70、なぜか連れて来た二人
「はぁ、どっと疲れたね。晩ごはんは、簡単な物にするからね」
あの後、オバサンは帰ると言い出して、キララの転移魔法で、海辺の集落に戻ってきた。
なぜか、茶髪のタームさんと、ちょうど様子を見に来たオレンジ色の髪のオジサンも、一緒について来ることになった。オバサンが、一方的に命令した感じだけど。
「海辺の村長のごはんは、久しぶりですね。僕が半年ほど前に戻って来たときは、海辺の集落がゴタゴタしていたから、顔を出せなかったんですよ」
茶髪のタームさんは、懐かしそうな顔をしている。彼は、飛行の物質スライムを失って、島に戻ってきたと言ってた。大型船で来たわけじゃなくて、物質スライムの帰還能力で戻ってきたんだっけ。
「ターム、聞こえなかったのかい? 疲れたから、簡単な物しか作らないよ。ジジイは、先に風呂に入りな。何日も身体を洗ってない臭いがしてるよ」
「いや、着替えを持ってないから……」
「えっ? 何だって? 着替えならあるから、さっさと入ってきな。ターム、その棚から適当に持って行ってやっておくれ」
オレンジ色の髪のオジサンは、ほんとに気が弱いのね。オバサンに素直に従ってる。年齢的にも、オバサンの方が年上に見えるし、村長としてもオバサンの方が格上だからかな。
晩ごはんは、食堂の椅子の都合もあって、ロックスさん達が先に食べていた。オバサンは、ロックスさんやイーグルさんのことは信頼してるけど、イーグルさんが連れて来たオーロンさんとナイツさんのことは、まだ信用してないみたい。
彼らを先に食べさせたってことは、寄せ集めの集落のことを、アルくん達に相談したいのかも。
私がそう考えていたときに、アルくんが帰ってきた。やっぱり、今日も元気がない。自分のせいで皆に迷惑をかけてるとか、いろいろと思い詰めている気がする。
「ジュリ、悪いけど、風呂場の確認を頼めるかい? ジジイが入ったから、泥だらけだと思うんだよ」
(お湯の入れ替えね)
「はーい、わかったの」
「アル、別の集落の住人を二人、しばらく海辺の集落で、預かることになったよ」
オバサンは、風呂上がりでホワンとしてるオレンジ色の髪のオジサンと、茶髪のタームさんの紹介を始めた。
私は、風呂場を見に行って、すごく驚いた。
(泥じゃなくて、ヘドロだよ)
オレンジ色の髪のオジサンは、浴槽に入って、その中で身体を洗ったみたい。お湯が何だか深緑色に濁ってる。
「ネイル、このお湯を綺麗にするには、どうすればいいかな? 全部入れ替える?」
『浄水で大丈夫だと思う。ジュリさん、まだマニキュアが残ってますよね?』
「うん、じゃあ、ウォータースライムの浄水魔法!」
浴槽に手を向けてそう叫ぶと、お湯の上に光が降り注いだ。そして、どんどん透明になっていく。光が収まると、いつものお湯になっていた。
(魔法って、不思議だよね)
「ネイル、これでいい?」
『はい、大丈夫です。スライムが出している湯だから、放っておいても、時間が経てば浄水できたと思うけど、人間が風呂を使いたがる時刻ですよね』
「ロックスさんやイーグルさん達は特に、早くお風呂に入りたいんだと思うよ」
『あっ、ジュリさん、ベースコートの塗り直しをお願いします。そのまま眠ると、何かが誤作動を起こすとマズイので』
(キングパープルの毒だよね)
「はーい、わかったの」
返事をすると、すぐにベースコートと銀ラメが乗っている白いパレットが出てきた。両手の爪に、ベースコートを塗っていくと、派手派手なマニキュアがスーッと消えていった。最後に、左手の小指に銀ラメを塗って、完成ね。
◇◇◇
晩ごはんの後、オバサンは、アルくんが好きな甘酸っぱいジュースを作り始めた。食堂には柑橘系のいい香りが広がってる。
「アル、ちょっと相談があるんだよ。ジジイとタームも、座っておくれ」
(私は、いらないの?)
部屋に戻れとも言われてないから、私は、オバサンのジュースが出来上がるのを待っていた。
「村長、あの集落での問題ですか? 訓練に行っている集落でも、大きなスライムの噂は聞いています。たぶん、若いスライムが……」
「いや、その件は、もういいんだよ。大きなスライムの正体が、ジュリの友達だとわかったからね」
(あれ? もういいの?)
「じゃあ、青い髪の人間が、何か悪さをしているのかな」
「そうじゃない。ジュリのネイルの話だよ。ジュリは、友達のスライムからも、色を集めたんだ。色が一つ増えたから、残りあと一つなんだよ」
(1連目の話?)
「へぇ! ジュリちゃん、良かったな」
「うん、あと一つで、1連目が埋まるよ」
アルくんは、やっと笑顔を見せてくれた。ジュースも美味しい!
「それで、アル。ジュリをアルが訓練に行っている集落に、連れて行ってやってくれないかい? 早く1連目の色を集め終えないと、マズイ気がするんだよ」
「いいですよ。俺が訓練している集落には、たくさんの人化できる大きなスライムがいるし、俺にも優しくしてくれますから」
「そうかい、助かるよ。大きなスライムなら、色はもらえるだろうからね。人化できる大きなスライムから、ジュリは色を集めているよ」
「でも村長、1連目の色を集めたいなら、もっと強いスライムがいる集落の方が良いかもしれないですよ? ジュリちゃん、どんなスライムが必要なのかな」
(わっ!)
オバサンが作った甘酸っぱいジュースを、コッソリおかわりしようと思ってたら、アルくんに急に話をふられて、コップを落としそうになった。振り返ったオバサンに、見つかってしまったじゃない。
「ジュリ、それは、アルの分だよ? アルは喉が渇いているはずだからね」
「あはは、えーっと何だっけ?」
「ふふっ、ジュリちゃんが飲んでいいよ。1連目の色は、どんなスライムがいいのかな」
「ん〜、わかんない。でも、マニキュアとして使いにくい色が多いから、はっきりとした個性があるスライムかなぁ?」
「はっきりとした個性か。難しいな」
私は、ジュースをアルくんのコップに少し入れてから、残りを全部自分のコップに入れた。クスッと笑ったアルくんが、少し大人っぽく見えた。オバサンには、睨まれたけど、アルくんが笑ったから、これでいいよね。
「じゃあ、明日、ジュリを連れて行ってくれるかい? ジジイとタームには、他の候補地を考えて欲しいんだ」
(あっ、それで連れて来たの?)
私が寝る時間になっても、オバサン達は話をしていた。懐かしい昔話もしているみたい。
「私は、先に寝るね。おやすみなさい」
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次回は、11月11日(火)に更新予定です。
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