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悪役家族の原作者◆転生先はテンプレ冷遇伯の妻でした◆  作者: ナユタ
第二章

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30/30

*2* 複雑な家庭が多すぎる。

 昨日マーサよりもたらされた情報に、矢も盾も堪らず毎日大騒ぎの朝の食育を終え、洗濯物を片付け、愛娘の寝かしつけをし、私についてくると言うマーサに『この家で娘を守れるのは貴女だけよ』と微笑み、渋る執事には『自分の目でも一度見てみたいの』とゴリ押して、お飾り妻のための護衛と馬車をもぎ取って出てきた――が。


「ふぅん……ナタリア様は天使だって言ってたのに、こんなもんかぁ。マーサ姉ちゃん嘘つきじゃん。マーサ姉ちゃんの方が美人だよ」


 押しかけのお忍びだし、マーサに聞いていた通りご年配のシスターだけで切り盛りしているここは、日々の仕事は多いはずなのに時間がゆっくり流れていたため、護衛もいるし大丈夫ですと言って視察をしていたらこれ。


 知らない大人の来訪に興味津々で寄ってきた子供達のうち、少し生意気そうな顔立ちで推定八歳くらいの男児から、純度百の素直さで放たれた洗礼を受けている。一瞬だけどシルビア様を思い出したのは何でだろうなぁ。


 そんな男児の発言を聞いて、背後で護衛が噴き出すのを堪える気配を察知。朝食を共にしはすれど、館内で働いている人間でなければ、私はまだ冷遇されている妻だ。笑ったところで主人の寵愛がないお飾り妻なんてこんなもんよ。


「あーあ、どうせなら今日もマーサ姉ちゃんが良かったなー。せっかく釣りに誘おうと思ってたのにつまんねーの!」


 どの世界でもだけど、恐らく十歳未満の子供の言葉には裏表も忖度もない。よってこれは害意からくるものではなく、心底そう思っての発言だろうと察せられた。ガキ大将的な見た目の男児の後ろには、同じ年頃の数人の男女。


 ボス格の彼の発言に不安そうな表情を浮かべる子がいる一方で、自分達のリーダーである彼に同調する子も結構いる。しかし問題はそこではない。この男児は非常に良いことを言った。


「そう、そうなのよ。良い目をしてるわね少年。マーサの素晴らしさをその歳で分かるなんて、君は見どころがあるわ」


 思わずしゃがんで目線を合わせ、肩を掴んで引き寄せた。私についてきてくれたせいで、正当な評価を受けられないマーサが褒められている。しかもそれが裏表のない子供からの言葉なことがさらに嬉しい。


 鼻息が荒くなりすぎないように注意したのに、やや引き気味に「お、おぅ」と返してくれる少年。ボスがたじろぐ姿に後ろの子供達も固唾を呑んでいる。


 マーサには貴族の侍女ではなく、ある商家の下働きだということにしてと言っているから、この少年のこれまでの言動は、私が彼女に我儘を言う商家の娘だと思ってのことだろう。少なくとも背後で雇主の契約妻を笑っていた護衛より男気がある。天晴よ。


「それとねぇ。私がマーサと同じような遊びが出来ないと思ったら、大間違いよ。こう見えて釣りだって出来るんだから。どっちがたくさん魚を釣れるか勝負してみる?」


「えー……本当かよ。そんなにどんくさそうなのに、虫さわれるの?」


「うふふ、そんなこと言って、負けるのが怖い?」


「はー? そんなわけねぇじゃん! ぜってーオレが勝つし!」


「それなら行きましょう。他の子達も一緒に来るわよね?」


 〝将を射んと欲すれば先ず馬を射よ〟とは言うけれど、今回は将がどこの誰かも分からないので、まずは情報収集だ。その情報収集に一番役に立つのは、忖度や偏見を知っている大人ではなくて、何にでも興味があり、思ったことは良くも悪くも口に出す子供である。


 その場にいた子供はガキ大将を含めて八人。内訳は男の子が六人、女の子が二人。女の子の方はどちらも六歳前後で、男の子の一人は三歳くらいかな? どの子も新しい遊び相手となる私に、割と好意的な目を向けてくれている。教会の大人は基本的に超忙しいから、遊んでくれる大人が珍しいんだろう。


 ――というわけで。


 色んなタイプのお子様達を引き連れて、ハーメルンの笛吹き男の如く、古い釣り竿とバケツを手にいざ征かん近くの小川。途中で最年少のオチビさんが服の裾を掴んできたので、私が持っていた釣り竿とバケツは護衛の人に持ってもらい、代わりに裾を掴んでいたオチビさんを抱き上げて歩く。


 三歳男児はそこそこ重たかったけど、うちの天使とは違った抱き心地で可愛かったし、慣れると話しかけてきてくれる女の子達は、娘が大きくなった時のことを想像できてとても良かった。早くお喋りできるようになってほしい。


 ガキ大将含む五人も一応気を使ってなのか、歩く速度はゆっくりめで、時々ここでのマーサのことを教えてくれた。二十分ほどで到着した小川は周囲の見通しも良く、そこまで流れも速くない。アイリーンが五歳くらいになったら、マーサと私で見ていたら遊びに来られそうな環境だ。


 場所取りもして早速釣るかとなった時、ガキ大将君が「さ、最初だけ針に虫つけてやる」と言って竿をひったくり、手慣れた様子でその辺の石の下から虫を捕まえてつけてくれた。この時点でうちの夫より紳士。


 差し出された竿を受け取って「優しいのね。ありがとう」とお礼を言えば、顎を突き出して変顔を見せてくれた。ト◯ロに出てくるカ◯タ少年みたいな子である。将来はラピュ◯のパ◯ー枠か。もし今後男児を産んで娘と追い出されたら、こういう子を娘の夫候補にしたい。


 ――で、護衛にはオチビを抱っこしといてもらうことにし、何匹か魚を釣って場が温まり始めた頃、満を持して「こんなに楽しいなら、他の子達も連れて来てあげれば良かったわね」と言えば、ガキ大将が釣り竿の先を睨みつけたまま「ほかの子なんてもういねーし」と、唇を尖らせた。


 すると女の子の一人が「ちょっとだけいたけど、すぐいなくなったの」と教えてくれ、もう一人が「お母さんときた子だったの」と良いパスをくれる。でもガキ大将率いる少年チームは、全員不機嫌な表情になって口々に。


「あんなお母さんなら……ぼくいらない」


「すーぐギャアギャア怒鳴るしなー?」


「チビがだっこしてほしがったら、つきとばしたんだ!」


「夜中にトイレに起きたらさぁ、もう引き返せないとか、何で自分がこんな目に〜とか、シスターに言ってたぜ」


「うん。おんなじこと言って置いてった、うちの父ちゃんみたいだった」


「あ、あらー……そうなのね。それは、んん、嫌かも。マーサが聞いてたら気合を入れにいったかもしれないわ」


「でしょ」「だろー」「ん」「だよな」「やっぱり」


 ――と、そう証言してくれた。どうやらこの物語(世界)の主人公(仮)である赤ん坊と、その母親らしき人物の間には強い愛情の絆とかないっぽいな。


 こういうお話だと、大体は平民で貧しいけど母娘は愛情で結ばれてて、ヒロインが十代の頭くらいで母親が病気で亡くなり、いきなり父親を名乗るクズ男が現れるのがお約束じゃない? 貧相な偏見で申し訳ないけどさ。


 それで娘の可愛さとか美しさを使って高位貴族に取り入って、途中軽く陰謀渦巻いたりしつつ、最終的にヒロインの愛に絆されたヒーローから断罪されて、急転直下のハッピーエンドが王道だって担当さん言ってたよ。


 今の話をまとめると、ヒロインの母親にとって彼女はお荷物で、だというのに連れて逃げる必要があった。それに一応の原作者としては、もう引き返せないという発言も気になる。何から引き返す? クズにお手つきされたとしても、産んじゃったら引き返せなくない?


 そして意味深な発言の後、彼女は娘を連れていなくなったと。我ながら謎が深まるなこの世界。今夜は面の揃わない性癖ルービックキューブで、迷走メモだらけチャートを引きまくった、家族の破滅しかないあのデスノートに書くことがいっぱいありそうだ。うふふ、美容の大敵すぎ〜。


 と悩んでいたら、小川に糸を垂らしていた竿の先が、一際グゥンと大きくしなって。子供達の歓声と共にでっかいナマズが釣れた。私の完全勝利に頭を垂れたガキ大将の旋毛よ、その旋毛のように乱れたこの心を慰めてくれ。

 

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― 新着の感想 ―
ショタコン直撃なんですが!なんなん!エサを付けてくれちゃうの!?ガキ大将め!!(*´艸`*)♡♡♡
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