67、集落に起こっている問題
「ねぇ、みんなは、どうして人間の集落にいるの?」
ふざけ合ってる大きなスライムに尋ねると、ピタリと動きを止めた。天井がプラネタリウムみたいにキラキラしているから、洞穴内がよく見える。
『この洞穴のヌシが、困ってたからだよ』
黒いスライムがそう答えると、霧の状態になっていた変異種が、深緑色のスライムの姿に戻った。
(長じゃなくて、ヌシなのね)
「何かあったの? 大きなスライムがいることで、集落の人間が怖がってるよ」
『ジュリちゃん、この洞穴にいるスライムが変だってこと、わかる?』
大きな黒いスライムに尋ねられて、私は、周りをぐるっと見回した。赤ん坊ばかりかと思っていたのに、赤ん坊のように小さなスライムは居ない。
「人間の言葉が理解できない子が多いなって思ってたよ。でも、その理由はわからない」
『そっか。ジュリちゃんには、わかるんだね。この洞穴には、人間を嫌っているスライムが集まってるんだ』
「ん? 人間が嫌いなら、スライムの集落に引っ越しすればいいんじゃないの?」
『それができないから、洞穴にいるんだよ。オレ達は、このスライム達が洞穴から出られるようにしたいけど、人間は頻繁に入れ替わるから、難しいんだ』
(どういうこと?)
私は、オバサンの方に視線を移した。オバサンは、茶髪のタームさんの方を向いて、睨んでる。
「ここの人間は、他人に干渉しないからね。そして、乱暴な連中も多い。人間嫌いになるのも無理はないよ」
「どうして、ここに居なきゃいけないの?」
「ジュリは、初めてこの集落に来たから、わからないだろうね。ある意味、スライムの方が気の毒だよ」
オバサンは、なかなか説明してくれない。たぶん、イライラしているのだと思う。
(あっ、違う)
隠れているスライム達に、聞かせてるのかもしれない。人間嫌いのスライムに、すべての人間が同じではないと伝えたいのかも。
「ジュリさん、この集落には、緑、赤、黄の3色以外のスライムが棲んでいるんですよ。いろいろな髪色の人間が住むから、いろいろな色のスライムがいないといけないんです」
タームさんが説明してくれたけど、よくわからない。
「どうして、いなきゃいけないの?」
「あー、そこからか。えっと、スライムが人間の生活を助けているので、例えば、緑の集落から緑色のスライムが居なくなると、緑色の野菜が育たなくなるんですよ。つまり……」
「わかった。それで、人間嫌いでも居なきゃいけないのね。スライム神からの命令なのかな」
「スライム神? えーっと……」
タームさんが、困った顔をしてる。そっか、スライム神の素性は秘密だもんね。
『ジュリちゃん、スライム神からの命令というより、ここにいるスライム達の役割なんだよ。オレ達は、山の中の人化できるようになった若いスライムの集落で、この島のことを学ぶことが今の役割だけどね』
「ん? じゃあ、ここに居ちゃダメなんじゃない?」
『最初は、見回りで来ていたんだ。でも、ヌシが困ってたから、ここに居る日が多いかな』
「ふぅん、どうすればいいのかな? 人間を嫌うようになった原因か事件があったんだよね?」
『ここにいるスライムは、オレ達みたいに強いわけじゃないし、人化もできない。だから人間が、うさ晴らしに斬りつけてくるみたいだ。人間の言葉が理解できないのは、人間に対する憎しみが強いからなんだよ』
(えっ、大変!)
「もしかして、みんなは人化して、人間がスライムをいじめないように見張ってるの?」
『見張っているというか、止めに入る感じだよ。だけど、黒っぽい髪色の人間は、スライムに対する憎しみがあるみたいで、オレ達が止めても、また別の人間が同じことをするんだ』
「大陸が戦乱中だから、この島に逃げて来る人間は、殺気立っている者も多いからね。だけど、この集落には統率者が居ないから、どうにもならないんだよ」
オバサンが、また、ため息を吐いてる。統率者がいないなら、きっと海辺の集落の村長の責任ってことになるんだろうな。だから、ここに来るのを嫌がってたのね。
「この集落には、村長は居ないの?」
「さっきのジジイが、一応、村長だよ。だけど、彼の物質スライムは、もう無いからね。ただ古いだけのジジイだよ」
(ん? あっ!)
「もしかして、物質スライムを剥ぎ取られたの?」
そう尋ねると、オバサンは軽く頷いた。緑の帝国が、物質スライムを奪って、改造スライムを造っている話は、遠い大陸のことだと思っていた。でも、犠牲者がこの島にもいたのね。
「一応、物質スライムの跡があるから、島の中なら、物質スライム同士の念話はできるけどね」
「そっか。オレンジ色の髪のオジサンは、大きなスライムが恐ろしいって言ってたから、きっと、大陸から来た乱暴な人間のことは、もっと怖いよね」
「そういうことだよ。ジジイに何かを期待するのも酷だからね。物質スライムを奪われると、大抵の人間は闇落ちする。ジジイは気が弱いから、精神を病むだけで済んでいる。普通ならダークスライム化するよ」
(心配してる)
だからオバサンは、あえて、ジジイって言ってるのね。きっと彼は、村長って呼ばれると、もっと苦しくなるんだろうな。
「私に、何かできることってあるかな?」
大きな黒いスライムに尋ねてみた。
『ジュリちゃん、ごめん。オレ達にはわからないよ。あっ、また、ごちゃごちゃしてるから、ちょっと行ってくるね』
大きなスライム達は、人化すると、スッと姿を消した。
「ヌシさん、彼らはどこへ行ったの?」
深緑色のスライムに、そう尋ねたけど、素知らぬフリをされてしまった。あっ、聞こえてないのかな。たぶん、複数と念話してるのかも。
「ジュリさん、市場の辺りだと思う。頻繁にケンカがあるし、集落の中心部だから、スライムもいるからね」
「タームさん、案内してもらっていいですか? 村長さんは、オレンジ色の髪のオジサンに、洞穴の調査結果を……」
「ジュリ、私も行くよ。タームもね」
「じゃあ、キララ、オープン!」
私が呼び出すと、キララは、人型のアンドロイドの姿で出てきた。
「えっ! 小舟じゃないのか」
タームさんが、すっごく驚いた顔をしてる。洞穴の中のスライム達も、ザワザワしてるね。
「キララは、すごい子だからね」
『ジュリちゃん、乱暴な人間とスライムがケンカになってるよ。どうする?』
「とりあえず行こう。たぶん、この姿のキララを見たら、驚いて止まると思う」
私達は、キララの転移魔法の光に包まれた。




