63、寄せ集めの集落
それから、しばらくの時が流れた。
あれからイーグルさん達は、海辺の集落に滞在して手伝いをしている。イーグルさんは、2年前にも居たから大丈夫だけど、オーロンさんとナイツさんは、なかなか慣れないみたい。
キングパープルが捕まえた、大陸の人化する青いスライムは、大きなスライムの草原に軟禁されているらしい。今は、大きな青いスライムの姿をしている。人化する能力と転移能力を、キングパープルに封じられているんだって。
あの巨体だと、人化しないと林を抜けられないから、草原から出られないみたい。それに、常に監視されてるもんね。
たぶん、保護なんだと思う。アルくんが、青の王国を復興するには、青の王国にいた人化するスライムの記憶が必要みたいだから。
そして大型船は、あれ以来、来ていない。転移魔法によるスライムの襲撃もない。キララの作戦が成功したってことみたい。
私やアルくんも、もう普通の生活に戻ってる。だけど、アルくんはずっと元気がないから、少し心配だな。
◇◇◇
「ジュリ、緑の集落の奥の集落へ行くけど、一緒に行くかい? いろいろな髪色の人間がいるから、いろいろな色のスライムもいる。洞穴には、大きなスライムが集まっているらしいよ」
オバサンが、いつもとは違う服を着て、腰に短剣を装備してる。
「えっ? 人間の集落なのに、スライムが集まってる場所があるの?」
「あぁ、ずっと気づかなかったらしいんだけどさ。大型船が来ないのに、見知らぬ人間が増えたと思って調べたら、大きなスライムが何体もいたらしいよ。草原のスライムが調べに行っても見つからなかったみたいだから、寝ぼけた誰かが言い出したのかもしれないけどね」
(あっ、それって)
「もしかすると、私が6歳の頃によく遊んでいたスライムかもしれないよ。泉の水玉模様のスライムが、人化できるようになった子がいるって、言ってたから」
「そうなのかい? だけど、人間の集落に集まる理由がわからないね。人化できるスライムなら、あちこちに、いくつも集落があるだろ?」
「確かに……じゃあ、違うのかなぁ」
「とりあえず、調べて欲しいと言ってきたから、一度は見に行かないとね。あの集落には、あまり近寄りたくないんだけどね」
「遠いから嫌なの? キララが連れて行ってくれるよ」
「遠いし道が悪いのもあるけどね。あの集落には、統率者がいないから、無法地帯なんだよ。もう長い間行ってないね。今回は、仕方ないから行くけどさ」
オバサンは、とても嫌そうな顔をしてる。でも海の集落の村長だから、島全体の人間のトラブルを解決しなきゃいけないんだよね。
◇◇◇
キララの転移魔法で、オバサンと一緒に、緑の集落の奥にある集落の門の近くに移動した。
「キララ、一応クローズするね」
カゴの状態だったキララは、無色透明な石に変わって、私の左手の銀色の指輪に戻ってきた。
「はぁ、来ちまったね」
オバサンは、大きなため息をついてる。一方で、私は、まだ入ったことのない集落に、少しワクワクしていた。
(でも、短剣……)
短剣を装備しているオバサンは、まるで危険な場所に来たかのようだった。オバサンが短剣を装備するのは、魔物が出る山の中に入るときだけだ。
少し歩いて、門にたどり着いた。
(誰もいない……)
門番がサボっているのかもしれないけど、集落の門は目印の役目しかないように見えた。
「ジュリ、ここは無駄に広いんだ。それに手入れもされてない。集落とは名ばかりの荒れた密林だと思いな」
「へぇ、広いのね。でも、人が居ないよ?」
「そっちの矢倉が見えるかい? あそこから見てるよ」
オバサンが指差した方向には、少し高い塔のような物があった。なんだか原始的な感じ。
普通の森の中のような集落の奥へと歩いていくと、木造の小屋が立ち並ぶ場所に出た。だけど、オバサンは止まらない。無言で歩いていく。
人の姿もチラホラ見えるけど、オバサンが無視しているためか、住人も私達のことは無視してる。
(あれ? ごちゃ混ぜ?)
似た色で集まって生活していると予想していたけど、オレンジ色、ピンク、薄茶色、グレー……見る人それぞれ、違う髪色をしている。
住人達同士は、喋っているけど、私達のことには無関心みたい。私の髪色は白いのに、誰も気にしないのね。
さらに進んで行くと、左右にポツポツと小屋は見えるけど、山の中にバラバラに小屋がある感じだから、集落だという気がしない。
(あっ、小川だ)
小川沿いには大きな木はなくて、木造の小屋がズラリと並んでいた。人も結構たくさん居るみたい。
だけどオバサンは、まだ先へ進んでいく。少し下り坂になっているから、歩きやすくなってきた。
「ジュリ、右にある池の奥が、例の場所だよ」
オバサンにそう言われて、右を向くと、大きな池があった。その奥には、岩壁があるけど、草がたくさん生えているから、洞穴があるかはわからない。
「大きな池だね。あの奥へ行く道はあるのかな? あっ、ボートか何かで行くのかな」
「道もボートも無いだろうね。とりあえず、連絡してきた人のところに行くよ。はぁ、もう、足が痛いんだけどね」
ぶつぶつと文句を言いながら、オバサンは、さらに歩いていく。無駄に広いと言っていた意味がわかってきた。開拓して集落らしくすればいいのにな。
『ジュリちゃん、この集落は、これでいいんだよ』
(ん? キララ、どうして?)
『木々があることで、互いに視線を気にしなくて済むからね。ジュリちゃんの感覚を借りると、深い森の中で、たくさんのグループがキャンプをしているような集落なんだ』
(ふぅん、野生すぎるキャンプ場なのね)
『髪色で差別を受けたり、大陸を追放された人間も、たくさん住んでるよ。スライムが棲む小島に逃げ込んだ人間も、ここに集めてあるんだ』
(あっ、そういうことなのね。小島に人間が住み着くと、スライム達が困るからかな)
『困るというより、スライムが棲む小島には、人間は住めないんだよ。たぶん、すぐに死なせてしまうからね』
(毒になるとか?)
『うん、人間には毒になる体液を出すスライムもいるし、飲み水が確保できないんだよ。それに、人間を喰ってしまうスライムもいる。共存できないんだ』
(そうなんだ)
一軒の小屋の前で、オバサンが、やっと足を止めた。そして、扉をドンドンと叩いている。
「来てやったよ! ジジイ、さっさと開けな!」
(めちゃくちゃ不機嫌ね……)




