十三 招集
山之内翔平視点です。
ここは『神の間』と呼ばれる神聖な空間です。真っ白な景色の中に、一つの巨大な鏡が浮かんでいます。その鏡の前には神の座が設けられており、そこから見下ろせる場所に石でできた円形の床があります。僕はかつて、この床の上で神の座をかけて闘いました。しかし今日は、床の上にテーブルと六つの席が用意されていました。
僕は神の座に最も近い席に座っています。この場所が自分の定位置なのです。
なぜ僕が今ここにいるのかというと、それは神からのお告げがあったからでした。
神は重臣たちを神の間に招集しました。どうやら、これから重大な会議が行われる模様です。議題はまだ明かされておりませんが……。
現在、僕たちは神のご到着を待っているところでした。間もなく神はこの場に姿を見せることでしょう。
集まったメンバーは僕を含め、全部で六人。皆、神からの信頼が厚い部下たちばかりです。
彼らは神への忠誠を誓った者たちでした。また、強大な能力を持つ実力者でもあります。
神とその部下によって構成される『神軍議会』。この議会には序列というものが存在するのですが、僕は神の次に偉いナンバーツーという立場に当たります。役職はいわゆる補佐役です。
どうして僕がナンバーツーなのか、その理由はごく単純です。僕が誰よりも早く神に忠誠を誓った部下だから。ええ、たったそれだけのことなのです。
「こんな時期に招集をかけるとは、神は一体、どういうおつもりなんだ?」
僕の目の前に座る髭面の男が言いました。彼の名はカルロス。スペイン出身の元人間で、序列三位の能力者です。天候を自在に操ることができます。
「さぁな。神はとても気まぐれなお方だ。罪のない者をその時の気分次第で地獄送りにするくらいだからな」
そう言ったのは、序列四位のアベルでした。彼は地獄の支配人を任されています。炎を自在に操る能力者です。太い眉毛と強い目力が特徴的な中年風の男性です。
「ほっほっほ。それは何とも可哀想なお話ですな」
面白半分に憐れむのは序列五位のファルコ。ドイツで医者を務めていた元人間で、丸眼鏡をかけた白髪のおじいさん。毒を生成する能力者です。
「もしかすると、俺たちも気まぐれで地獄に落とされるかもしんねぇな。ふははは!」
カルロスさんは笑えない冗談を言いました。
「ま、まさか、今日は私たちの地獄行きを決める会議なのでは? 針山でブスブスされるのは嫌ですぅ! 全身穴だらけになって皆さんに笑われてしまいますぅ!」
そう言って嘆くのは、被害妄想の激しい序列六位。名はチコ。子供のような見た目ですが、年齢は三二〇歳。彼女は天界の支配人です。また、時間を操る能力を持っています。
「考えすぎですよ、チコ。多分、今日の議題はあなたではないと思います。だから泣かないでください。思考がネガティブ過ぎて少々ウザいです」
思ったことを素直に言う女性。彼女の名はレイア。青色の長髪とスレンダーな体型をしています。重力を操る能力者です。
かなり個性的な皆さんです。見ていてとても面白い。神の人材登用は大変素晴らしいと、僕は評価しています。
部下同士の間に序列は存在しますが、上下関係は存在しません。我々は年齢や地位、思想の垣根を超えて、それなりに仲良くやっているのでした。
「翔平。日本には将棋という遊びがあるそうだな。今度ルールを教えてくれ」
カルロスさんが声をかけてきました。
「将棋ですか? すみません。僕もルールを知らないのですよ」
「なんだ、アンタも知らねぇのか。せっかく始めようと思ったのによ」
すみませんね。将棋に触れる機会がありませんでしたので。
「なぜいきなり将棋を?」
ファルコさんが尋ねました。
「今度日本に出向くからさ。日本では将棋が強い男がモテるって聞いてな」
得意げに答えるカルロスさん。
「ほう、それは知らなかったですな」
ファルコさんは言いました。
将棋が強いとモテる? そんな話、僕も聞いたことありませんね……。
「それ、多分ウソですよ。あなたは騙されています」
冷静な返しをするレイアさん。僕もその可能性が高いと思います。
「は? ウソだって? あの野郎、またいい加減なことを……」
こんな感じで我々が和やかに会話をしていると……。
突如、鏡が輝きを放ち始めました。黄金の光が神の間に差し込みます。
ついに神がご登場されるようです。
僕たち部下は一斉に席から立ち上がりました。
光の中から姿を見せる一人の少女。
肩にかかる長さの赤茶色の髪。色白の肌。大きな瞳。
かなり整った容姿を持っています。人間のままであり続けていれば、きっとおモテになられていたことでしょう。
「全員揃っているようね」
彼女は六人の顔を見渡してから、そう言いました。
「はい。用意はできております」
僕は答えました。
「よろしい。では席に着きなさい。緊急会議を始めるわ」
部下たちは座り直しました。さっきまでの穏やかな雰囲気とは打って変わって、神の間には緊張感のある空気が漂い始めました。
神軍議会のメンバーが勢揃いしたのは、いつぶりでしょうか。昨年末の定例会議以来でしょうか。
少女は神の座に腰を下ろしました。これが会議の始まりの合図でした。
「今日集まってもらったのは他でもないわ。人間界の秩序を乱す女、柊春華についてよ」
神は言いました。
僕は「やはりそうか」と思いました。
神は焦っているのです。とうとう本格的に春華さんを危険視し始めたようですね。
これからますます面白いことになりそうだ……。
更なる試練が春華さんを待ち受けているのでした。
お読みいただきありがとうございます。
感想をお待ちしております。




