68、ジュリ、キレる
「なぜ、スライムに剣を向けるんですか」
「は? おまえも、ダークスライムに襲われたんだろ? スライムなんて、有害な魔物でしかない」
(あちゃ……)
人型のアンドロイドのような姿のキララの転移魔法で、私達は、集落の中心地の広場に移動した。市場があると聞いていたけど、地面に敷物を敷いた上に売り物を並べただけの店が、いくつかあるだけなのね。
白い髪の私やキララが現れても、誰も騒がないし、ケンカをしている人達は気づかないみたい。
オバサンは、茶髪のタームさんに、何かの合図をしている。タームさんは、飛行の物質スライムを持つ療養中の住人だから、きっと一番説得力があるよね。
「何のケンカですか。海辺の村長が来ているんですよ」
タームさんは、オバサンの名前を出してる。この島にいる物質スライムの中では、オバサンの物質スライム達が一番格上なんだっけ。
「は? なんだ、おまえは? 海辺の村長がどうしたって?」
(全然、効果がないみたい)
「海辺の村長には、島に住む人間の追放権限がありますよ。騒ぎの原因は何ですか。剣を収めてください」
タームさんにそう言われて、ケンカしていた人達は、嫌そうな顔をしてオバサンを睨んでる。オバサンが海辺の集落の村長だということは、知っているみたい。
「俺達は、別に何もしていない。邪魔なスライムを蹴散らしただけだ。人間の集落をスライムがウロウロしているなんて、おかしいだろ」
さっきまで洞穴にいたスライム達は、人化してるけど、剣は持ってない。たぶん、人間のフリをして話し合いで解決するつもりなんだろうけど。
「ここは、スライム神が統べる島ですよ? スライムが居なければ、人間は生きていけない。スライムは、同じ髪色の人間を守っています。大陸でも同じでしょう?」
黒い髪の人化したスライムが、丁寧な言葉で説明したけど、剣を持つ人間にはわからないみたい。聞こえないフリをしている。
(ムカつく!)
他の人化したスライムの後ろには、いろいろな色のスライム達がいる。かなりの被害があるみたい。地面に広がって伸びているスライムは、殺されたのね。
死んだスライムは、地面に吸収されると聞いたことがあるけど、こんな踏み固められた硬い地面だと、吸収されないのかな。
「アンタ達、いい加減にしな! 隣の赤の集落なら、剣を抜いた者が罰せられるだろ。市場で剣を振り回してんじゃないよ」
「は? 何だと? 追放したくても、俺達を追い出すことなんて、できないだろ。もう大型船は、来やしないぜ」
オバサンが強い口調で叱っても、剣を持つ人達には効かないみたい。オバサンは、大きなため息を吐いた。だからこの集落には来たくなかったって顔をしてる。
彼らが、私やキララを全然見てないことが不思議すぎる。もしかして、キララが隠してる?
『ジュリちゃん、たぶん、キングシルバーの盾の常時発動が強くなってるよ。だから、ボク達を認識できないんだ』
(そうなの? 剣を持つ人間がいるから?)
『うん、そうだと思う。どうする? 村長は、このまま帰りたいみたいだよ』
(だよね。オバサンは、この島に住む人間達のケンカを仲裁することが仕事じゃないもんね)
『海辺の村長には、島を守る役割があるけどね』
(うん、だから、あまり乱暴なこともできないよね。恨まれたら、って考えるだろうし)
大陸の中が戦乱中だから、この島に来る人間は、以前とは変わってきたのだと思う。でも人間同士の争いが、この島の中で起こると、きっとスライム神が悲しむ。
「とにかく集落内で剣を抜くのは、禁止だよ。弱いスライムを蹴散らすのもナシだ」
オバサンがそう言ったけど、やっぱり、剣を持つ人達は無視してる。イライラしてるみたいだし、ポヨンと飛び跳ねたスライムを見つけて、ウズウズしてるみたい。
(キララ、私、ムカつく!)
『じゃあ、海辺の集落に帰ろうか』
(違う、そうじゃない)
私は、オバサンの前に、ズイッと出ていった。
「えっ? 白い髪……」
「アナタ達! 剣をしまいなさいっ! 市場で剣を振り回す人なんて、いないわよ!」
私は、思わず、怒鳴っていた。
「こんな所にも、呪われた髪の子供がいたのか。だから、ダークスライムが増えるんだよ!」
(えっ……)
その人達は、私に剣先を向けた。そして、あっという間に、間合いを詰めてきた。
キン!
「ジュリ! アンタ達! 何を……」
(私、切られた?)
一瞬のことでわからなかったけど、私をめがけて、剣が振り下ろされるのが見えた。
(でも、痛くない)
「あっ! キララ!」
アンドロイドのような姿をしたキララが、私の前に立っていた。キララの左腕が肩からダランとしてる。あっ、ポキリと折れてる! 私をかばって斬られたんだ。
「な、なんだ? これ……」
「キララを斬ったのね! 許さない!」
私は、両手を剣を持つ人達に向けた。
「ジュリ! ダメだよ」
オバサンが止めようとしたけど、私の怒りは止まらない。
「レッドスライムの火魔法!」
私の左手から、ぶわっと炎が飛び出した。私がイメージしていたより何倍も強い。
『ジュリちゃん、市場が燃えちゃう』
(大丈夫だよ)
「イエロースライムの土魔法! ブルースライムの水魔法!」
私は怒っていたけど、冷静だった。市場に土魔法で壁を作ってから、炎を水魔法で消した。
「な、何なんだ! スライムか、おまえ……」
炎は派手だったけど、すぐに消したし、剣を持っていた人達は剣で防いでいたから、大した怪我はしていない。
「私は、ジュリ。二つの物質スライムを持ってる。これは、物質スライムの能力。もっと増幅することもできる。アナタ達は、私を殺そうとしたでしょ? 私は、アナタ達を返り討ちにできるよ」
「ひっ……何なんだ? そんな……ん? その奇妙な生命体は……」
「この子も、私の物質スライムだよ。アナタが斬ったから、腕が折れちゃったじゃない!」
「物質スライムが簡単に折れるのかよ!」
(あれ? そうよね)
『ジュリちゃん、ボクは大丈夫だけど、内緒だよ。この人間達に、理解させないとね』
(キララ? 大丈夫なの?)
『うん! 人間の腕と同じ強度にしていたから、折れたんだよ。指輪に戻ったら、リセットされるから大丈夫』
(そっか、よかった)
だけど私は、表情には出さないように気をつけて、剣を持つ人達を睨みつける。
「ジュリ、ほんとにやめておくれよ? この付近が丸焼けになるかと思ったよ」
オバサンがそう言ったことで、彼らは青い顔をして、ポトリと剣を地面に落とした。




