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65、池の奥の洞穴

『わっ! 人間が来た!』


 洞穴の中に入ると、真っ暗で、奥は何も見えなかった。だけど、私は、ベースコートを塗ってるからスライムの言葉がわかるし、必要なら灯りをともすこともできる。


 あちこちから、慌てる声や、隠れなきゃと騒ぐ声が聞こえてくる。


(たくさん居るのね)


 一応、両手の爪には、いろいろなネイルを塗ってきた。というか、1連目のネイルを全部塗ったから、派手派手になってる。塗ってない指は、右手の人差し指だけだもんね。あっ、ベースコートはすべての爪に塗ってあるけど。



「真っ暗だけど、スライムの気配はあるね。洞穴の入り口に結界があったから、池の前からは探れないけどね」


 オバサンがそう言った直後、灯りがついた。茶髪のタームさんは、照明器具を持っていたみたい。だけど、そんなに明るくはない。足元がなんとか見えるくらい。


 オバサンは、どんどん奥へと歩いて行く。もう、入り口から差し込む光は届かなくなってきた。タームさんの灯りがないと、真っ暗になりそう。



「この辺りにいるのは、小さなスライムだと思います。僕が見た大きなスライムは、居ないみたいです。洞穴の入り口を守るように、色とりどりの大きなスライムが居たけど」


「そうだね。私の物質スライムも、この奥にも、ただのスライムしか居ないと言っているね。人化できるスライムは、人の姿で、集落の中をうろついているのかもしれない」


(居なかったよ?)


 オバサンは、私の方を見たけど、たぶん自分でも確認しながら歩いていたよね?


「ここまでの道では、人化するスライムとはすれ違ってないよ。集落の中心地って、この辺なの?」


「ジュリさん、市場のある広場が、集落の中心地だよ。もっと西の方だ。緑の集落の方の門から入ってきたのかな」


 タームさんにそう聞かれたけど、キララが運んでくれたから、私にはわからない。


「あぁ、緑の集落の方の門から入ったよ。赤の集落の方の門から入ると、ガラの悪い人間が多いからね」


「大陸から来た連中は、西の方に固まってますからね。赤の集落に買い物に行くのに便利だからだと思いますよ。僕は、物質スライムの回復のために、池の近くに住んでいますが」


「そうかい。じゃあ、どうしようかね。洞穴の入り口の結界のせいで、ここからだと集落の中の声が聞こえないみたいだね」


 オバサンは、また、私の顔を見てる。キララなら聞こえると思ってるのかな? でもキララは、タームさんに知られたくないのか、全然しゃべらない。



「じゃあ、私が聞いてみるよ」


「あー、ジュリは、今はスライムの言語がわかるんだったね」


 オバサンがそう言うと、タームさんは、不思議そうな顔をしていた。説明しろと促されているような気になるけど、私は気づかないフリをしておいた。



『人間は、なぜ出て行かないんだ? スライムの言語がわかるって、どういうこと?』


(あっ、見つけた)


 私達の会話を聞いて理解できるスライムを発見! この洞穴には、たくさんのスライムが隠れているけど、赤ん坊が多いのか、人間の会話を理解できない子が多いみたい。



「ねぇ、洞穴のスライムさん。ここに、私の友達のスライムは居ないかな?」


『ひぇ〜! この人間は、ウチにしゃべりかけてるつもりみたい。どうしよう! こっち見てる』


「うん、しゃべりかけてるよ。私は、ジュリっていうの。海辺の集落に住んでるんだけど、泉のスライムさんとは、いろいろおしゃべりしてるよ」


『えっ? 本当にわかるの?』


「うん、わかるよ」


『ウチが、何色か言ってみて』


 ピョンと高く飛んだスライムがいるけど、喋ってるのは、違う子な気がする。


「今、飛び上がった子は、青色だけど、念話で喋ってるのは、別の子だよね? うーむ、オレンジ色の子かな?」


『ハズレ〜! ウチでしたー!!』


 オレンジ色の子の後ろにいた深緑色のスライムが、すっごくドヤ顔してる。


(かわいい!)


「オレンジ色の子の後ろに隠れてたじゃない。それって、ズルくない?」


『きゃはは! ウチは賢いんだよ』


「賢いというより、ズル賢いって言うんだよ。当てっこするなら、もっと正々堂々としなきゃ。薄暗い洞穴だから、私には見えにくいよ」


『人間は、目が悪いもんね。かわいそうだね』


(そうきたか)


 この後の返答が難しい。深緑色のスライムは今、きっと私を試してる。



「薄暗い洞穴だと何も見えないよ。たくさんのスライムが居ることは、気配でわかるけど」


『目が悪いね。かわいそうだね』


「こんな場所で、かくれんぼしたら、私、ずっと見つけられない気がするよ」


『かくれんぼ? 何、それ』


(おっ、興味を持ったね)


「いつもやってる遊びのひとつだよ。泉のスライムさんは、かくれんぼが下手なんだけど、小川のスライムさんは、小さいから、お花のフリをして隠れると、全然見つけられないの」


『小川のスライム? 赤ん坊じゃないの?』


「そうだよ。草原でかくれんぼすると、赤ん坊のスライムは、すっごく上手なの。泉のスライムさんは、いつも悔しがってるよ」


『隠れてるスライムを見つける遊び?』


(あっ、これは、別の子ね)


「うん、そうだよ。他の遊びは、泉のスライムさんの方が上手なんだけど、かくれんぼは、小川のスライムさんに勝てないみたい」


『見つかったらどうなるの?』


「ん? 下手っぴだったねって、笑われちゃうよ」


『笑われたらどうなるの?』


「みんな、悔しがってるよ。グラグラ遊びしようとか、輪っか遊びしようとか、他の遊びに誘導するかな? 負けたら悔しいけど、勝ったら楽しいからだと思うよ」


『それって、あれ? ジュリって言った?』


「うん、私はジュリだよ」


『髪の毛が白い人間で、ジュリ? あっ!!』


 深緑色のスライムが、霧のように溶けて消えた。



「あれ? 深緑色の子は?」


『大きなスライムを呼びに行ったよ。壁をすり抜ける能力があるんだ〜』


「へぇ、普通のスライムで、そんなことができる子、初めて見たよ。すごいね」


『うん、大人だからね。沼地の変異種なんだって。ずっとこの洞穴にいるよ』


「もしかして、深緑色のスライムが、洞穴の長なのかな?」


『長ではないよ。古いだけだよ。あっ、戻ってきた』




 オバサンは突然、私の腕をつかんで、後ろに隠した。ちょっと怖い顔をしてる。


「ジュリは、ジッとしてな。ダークスライムかもしれない」


(えっ? どうして?)


 そーっと顔を出してみると、オバサンの前には、何人かの人化したスライムが立っていた。



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