。死神でさえも死を忌避するのである。


 少女はただ強がっているだけだった。本当は死にたくないのだ。できることなら、魔女とは戦わずに済んでほしいと願っているはずだ。


「それは名誉のため、なのかしら。プライドが許せないのね」

「さぁ、どうでしょう。死神として生まれた以上、私は死神としての使命を最後まで果たさねばなりません。あなたを逃がしてしまったのは私の失態……。それを取り返すためには、ここで引き下がることなどできないのです」


 少女は任務を優先する意志を頑なに曲げようとはしないのだった。


 素晴らしい社畜根性だ。素晴らしい忠誠心だ。

 彼女のような人材こそがブラック企業に重宝されるのだろう。


 私は決してこうはなりたくない。


 命と仕事、どちらが大切か。

 そんなの命に決まっている。


 意地を張るために自分の命まで投げ出すのは間違っている。


お読みいただきありがとうございます。

感想をお待ちしております。

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