71、ジュリ9歳になる
『おはよう! ジュリちゃん、9歳のお誕生日おめでとう! ボクは3歳になったよ』
翌朝、いつもより少し早い時間に目が覚めると、キララの元気な声が聞こえてきた。
「ん? 誕生日?」
『そうだよ。ボクとジュリちゃんとネイルは、同じ誕生日だからね!』
「そっか。やっと、9歳かぁ。まだ子供だけど」
『ジュリちゃんは、他の9歳の人間より少し背は低いけど、中身は大人だから大丈夫だよ』
「ふふっ、キララありがとう。キララもお誕生日おめでとう。ネイルは1歳になったんだね」
『ありがとう! うん、ネイルは1歳になったね。二つ目の物質スライムは成長が早いから、ボクが2歳のときより魔力が高いよ。それに、よく寝てるし』
「今も寝てるの?」
『うん、ほとんどの時間は寝てるよ。ジュリちゃんが呼びかけると、慌てて起きるけど』
「寝る子は育つというから、それもいいかもね。今日はアルくんと一緒に出かけるから、それまでには起きるかな?」
『今、起きようとしたみたいだけど、また寝たよ』
「ふふっ、キララは、しっかりお兄ちゃんしてるね」
『まぁ、そうだね。ネイルは早く成長しなきゃって必死になってるし、真面目なんだと思うよ』
「そっか。キララは元気いっぱいだけど、ネイルはおとなしいもんね。ネイルは、キララがいるから安心して寝てるんだよ」
『ボクは、お兄ちゃんだからね』
(ふふっ、かわいい)
キララがドヤ顔をしているような気がして、その姿を想像すると、かわいくて面白い。キララの明るさには、私はずっと支えられてるね。
着替えて食堂に行くと、オバサンはもう、お弁当を作っていた。オバサンは料理が好きみたいだけど、たくさんの人の分のごはんやお弁当を作るのって、大変な仕事だと思う。
「ジュリ、おはよう。今朝は早いね。もうすぐパンが焼き上がるよ。顔を洗ってきな」
「うん、おはよう。何だか早く目が覚めちゃった」
顔を洗っていると、パンの香ばしい匂いに釣られたのか、ロックスさんが起きてきた。
「ジュリちゃん、早いね。漁の手伝いがあるのに、イーグルはまだ寝てるよ」
「ロックスさん、おはよう。うん、今日はアルくんが訓練してる集落に行くから、何だか早く起きちゃった」
「山の中に行くのか。キララがいるから大丈夫だと思うが、魔物が増えているから気をつけてな」
「ん? 動物じゃなくて魔物?」
「あぁ、魔法を使う鳥だ。漁船が襲われたこともある」
(ひぇ〜!)
鳥ってことは、空を飛べるから、珊瑚礁があっても島に来ることができるのね。
「ロックスも、早く顔を洗ってきな。パンが焼けたよ。渡り鳥のことを言っているのかい?」
「はい。渡り鳥なんですか? 漁船の帆が切られたし、土弾の魔法を使っていましたよ」
「あぁ、それは人喰い鳥だね。人間が出すニオイで寄って来たんだよ」
(人喰い鳥!?)
オバサンは、サラリと話してるけど、私は背筋が凍った。
「青い髪の漁師も、人喰い鳥だと言っていました。大陸には居なくて、小島に巣がたくさんあるんですよね」
「あぁ、大陸は、海岸にいるスライム達が、人喰い鳥を寄せ付けないんだよ。スライムは、人喰い鳥を丸呑みするからね」
「かなり大きいですよ? 人間の倍はある鳥ですが」
「スライムが捕食するときは、数体で飛びかかるよ」
(伸びるもんね)
「何日か前から、漁船に大きなスライムが乗っているのは、そのためなんですね」
「そうだろうね。ジュリ、ちゃんとネイルを塗っていくんだよ? 渡り鳥も人喰い鳥も、風魔法に弱いよ」
「はーい、わかったの」
「村長さん、ジュリちゃんには物質スライムがいるから大丈夫じゃないんですか?」
「いや、物質スライムは、鳥を喰わないからね。私も、山の中で襲われたことがあるよ。まぁ、奴らでは私のバリアを壊せないから、実害はないけどね」
(物質スライムは何も食べないもんね)
「うわぁ! 寝坊しました! すみません」
私達の朝ごはんが終わって、食後のプリンみたいなデザートを食べていると、アルくんが慌てて起きてきた。髪の毛がぐちゃぐちゃになってる。
「やっと起きたのかい。髪が全部左を向いてるじゃないか。髪を整えてやるから、顔を洗ってきな」
「は、はい!」
最近のアルくんは、夜なかなか眠れないみたい。ずっと元気がないし、心配だよ。
『ジュリちゃん、アルは焦ってるみたいだ。アルの物質スライムが、毎日、大陸の状況を知らせてるからだと思う』
(どうして毎日知らせるの?)
『アルがそれを命じているみたいだよ。アルを狙った襲撃は減ってるけど、まだ続いてるからね』
(えっ? 海辺の集落には来てないよね?)
『あぁ、最近は、アルが訓練している集落への道を狙っているみたいだね。だから、人化するスライムが、アルがここを出ると、迎えに行くみたいだ』
(それが余計に負担になってるのかも。アルくんは、皆に迷惑をかけてると思い込んでるよ)
『人化するスライム達は、人間をペット扱いしてるから、迎えに行くのも楽しいんだと思うよ。だけど、アルは、それを素直に受け入れられないんだ』
(そっか。アルくんは責任感が強いもんね)
アルくんは、オバサンに髪型を整えてもらいながら、急いで朝ごはんを食べてる。
「アルくん、私、ネイルを塗ってくるから待っててね。ネイルがまだ寝てるから、少し時間がかかるかも」
「えっ? あ、あぁ、わかった」
私がそう言うと、アルくんの手が止まった。朝ごはんは、ゆっくり食べないとね。
『ジュリちゃん、お誕生日のことを言わないの?』
私の部屋に戻ると、キララがそう尋ねてきた。
「うん、そんな雰囲気じゃないからね」
『でも、海辺の集落では、物質スライムを持つ子供の誕生日は、お祝いするんだよ?』
「そっか。物質スライムの誕生日でもあるもんね。キララ、後で、こっそり村長に言っておいて」
『うん! そうするね! ネイルを起こさないと』
「まだ寝てるの? ふふっ。ネイル! 起きて! 私、出かけなきゃいけないんだよ」
そう声をかけると、ネイルが慌てて目を覚ました気配がした。
『ジュリさん、あれ? あっ、オレ1歳になってます。ジュリさん、お誕生日おめでとうございます』
「ふふっ、ありがとう。ネイルも1歳のお誕生日おめでとう。山の中に行くよ。人喰い鳥がいるかもしれないって」
『わかりました。セレクトします!』
私は、ネイルが選んだマニキュアを、10本の手の爪に塗った。
(あれ? 何かな?)
いつもの白いパレットの上に、見たことのないボタンが付いていた。




