59、イーグルさんが戻ってきたよ
「おぉっ、ジュリちゃんか! 大きくなったね」
晩ごはんを食べに食堂へ移動すると、ロックスさんと親しげに話す、20歳前後に見える黄土色の長髪の男性がいた。
(ん? 誰?)
私が首を傾げると、その男性はショックを受けたみたいな顔をして……胸を押さえて苦しそうな……フリをしている?
「おい、イーグル。そんな長髪のオッサンになってたら、わからねぇよ。俺も最初はわからなかったからな」
「ロックス、おまえもか……」
バタリと倒れてみせた男性。今、イーグルって言った?
「イーグルさんなの? 見たことない人だと思った」
「おっ! 覚えていてくれたんだな。オッサンは嬉しいよ。って、ちょっと待て、ロックス! 誰がオッサンだって? 同い年じゃないか。ピチピチの18歳だぜ」
(ピチピチ?)
「イーグル……相変わらずだな、おまえ。ジュリちゃんが驚いているじゃないか」
ロックスさんは、そう言いつつ、嬉しそう。そっか、黄の王国の大型船だったから、イーグルさんが島に戻って来たのね!
イーグルさんの後ろには、二人の見慣れない人がいる。どちらも、暗い黄土色の髪で、少しオドオドしてるけど、人間であることは確かね。ダークスライムに襲われたのかな。真っ黒な髪じゃないのは、オバサンが物質スライムを使って、脱色と染色をしたのかも。
「あぁ、もう、うるさいね。晩ごはんにするよ。アルはまだ出てこないのかい」
「アルは返事がなかったけど、知らない人の前に出たくないのかもね。呼んで来ようか?」
ロックスさんはそう言ったけど、動く気はなさそう。
「いや、寝てるのかもしれないから、放っておいていいよ。今日は人が多いから、先に食べてしまおうか」
いつものテーブルは彼らが使い、私はオバサンと一緒に、普段は使わない丸テーブルで晩ごはんを食べた。
漁師のオジサン達は、アルくんと一緒に食べたいのか、網を片付けてくると言って、外に出て行った。
アルくんは、自分のせいで皆が迷惑している、と思い込んでる気がする。昨夜からずっと元気がないし、申し訳ないって言ってた。
悪いのはアルくんじゃなくて、襲撃してくる大陸のスライムの方なのにな。
「村長さん、あの二人の髪色を変えたの?」
私が小声で尋ねると、オバサンは軽く頷いた。
「イーグルよりも効きが悪かったんだけどね。それに、イーグルも少し黒色化してるよ。やはり大陸にいると、ダークスライムの影響を受けるんだね」
(そうなんだ……)
赤い髪の漁師のお兄さんは、大丈夫なのかな。赤の王国の英雄だから、戦乱に加わっているみたいだけど。
「村長さん、あの人達をここに泊めるの?」
「あぁ、イケメンが部屋を空けてくれたからね。あの状態なら、しばらくは島にいる方がいい」
「ふぅん、そっか。じゃあ、あとで挨拶しなきゃね。イケメンさんは、もう自分の家に帰ったの?」
「さっき出て行ったばかりだから、家には帰れないだろう。もう、海は真っ暗だよ」
オバサンは、完全に彼のことを、小島に住んでいる人間だと思ってる。キングシルバーの魅了って、離れていても維持されるのね。
「ジュリちゃん、まだ紹介してなかったな。コイツらは、オーロンとナイツだ。俺より3つ年下だから、15歳だな。さすらいの荒野に行ったわけじゃないらしいが、髪色が黒っぽくなっていたから、連れてきた」
食後のバナナみたいな果物を食べていると、イーグルさんが二人を、丸テーブルの横に連れてきた。
「お、お嬢さん、オーロンです。よ、よろしくお願いします!」
(ガチガチね)
「俺は、ナイツです。よろしく」
(シャキシャキね)
「ジュリです。オーロンさんとナイツさん、よろしくお願いします。あっ、私の髪色が怖いのかな? 呪いじゃないよ」
「えっ、あ、いや……わかっています。イーグルさんから聞いたので」
その割には、挙動不審だよね。まぁ、オバサンの物質スライムを見ただろうから、緊張しているのかな。
「ジュリちゃん、コイツらは冒険者をしてるんだけどさ。なぜか、ジュリちゃんがスライムだって言うんだよ」
(あー、なるほど)
私の右手の小指には、ピンクのネイルを塗ったままだからかな。でも、これは言わない方がいいかも。彼らを疑うわけではないけど、何となく、そんな気がする。
「私の部屋に、たくさんのスライムがいるからかな? 昨夜、大型船が来たから、私はスライムまみれで寝てたから」
「ジュリちゃんは、今でもスライムが好きなんだね。ナイツ、その魔道具は誤作動を起こしてるんだよ。ジュリちゃんの服には、スライムの体液が付着してるんじゃないか?」
イーグルさんがそう説明すると、二人は同時に頷いた。15歳だと聞いたけど、12歳のアルくんの方がしっかりしているような気がする。まぁ、アルくんは、王族だからかな。
(あれ?)
二人の視線が少し気になる。今、互いに目配せをしたよね? イーグルさんのことは信頼できると思うけど、この二人って、どうなんだろう? さすらいの荒野に行ったわけじゃないのに髪色が黒くなっていたのなら、ゆっくりと黒色化が進んだということよね?
随分と前のことだけど、オバサンが、ダークスライムに襲われて真っ黒な髪になった人より、ジワジワと黒くなった人の方が、危険だと言っていた気がする。髪だけでなく、心まで黒く染まるからだって。
網を片付けに行った漁師のオジサン二人が戻ってきた。
(やっぱり変ね)
彼らと一緒に、海辺の人化したスライムも入ってきたけど、オバサンは何も言わない。いつもなら、スライムは入ってくるなと怒るのに。
「ジュリ、食事が終わったなら、部屋に戻りな」
「うん、泉のスライム達は……」
「仕方ないから、今夜もそのままでいいよ」
「わかったの。皆さん、おやすみなさい」
「ジュリちゃんは、もう寝るのか。おやすみ〜」
イーグルさんは、軽い口調で挨拶をしてくれたけど、ロックスさんは、何かに気づいたみたい。やっぱり、イーグルさんが連れてきた二人は、少し変だよね。
◇◇◇
部屋に戻ると、スライムが増えていることに気づいた。そして、泉のスライム達は、すっごくおとなしい。
「あれ? どうしてここにいるの?」
『シーッ、秘密だよ〜。アタシも混ぜて〜』
色とりどりなスライムの中に、銀色の小さなスライムが、30体ほど紛れていた。




