74、アルくんが訓練している集落のお昼
「1連目は増えてないけど、チェーンブレスレットが4連になったよ」
私は、黒い髪の人化したスライムに、ブレスレットを見せた。4連になったことで、かなり派手なアクセサリーに見える。
(あれ?)
そう考えていると、4連のチェーンは1本にまとまった。形を自由に変えられるのね。
「そうか。1連目は埋まらなかったんだね。もう他には、魔力の高いスライムは居ないんだよな」
黒い髪の人化したスライムは、集落を見回してるけど、本当に他にはいないみたいで、腕組みをして何かを考え始めた。
「でも、ネイルリストのレベルが上がったよ」
「それなら良かったのかな? まぁ、うん。今日は、この集落でゆっくりしてよ。アルの訓練が終わるのは夕方だからね。あっ、そろそろ昼ごはんかな?」
アルくんが小屋に入っていく姿が見えた。休憩所に使っているのかも。
「あの小屋で、昼ごはんを食べるの?」
「あぁ、そうだよ。人化しないと小屋には入れないから、みんな人の姿に変わっていくだろ? 村長の料理を食べたいスライムは、あの小屋に集まるんだ。オレ達も、早く行こうよ」
「ふふっ、村長さんの料理は、ここのスライム達にも人気なんだね」
黒い髪の人化したスライムと一緒に、私もその小屋へと移動した。
◇◇◇
「わっ! すごい人だねー」
アルくんが、近くにいた人化したスライムに袋を渡すと、その袋を持つスライムに人だかりができてる。
「オレも、無くなる前にもらってくるよ」
黒い髪の人化したスライムは、その人だかりに突進して行った。ほんと、ヤンチャだよね。
「ジュリちゃん、一緒に食べよう。俺達の分は弁当だから、安心して」
アルくんが、ニコニコして近寄ってきた。私が人だかりをジッと見ていたからかな。
「うん、一緒に食べよう。あの袋には、村長さんの料理が入ってるんだよね? こんなに人だかりになってると、足りないよね」
「魔法袋だから、たくさん入ってるんだ。ほら、ジュリちゃんがいつも持ち歩いている魔法鞄と同じだよ」
アルくんにそう言われて、外出時にはいつも斜めがけしている鞄に視線を移した。漁師のお兄さんが、私の7歳の誕生日にくれた物だけど、2年経っても全く汚れない。
魔法鞄の容量はわからないけど、飲み水の水筒と、オバサンが焼いてくれた焼き菓子と、布袋に入れたお金が少し入っている。ずっと入れっぱなしだけど、水も焼き菓子も腐らないから不思議ね。
「おっ! 今日の弁当は、青いビーツが入ってる」
アルくんがお弁当を開けて、嬉しそうな顔をしてる。私も蓋を開けてみると、青くて透き通った大きな丸い野菜が入っていた。噛むとシャリシャリと音がする不思議な野菜なんだよね。
「この青いビーツって、どこで栽培してるのかな?」
「たぶん、緑の集落の奥の集落だと思うよ。見たことはないけどね」
「すごく広い集落というか、山の中みたいだもんね」
アルくんは、青いビーツから食べてるみたい。シャリシャリと音がしてる。味は野菜というより果物っぽい。
「ジュリちゃん、俺、大陸に行く自信がないんだ。こんなことを打ち明けるのは情けないんだけどさ。ブラックさんが、ジュリちゃんは前世の記憶があるから、俺よりも大人だって言ってた」
お弁当を食べながら、アルくんが初めて、私に弱音を吐いた。もうすぐ13歳になる彼が、9歳になったばかりの私に相談するのは、恥ずかしいと思ってるのね。
「うん、私は、前世は18歳で事故に遭って、20代半ばで死んじゃったみたいだから、アルくんよりも頭の中は、大人だよ。大陸に行くのが怖い一番の理由って、何かな?」
「俺は青い髪だし、王族だとバレてるからな」
「ん? 顔バレしてるの?」
「いや、そうじゃない。鮮やかな青い髪を持つ子供は、王家の血を引くと言われて殺されてきたんだ。だから、生き残っている子供は、おそらく俺一人だ」
「他にも青い髪は、いるんじゃない? あの集落でも、青い髪を見かけたよ?」
私がそう返すと、アルくんは静かに首を横に振った。
「俺と全く同じ髪色の人はいないと思う。ある魔道具の光を当てると、俺の髪は白く見えるんだ」
「アルくんも白い髪なの?」
「いや、違う。スライム神の洞穴で聞いただろ? 最期の王の子孫には、白い髪の子は生まれないんだ。だけど王族の髪は、魔道具の光を当てると、白く見えるんだ」
(なるほど)
よくわからないけど、青い髪に魔法の光を当てると、色が飛ぶのかな? たぶん、魔力を帯びた髪だからだよね。
「アルくん、髪色を変えることはできるよ」
「しずく種やまだら種のスライムだろ? でも、近くで見るとバレてしまうよ」
「あの子たちじゃなくて、ネイルだよ。私の髪がいつもと違う気がしない?」
「ネイル? 髪? そういえばサラサラしてる?」
「うん、ベースコートを使ってるの。アルくん、お弁当は食べ終わった?」
「ちょっと待って」
アルくんは、弁当箱とは別の包みを開けて、バーガーを食べ始めた。たくさん食べるのね。
(あっ、あの子たちが来た)
私が何かをするつもりだと察したのか、私を知る人化したスライム達が、目を輝かせて近寄ってくる。
「ジュリちゃん、食べ終えたよ。何をするんだ?」
「ヘアマニキュアだよ。ネイルの新しい能力なの」
「へあって、何?」
「髪の毛だよ。髪にマニキュアできるの。やってみるね」
(ネイル、起きてる?)
『はい、大丈夫れす」
(ふふっ、ちゃんと話せてないよー。最初だし、赤にしようかな)
『はい、では、ジュリさん、パレットを呼び出し、左手を上にあげて、【ヘアマニキュア】と言ってください』
(うん、わかった)
「パレット! ヘアマニキュア! 赤!」
私は、左手を上にあげて、ゆっくりと声に出した。
私の頭の上に、光の集まりが現れ、そこに、左手首のチェーンブレスレットから別の光が合流した後、光の粒のシャワーが、私の頭に降り注ぐ。
「うおっ! すげっ! ジュリちゃんの髪色が、完全に赤色になった! 一本一本が、普通に赤い髪だよ」
私も、横の髪を見てみる。いつもとは違って、真っ赤だから、変な感じがする。そういえば前世で、美容院でヘアマニキュアしたことがあったな。ただのツヤ出しだったけど。
「クリアで落とすこともできるよ。ヘアマニキュアの色は、爪に塗るマニキュアとは違って、赤、黄、青、緑の4色だけどね」
「じゃあ、俺も?」
「うん、1連目と3連目が全部埋まれば、アルくんにも使えるって。3連目は埋まったから、あと1連目のひとつだよ」




