二 廃校
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電話の女が指定した場所は廃校となった小学校の体育館だった。
それは私の母校であった。小学校時代に六年間通い続けた学び舎は今から二年ほど前に市内にある他の小学校と統合され、今は校舎だけが取り残されている。
通話が繋がったスマホを片手に持ち、かつての通学路を駆け抜ける。すると、スピーカーからは再び砂嵐のような音が鳴り響くのだった。女や桃の声はもう聞こえてこない。
きっと桃は生きている。私が女の指示を無視しない限り、彼女が殺されることはないだろう。
だが、怪我をしている可能性がある。私は酷く痛めつけられているであろう桃を早く解放してあげたい気持ちでいっぱいだった。
女は「ゲーム」などと言っていたが、その狙いは何なのか。私を呼び寄せて何をするつもりなのだろう。恐らく彼女もまた神の手先や協力者だと思われる。いい加減にしてほしいものだ。そいつらを相手にするのもそろそろ疲れてきた。
しばらく走ると小学校が見えてきた。校舎はあの頃のまま変わっていない。私が在籍していた当時からすでに老朽化は進んでいた。ボロい建物は何年たってもボロいものである。
いずれこの校舎は解体されるのだろう。放置していれば崩壊する危険性がある。取り壊されてしまう前に一目見ることができたのは、ある意味よかったかもしれない。
けれど、今の私には小学校時代を懐かしむ余裕などなかった。友人の生死がかかっているのだ。思い出が詰まった校舎の姿を目に焼き付けるのは、すべてが解決した後だ。
体育館の前に着いた。この先に女と桃がいるはず。
中に入るため、錆びついた鉄の扉をスライドさせると、キュルルと大きな音が鳴った。
体育館のど真ん中に桃の姿があった。彼女はロープで全身を拘束されたまま体育マットの上で寝かされている。服は汚れており、腕や脚には締め付けられたような痕がある。どうしてこんな酷い目に遭わなければいけなかったのか。まぁ、犯人の狙いはきっと私なので私が原因なのだが。
私はすぐさま桃のところへ駆け寄り、彼女を縛る縄を解いた。
彼女は目を閉じたまま動かない。だが、息はある。気を失っているだけのようだ。
「桃! 桃! しっかりして」
「ううっ……。春ちゃん……?」
呼びかけに反応した桃がゆっくりと目を開ける。
「大丈夫? 痛いところはない?」
「春ちゃん! 来てくれたんだね! 怖かったよぉ」
桃は私に抱き着く。どさくさに紛れて胸に顔を埋めてきたが、今だけは好きにさせてあげることにした。
どれほど不安だったことだろう。ずっと助けを待っていたはずだ。遅くなって申し訳ない。
「もう心配ないわ。私と一緒に帰りましょう」
「うん。でも、ここどこなの……? 体育館?」
「そうよ。私が通っていた小学校のね。もう廃校になっちゃったけど」
とにかく無事でよかった。体のあちこちに痣が見受けられるが、大きな怪我はないようだ。
思っていたよりも元気そうだ。衰弱している様子もない。
いつの間にかスマホの通話は切れていた。電話をかけてきた女はどこへ行ってしまったのか。ここで私のことを待っているとばかり思っていたが、もしかすると怖気づいて逃げてしまったのかもしれない。ただの腰抜けだったか。
「あなたをここへ連れてきたのは誰なの?」
犯人について桃に尋ねる。
一体誰が桃を誘拐し、廃校の体育館で彼女を監禁したというのか。
「覚えてない。全然思い出せないの」
「犯人は顔を隠していたってこと?」
「ううん。隠してなかったよ。ちゃんと顔をハッキリ見たんだもん。でも、なぜか思い出せないんだよね」
全く印象に残らないほどの地味な顔立ちだった……?
「でも女の人だった。それだけは覚えてるよ」
「私はずっと犯人と電話をしていたわ。確かに女性の声だった」
電話の話し相手が桃を連れ去った張本人である可能性は高い。
しかし、声だけでは決定的な証拠にはならない。実行犯と電話の女は別人で、複数人による犯行だったことも考えられる。
姿を消した犯人。見えない敵。
私は何と戦えばいいのだろうか。
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