第7話
恭子は生物学のノートを開き、真剣な表情で教授の説明に耳を傾ける。
「哺乳類の胎生の特徴は……」
教授が黒板に図を描きながら解説する。恭子はノートに重要なポイントを丁寧に書き留めつつ、視線の端で教授の動きや声のトーンを観察する。教授は恭子に見られていることを意識してか、普段より少し動きが硬く、説明の仕方もわずかに慎重になっている。
「……隣の男子ではなく、彼女が私を見ている……」
心の中で微かな優越感を覚えつつ、教授は黒板に目を向け、説明を続ける。
恭子はその微妙な変化を感じ取り、心の中で小さく微笑む。授業内容をきちんと理解しながらも、教授の様子を観察する。この「学びながら観察する時間」が、彼女にとって小さな楽しみだった。
---
授業が終わると、恭子は立ち上がり、荷物をまとめる。隣の優子が声をかける。
「今日も先生と目が合ったんだね、恭子」
恭子は微かに頷く。
「……うん」
その時、藤堂和志が近づいてきた。少し躊躇いながら声をかける。
「ねえ、今日の授業終わったけど、お昼、一緒にどう?話したいこともあるし」
恭子は淡々と答える。
「……ごめんなさい、今日は遠慮しておきます」
藤堂は残念そうに肩を落とし、少し笑った。
「……じゃあ、また時間あるとき」
そう告げ、藤堂は去っていった。
優子は軽く恭子の肩を小突いて言う。
「あれは、藤堂くん、恭子に気があるよ!少しはときめかないの?」
恭子は微かに笑いながら答える。
「興味ないな…私は教授だけだから」
優子は眉をひそめ、少し首を傾げて言う。
「はぁ、やっぱりね。私が見るところ、教授の方もあんたに興味があるように見えたけどね。今日の授業でも恭子のこと、何回も見てたじゃん」
恭子は頬を赤らめ、微笑む。
「そうかな?」
優子はさらに真剣な目で続ける。
「もうさ、ストーキングとかやめなよ。お互い好意あるなら無駄な行為だよ」
恭子は小さく息を吐き、頷く。
「…うん、次は話しかけてみようかな」
その意外な答えに優子は目を輝かせ、両手を合わせて喜ぶ。
「そうそう!それで良いんだよ!」
二人は教室を後にし、柔らかい午後の日差しが差し込む廊下を歩きながら、微笑みを交わすのだった。
---
授業中も、恭子は教授を観察しながら学び、少しずつ心の距離を縮めています。
次回は、恭子がいよいよ教授に少しだけ話しかける瞬間を描く予定です。お楽しみに!




