十六 消息
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結局、あの着信が誰からだったのかはわからないままだった。さっき電話に出た美波は怒りのあまり、相手の名を尋ねることなく通話を終了してしまった。
ただ一つ判明したのは、美波と通話した相手が女であるということだった。声は若い感じであったという。
しかし、留守電に残されていた悲鳴の主と先程の女が同一人物なのかは不明だ。
謎が次々と出てくる。アンネリーゼの失踪、夢の中で私に語り掛けてきた少女、謎の電話……。
どうしてこんなに私を悩ませることばかり立て続けに起こるのだろうか。
また、ヒント役の山之内が何も言ってこないのも不思議である。
彼は神の次の一手について、部分的に助言を与えてくれる。しかし、今のところ音沙汰はない。ということは、今回の件はどれも神は絡んでいないということなのか?
「気分はいかがですか? 眠くないですか?」
美波が言った。彼女は今朝からずっと、何度も私の体調を気にかけてくる。
「心配いらないわ。すっかり良くなったから」
私は元気であることをアピールした。
私たちは電車に乗っている。今は桃の家から帰る途中だった。
休日であるため、車内はお出かけする人たちで溢れかえっていた。なんとか二人分の座席を確保したものの、ぎゅうぎゅう詰めで息苦しさが半端ない状態だ。
私は家に帰ったら身支度を整え、奈々香と約束していた映画館へ向かうことになる。十一時に映画館前で会うことになっているが、ギリギリ間に合うかといったところだ。
もし遅れるなら、彼女に連絡をするべきだろう。最悪の場合、上映時間にも間に合わないかもしれない。その時には、映画の時間を一つずらしてもらうよう頼むしかない。
「アンネさん、どこに行ったんでしょう……?」
ここで美波はアンネの消息を気にし始めた。
「そうね……。彼女、携帯持ってないの。連絡つかないし、ホント困っちゃうわ」
魔女に電話など必要ない。彼女たちは魔法を使って遠くの者とコミュニケーションを取ることが可能であるからだ。
しかし、それは魔法を使える者同士に限った話で、魔法使いではない私にはアンネリーゼと交信することは不可能であった。
やっぱりアンネにも携帯を持たせておくべきだった。とはいえ、彼女はこれまで、私のそばを片時も離れることがなかったので、アンネに携帯電話は不要だと思っていた。それがまさか、こういう形で苦労することになるなんて微塵も考えていなかった。
「ひょっとしたら、もう先に帰ってるのかも。早くアニメの続きが観たいって言ってたし、待ちきれなかったのよ」
「だといいんですけど……」
深夜のアニメはリアルタイムでの視聴が難しい。そのため、私の家のハードディスクに録画されることになっている。
撮り溜めしたアニメを一刻も早く観たいがために、アンネは私を置いて家に帰った。きっとそうなんだろう。今はとにかくそう思いたい。そういうことであってほしい……。
こんなことは今まで有り得なかった。彼女が私を置いてどこかへ行ってしまうなんて、一度もなかったのだ。彼女が私そっちのけで何かに夢中になることなんてなかった。アンネはいつも私のことばかりを見ていたのだ。アンネは私を離そうとはしなかった。
それなのに、なんで今日に限って……。
私は顔を歪ませ、グッと強く握りこぶしを作った。
って、何これ? これじゃあまるで、私がアンネと離れちゃったことを悲しんでるみたいになってるじゃない! 私は別にあの魔女のことなんて全然恋しくなんかないし。ちっとも寂しくなんかないんですけど。
永遠の別れじゃあるまいし。もう二度と会えなくなるって決まったわけでもないんだし。
「今頃、アニメ観ながら紅茶を飲んでるわ。うん、絶対そうよ」
「春華さん……」
アンネのことを気にするなんて私らしくない。あんな変な魔女の居場所なんて、私にとってはどうでもいい。好きにしてなさいよ、って思う。
だけど、この胸騒ぎは何なんだろう。どうしてこんなに落ち着かないんだろう。
彼女がいないだけで、ここまで心が不安定になるのはなぜなのか。
私が魔女を求めているから? 契約が影響しているから? いやいや、そんなまさか。
あー、馬鹿馬鹿しい。さっさと帰って支度しよう。楽しい映画が待ってるわ。
私は落ち着くよう、自分の心に言い聞かせるのだった。
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