表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私のキャンパスライフは百合展開を避けられないのか?  作者: 平井淳
第六章 追跡者の野望編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/153

十七 空間

久々の更新となりました。遅くなって申し訳ございません。

感想をお待ちしております。

 駅からは歩いて帰宅した。


 家の前に着くと、玄関の隣に謎の物体が置かれていた。それは赤い屋根の小さな犬小屋だった。ポツンと独り虚しく立っている。


 どうしてこんなところに犬小屋が……。


 おかしいわね。うちの家って犬飼ってたかしら? 確か春樹が動物アレルギーだったから、ペットは飼えないはずなんだけど……。


 小屋の中を覗いてみたが、そこに犬はいなかった。つまり、この穴が開いた箱は空っぽの状態である。中に誰もいませんよ。


 私はこの物体に見覚えがあった。犬小屋なんてどれも同じだと思うけど、なぜかこの既視感は無視できないのだ。


 まぁいい。コレについては家の誰かに聞いてみよう。一体どういうわけなのか、家族の中に知っている者がいるかもしれない。


 とりあえず、家に入って母に謝ろう。心配をかけてしまったことを素直に詫びるべきだ。


 私は謎の小屋を無視して、家に入ろうとした。


 その時……。


 「遅い! どこ行ってたのよ、柊春華!」


 声がした。私に対して怒りをぶつけるような感じだった。


 これはどこから聞こえているのだろうか。

 私は辺りを見回す。


 すると、誰もいないはずの箱の中から、変な格好をした女が出てきた。人形みたいな可愛らしい服と幼さが残る容姿を持つ、異国風の少女であった。


 この子は、もしかして……。


 記憶を呼び起こそうとする私。

 

 ああ、確か彼女は……。


 えーっと……誰だっけ?


 「どうして一晩中帰って来ないのよ! この私を待たせるなんて、何様のつもり? やっぱりアンタにアンネリーゼお姉さまは渡せないわ」


 「あー、アレか」


 私は思い出した。この少女について。

 ついでに犬小屋のことも。


 疑問が解消され、頭の中の霧が晴れていくような気がした。


 「ちょっとアンタ、私のこと忘れてたでしょ! 今思い出したでしょ!」

 

 少女は激おこぷんぷん丸だった。


 「ごめん。誰だか一瞬わかんなかった」


 「正直に言うなぁー!」


 彼女はメアリーという名だった。アンネの妹分で、彼女から魔法の指導を受けている見習い魔女だ。


 そして、この犬小屋はアンネがメアリーに渡した「住み家」である。


 昨日人間界にやって来たばかりのメアリーには住居がなかった。彼女は師匠のアンネに豪邸を用意してくれと頼んだが、あえなく却下された。その代わりに用意された家が、コレだったというわけだ。


 まさか本当に犬小屋に住むことにしたとは……。


 「あなたの新しいお家、小さくて可愛いわね。住み心地はどう?」


 私はメアリーを馬鹿にするつもりで尋ねた。


 すると彼女は、胸を張って答えた。


 「気に入ったわ。住めば都ってヤツかしら。慣れれば何てことないわね!」


 「えぇ……。それ本気で言ってるの?」


 「当然よ。お姉さまには感謝だわ」


 そ、そうなのね。まぁ本人が納得しているならそれでいいか……。


 私には無理。犬小屋生活なんて絶対に受け入れられない。


 「ところで、どうしてあなたはここに新居を構えてるの? 悪いけど、他の場所に移ってくれないかしら。ここはうちの土地なんだけど」


 犬小屋とはいえ、勝手に置かれたら邪魔なんですが。


 「嫌よ。私はここを動かない! 私は絶対にアンタから離れない!」


 「はぁ……。何なの? 私のこと好きなの?」


 もしかしてストーカー? 心底気持ち悪いわね。


 「んななっ! そんなわけないでしょ、バカもの! 私が愛しているのは、アンネリーゼお姉さまただ一人に決まってるじゃないの!」


 そう言えばそうだった。この女はアンネを魔法の師として慕うだけでなく、マジのガチで愛しているのだった。


 「お姉さまがこの家に住んでるって聞いたわ。私はアンタがお姉さまと過ちを犯すことがないか、近くで監視することにしたの。だからここで陣を張っているのよ。別にアンタのことなんて微塵も愛してないわ。勘違いしないでほしいわね、ふん!」


 「あっそう。でもさぁ、本当に迷惑だからよそ行ってくれないかしら?」


 こんな面倒くさいヤツに四六時中付きまとわれるなんて、我慢できない。

 いっそのこと、魔界に帰ってくれないだろうか。これ以上、厄介な存在が増えてもロクなことがないのだが。


 私は空を見上げて、大きなため息を吐いた。

 変な女ばかり寄ってくる体質、ホントどうにかならないかしら。


 「仕方ないわね。なら特別に、今日はアンタを私の新居に招待してあげるわ」

 「いえ、結構です。犬小屋の中なんて興味ないし」


 全く魅力を感じない提案だった。そんなもので私が妥協するわけがないだろう。本気でそう思っているなら、この女は魔界よりも土に帰った方がいいレベルだ。


 「ふふっ。アンタはこれが、ただの狭い空間だと思っているようね」


 メアリーはニヤリと笑った。


 え、違うの? 何がどう違うというの?


 どこからどう見ても、穴の奥は狭くて暗い空間でしかないと思うのだが……。


 だが、一つだけ不可解な点があった。


 それはさっき私が小屋の中を覗き込んだときのことである。中には誰もいなかったはずなのに、その直後にメアリーが小屋から出てきたのだ。


 「まさか、この中って……」

 「ふふふ。ようやく気付いたのね」


 私はアンネの言葉を思い出した。彼女は豪邸をねだるメアリーに対し、「あなたは修業中の身ですのよ」と言った。すると、途端にメアリーは態度を改め、犬小屋を持って帰ることにしたのだった。


 修業とはつまり、魔法のことだろう。アンネリーゼがメアリーに贅沢を許さなかったのには、このことが関係しているようだった。


 あれはもしかすると、「魔法を使って狭い小屋をどうにかしろ」という師匠からのメッセージだったのかもしれない。


 ということは、この犬小屋の中は、魔法によってゆがめられた異空間になっている……?


 「さぁ、お入りなさい。きっと驚くことになるわよ」

 「そこまで言うなら……」


 若干の不安はあるが、中がどうなっているのかという興味もある。少しだけ覗いてみることにしよう。


 私は身を丸めて、小屋の小さな入り口をくぐった。


 暗い空間に頭を突っ込んだ瞬間に、急に景色が変わったということは、言うまでもない。

お読みいただきありがとうございます。

感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ