69、大きな黒いスライムは人間を諭す
「な、何なんだよ、この子供は……」
私は、剣を手放した人達に、鋭い視線を向けている。私を斬り殺そうとしたことを、簡単に許すわけにはいかない。
それに、私をかばって斬られたキララの左腕は、ダランとしたままだもの。キララは、人間の腕の強度にしてあるって言ってた。つまり、人間を斬るチカラで、剣を振り下ろしたことになる。
(本気で、私を殺す気だったんだ)
私は、牽制のために、再び彼らに両手を向けた。火魔法と土魔法と水魔法は使ったから、その分のネイルは取れている。だけど、風魔法や毒は残ってる。でも、集落の中では使いにくいな。使うなら魅了がいいかも。
「ひっ……このガキ、頭がおかしいんじゃないか」
「何を言ってるんだい! 頭がおかしいのは、アンタ達の方だろ! 何もしていない子供に斬りかかったのは、アンタの方だ!」
オバサンも、すっごく怒ってる。一方で、茶髪のタームさんは、オロオロしてるけど。
「ジュリちゃん、手を下げて。キミ達、この島は、スライム神が統べる島ですよ。スライムを嫌うなら出て行きなさい」
黒い髪の人化したスライムが、私に斬りかかってきた人達に、忠告した。私も仕方なく両手を下ろした。
「何だよ! アンタも、スライムの加護なんてないんだろ? あれば、そんな真っ黒な髪にはならねぇからな。どうして、白い髪のガキの味方をするんだ。白い髪は、呪われた証だぞ。ダークスライムを生み出すんだ」
黒い髪の人化したスライムは、私の顔をチラッと見た。そして、ダランとしたキララの左腕に視線を移し、何かを決意したように、彼らの方を向いた。
「彼女は、呪われてるわけじゃないですよ。それは、白い髪に生まれた子を恐れて、大陸の人化するスライム達が流した噂でしょう」
「はぁ? 大陸にいるスライムは、人化なんて、できねぇよ。この島の海辺の集落にいるスライムだけだ」
(何も知らないのね)
「キミ達は、あまりにも無知ですね。大陸には、数百体を越える人化したスライムがいますよ」
そう言うと、黒い髪の彼は、大きな黒いスライムに姿を変えた。それに合わせるように、他の人化したスライム達も、次々と大きなスライムに姿を変えていく。
もう、土魔法の壁は消えてたから、市場にいた人達は大騒ぎになってる。みんな、大きなスライムは怖いのね。
「な、なぜ……。おまえはダークスライムだったのか」
(あーあ)
彼らは驚きすぎて、腰が抜けたみたい。濡れた地面に座り込んでる。ズボンが泥だらけになってるよ。
『オレは、ダークスライムではありません。元々は赤いスライムでしたが、大人になる過程で、彼女の影響を受けたんですよ』
「ほら! やはり、白い髪の子供はダークスライムを生み出すじゃないか!」
『ここにいる大きなスライムは、すべて彼女の影響を受けました。彼女は私達にとって、母親も同然の存在です。それを、キミが殺そうとして、斬りつけた!』
色とりどりの大きなスライムを見て、彼らはガタガタと震えているみたい。大きなスライムに殺されると思ってるのかな。あっ、何か調べたのね。私に斬りかかってきた人とは別の人が、道具を持ってる。
『キミ達は、道具を使わないと、スライムか否かの識別ができないみたいですね。なぜそれを大陸で、妙なことを言う人に使わなかったのですか』
「いや、これは、ステイタスを調べる機械だから……」
『私達の能力がわかったということですか』
「あ、あぁ、その、黒いアンタは、人間には絶対に倒せないほど強いことがわかった。他のスライムも、海辺の近くにいる草原の大きなスライムより、圧倒的に魔力が高い」
(へぇ、すごいのね)
『それが、彼女の影響を受けた結果ですよ。白い髪は、異世界からの転生者の証です。そして、前世の記憶を保持している。オレが黒いのは、彼女の前世の髪色と同じ色になったのでしょう。赤いスライムは、赤の王国を支えています。彼女は赤の王国の生まれだから、赤いスライムのオレが、最も強く影響を受けたようですね』
大きな黒いスライムは、彼らを諭すように、穏やかに話してる。ムキーッと怒っていた私とは、全然違う。
彼らがおとなしくなると、スライム達は、人の姿に変わった。たぶん、その方が、怖がられないからかな。
「他にも、いるのか?」
(何の話?)
「人化するスライムですか? この島には大勢いますよ。毎日何人かが、人間の集落を巡回しています。ただ、余程のことがない限り、スライムだということは明かしません。今回は、キミ達が彼女を殺そうとしたので、緊急事態だと判断しました」
「いや……白い髪は恐ろしくてさ。身体が勝手に動いちまった。悪い」
「オレ達は、人間達がケンカをしている姿を見るのは、好きではありません。どうすれば、この集落の人間は仲良くできるのでしょうか。弱いスライムを蹴散らそうとするのも、多くの不満を抱えているためですよね?」
「あぁ、そうかもな。大陸は戦乱とダークスライムの脅威で、皆が、おかしくなっているのかもしれない」
彼らは、まだ立ち上がらずにドンヨリしてる。
「あー、もう! これだから、この集落は嫌いなんだよ。人間が統率できないんだったら、スライムに任せるかい?」
オバサンは、大きなスライムの誰かを村長にする気なのかも。
「海辺の村長、オレ達には別の役割があるから、それはできないですよ。ジュリちゃんが大陸に行くときには、護衛で同行するつもりなので」
(えっ? そんなの聞いてないよ?)
「そうだったね。ネイルが成長したら、キララが大陸に行くと言っていた。だが、戦乱中の大陸に行くのは、やはり……」
「村長、大丈夫ですよ。ジュリちゃんは、さっきの彼の剣では、傷付けることなんて出来ません。キララが咄嗟にかばったけど、それは、剣を振り下ろした彼を守ったんですよ」
「どういうことだい? あっ、確かにジュリは、防御系の術も使っていただろうけどさ」
「あんなに強い殺意で斬りかかったら、カウンターを喰らいますよ。キララが、かばわなければ、彼は即死だったでしょうね」
「そうなのかい?」
「はい、ジュリちゃんは、キングシルバーの盾を使っていますから、確実に、自動発動する盾のカウンター攻撃を受けますよ」
(そうなの?)
キララに尋ねてみたけど、キララもよくわからないみたい。物質スライムより、大きなスライムの方がキングシルバーの力を知っているのかな。




