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60、早朝の事件

 翌朝、目が覚めると、私の枕元には銀色の小さなスライムが数体いた。泉のスライム達は、みんな床で眠っているみたい。


『ジュリちゃん、起きた〜? おはよう〜! あっ、声を出さないでね〜。まだ朝早いから〜』


(おはよう。何かあったの?)


『うーん、まだ何もないね〜。アタシは、分身をアルの部屋にも潜ませてるけど、アルも大丈夫だよ〜』


(やっぱり、あの二人? なんだか変だと思ってた)


『そうだね〜。ロックスの友達も共犯かな〜。彼には悪気はないみたいだけどね〜』


(イーグルさんも? もしかしてスパイ?)


『スパイ? あー、そうだね〜。密偵だね〜。ロックスの友達は、ちょっと行動があやういかな〜』


(イーグルさんは、ムードメーカーというか陽気な人で、ロックスさんと仲良しなんだよ)


 私がそう返すと、銀色の小さなスライム……キングシルバーさんは、ちょっと考え事を始めたみたい。


 昨夜、オバサンは、イーグルさんも黒色化してるって言ってたっけ。ダークスライムの影響を受けて、以前とは変わってしまったのかもしれない。



 着替えを済ませて、そーっと部屋の扉を開けて、家の中の様子をうかがうと、食堂からカチャカチャと音が聞こえた。


(オバサンかな?)


 そーっと見に行こうとすると、ワンピースのポケットに、銀色の小さなスライムが飛び込んできた。そして、スッと透明になった。隠れたみたい。


『ジュリちゃん、アタイも!』


 水玉模様の泉のスライムが私の頭に乗ってきた。だけど、溶けてない。髪色を変えるつもりじゃないみたい。あっ、キングシルバーさんを隠すためなのかも。イーグルさんが連れて来た二人は、スライムを見つける魔道具を持っているもんね。



 音を立てないように、そーっと食堂へ移動すると、オバサンは居なかった。イーグルさんと、えーっと、オーロンさんとナイツさんが居た。


 彼らは、テーブルの上の、飲み水を入れてある水瓶みずがめの蓋を開けていた。何か白い包みを持ってる。薬でも飲むのかな?


(あっ!)


 白い包みの中身を、水瓶に入れた! 蓋を閉め、少し振ってる。



「おまえら、何をしてるんだ!」


(あっ、ロックスさん)


「いや、別に何も……」


「あはは、水を飲みたくなってさ。コップを探してたんだ」


 二人はビビってるけど、イーグルさんは嘘をついて、ごまかそうとしてる。


「イーグル! 嘘をつくな! 水瓶に変な物を入れただろ」


「あちゃー、見られてたのか。別に変な物じゃないよ。この家に、青の王国の王家の血を引く子がいるだろう? その情報を聞きたいだけだよ。毒にはならない。少しおしゃべりになるだけさ」


(彼らも、アルくんを狙ってるの?)


「おまえ……俺達は、村長やジュリちゃんのおかげで、命を救われたんだぞ? 忘れたのか!」


「シーッ! デカい声を出すなよ。朝早くから迷惑だろ」


 そう叫んだイーグルさんの方が、声が大きいと思うけど。彼は冒険者だから、青の王国の王族を探す依頼を受けたのかもしれない。イーグルさんがここにいた頃は、アルくんはまだギフトを得てなかったもんね。


(あっ……)


 周りを見回していたイーグルさんと目が合ってしまった。こっそり覗いていたことが、バレたみたい。


 一瞬、逃げようかと思ったけど、すぐに気持ちを切り替えた。私のポケットには、キングシルバーさんがいるから、攻撃されても私には当たらないはず。



「ジュリちゃん、起こしちゃったか。ごめんな。おっ、頭に可愛いスライムを乗せているね」


 謝ってくれたイーグルさんからは、悪意を感じなかった。やはり冒険者として、この島に来たのね。連れてきた二人も同じ依頼を受けているのかな。だとしたら、オバサンの善意を利用したことになる。オバサンは、黒い髪の人間を助けようとして、イーグルさんに託したのに。


「おまえなー、ジュリちゃんが怖がってるじゃないか」


「あはは、ごめんよー。ただ、俺にも事情があってさ。大陸全域が、今は戦乱中なんだよ」


(ん? 何か違う)


「戦乱中だから、何だっていうんだ? 水瓶に妙な薬を入れる理由にはならないだろ。おまえ、村長さんの善意を裏切ってるぞ」


「そんなつもりはない。ただ、この集落に入り込めるのは俺くらいしかいなかったからさ」


「入り込めるって……イーグル!!」


 イーグルさんは、うっかり者みたい。つい、口を滑らせてしまうのね。でも冒険者としての依頼なら、ロックスさんにそう言うはず。極秘ミッションなのかな。




「ロックス、朝早くから何だい? 騒がしい子だね」


 私の後ろを通って、オバサンが食堂に入っていった。オバサンも、こっそりと話を聞いていたのかも。


「村長さん、すみません。イーグルのバカが……裏切るようなことをして……」


 ロックスさんがそう言うと、オバサンは、フーッと大きなため息を吐いた。


「だいたいの状況は、わかっているよ。この島を探っていた大陸のスライム3体を、キングパープルが捕まえたからね」


「えっ! コイツらは大陸のスライムの手先になっていたってことですか」


「ロックス、大陸の人化するスライムすべてが、青の王国の王族の子孫を殺そうとしているわけじゃない。私も、大型船が来るたびに、大陸のスライムが襲撃してくるから、被害妄想になっていたけどね」


「えーっと、どういうことでしょうか。コイツらは……」


 ロックスさんは、混乱してるみたい。私も大混乱だよ。でも確かによく考えれば、大陸には4つの大国があったから、少なくとも4色の人化するスライムがいるはず。


 これまでに襲撃してきた大陸のスライムは、赤い髪と緑の髪だった。他の色の人化するスライムの襲撃は受けていない。



「イーグル、自分の口で喋りな。じゃないと親友を失うことになるよ」


 オバサンにそう言われて、イーグルさんは、コクリと頷いた。


「ロックス、悪い。村長もジュリちゃんも、申し訳ない。ただ、話せない事情があるんだ。でも、決して悪意があるわけじゃないし、コイツらの髪色を見て、村長に頼んで脱色してもらいたいと思ったのも本当だ。この島を害するつもりもない。信じてもらえないだろうけど、青の王国の王族の血を引く子を探す必要があるんだ」


「おまえなー、話せないけど信じろって言ってるのか? 水瓶に妙な薬を入れたのに、信じろって?」


「いや、悪い……」


 イーグルさんは、うっかり者なのに、口止めされたことは仲良しのロックスさんにも話さないのね。



『ジュリちゃん、ボクが間に入るよ。ボクを呼び出して』


(えっ? キララが?)


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