56、キララの作戦
「キララが呼んだのかい?」
『そうだよ。うまくいけば、アルを襲撃するスライムはいなくなると思うよ』
(どういうこと?)
アルくんを捕まえたくて、大陸から何度も人化したスライムが襲撃してきてる。
「キララ、私には全く想像がつかないよ。海辺のスライムをここに呼ぶ意味なんて、何もないだろ」
『村長、よく聞いて。大陸のスライムは、アルがこの島にいるから襲撃してくるでしょ?』
「あぁ、そうだよ?」
『だから、もう居ないと思わせればいいんだよ。今夜は、大勢が島から出て行くよね? 子供も10人以上、島を離れるでしょ』
「今夜は、黄の王国の大型船だからね。大陸では、今は一番、黄の王国が安全だ。緑の集落からも、その奥のいろいろな髪色の寄せ集め集落からも、大陸に行くために大型船に乗るよ。この島には学校がないからね」
『それを利用するんだよ』
「キララ、まだアルは大陸へは行けないよ? アルの物質スライムは、今のアルには、まだ使いこなせないからね」
(違うと思う)
キララは、そんなことはわかっているはず。
『村長、ボクはアルを島から出すとは言ってない。島から出たように見せかけるんだ。今、海辺のスライムに来てもらったのは、護衛に見えるでしょ? もう少し大勢に出入りしてもらう。そして、良いタイミングで、アルを隠すよ』
「キララ、話が見えないね」
『とりあえず、もう見られてるから、村長は、何でもいいから弱いバリアを張って欲しいな。人化したスライムには、人間の顔の正確な識別は難しい。何か怪しい行動をしているように見せるんだ』
(上手くいくのかな?)
オバサンは、家全体に何かのバリアを張ったみたい。海辺のスライムは、何人か出入りしたけど、ワープを使って出て行った人もいる。
キララの指示で、海辺のスライム達がテキパキと動いてるけど、私にはイマイチ、何の効果があるかわからない。
『ジュリちゃんは、もう寝ていいよ。あっ、頭の上のスライムはそのままね。他のスライム達も、ジュリちゃんの部屋に移すね』
「ん? うん、よくわかんないけど、わかったよ。みんな、私の部屋で遊ぼっ」
そう声をかけると、キララのカゴの中のスライムは、飛び跳ねて喜んでいたけど、カゴがパッと消えた。すぐにカゴは、戻ってきたけど……。
(あれ? いない)
カゴから飛び出した子だけが、不安そうにキョロキョロしてる。
『ジュリちゃんは、その子を連れて、寝ていいよ。ボクは、タイミングを見計らって、アルを隠すからね』
「うん、わかったよ」
私は、おやすみの挨拶をして、自分の部屋へ移動した。部屋の中はスライムだらけで、浮き立つ気分の8歳の私。だけど、すぐに前世の感覚に戻った。キララの作戦が謎すぎて、上手くいくのか心配で眠れそうにない。
『ジュリちゃん! 何をして遊ぶの?』
スライム達は、すっごくワクワクしてる。とりあえず、遊ぼうかな。
「そうだなぁ。騒がしくすると村長さんに叱られるから、静かに、グラグラ我慢大会する?」
『ここでグラグラ我慢大会?』
「床じゃなくて、ベッドの上の方が難しいよね。じゃあ、床で勝ち抜き戦をして、勝った子はベッドの上のグラグラチャレンジをしよっか」
『わかった! がんばるっ!』
「じゃあ、私が鬼をするね」
ポフっとベッドに飛び込み、顔を隠す。そして……。
「グ〜ラグラ〜、グーラグラ、動いちゃう子は、だぁれだ?」
そして、パッと床のスライム達を見る。そう。いわゆる、だるまさんが転んだ、をしているだけ。でも、これは、スライムには難しいゲームみたい。ぴたっと止まることが難しく、他の子を道連れに、転がってしまうのね。
『床も難しいよ〜』
失敗した子は、壁沿いに団子のように積み重なっていく。そして、厳しい監視員になる。
「じゃあ、2回目いくよ〜。グラグラ、だぁれだ?」
『ひぇ〜、ジュリちゃん、早過ぎるー』
「あはは、みんな失敗だよー」
『もう一回やる〜!』
グラグラ我慢大会は、スライム達が飽きるまでやろうと思ってたけど、私の方が飽きて眠くなってきたかも。
◇◆◇◆◇
「おい、村長の家から、あの子供達は出たんじゃないか」
「白い髪の子は、大陸には行かないはずだ。青の王国の王家の血を引く子供は、わからんがな」
キララがアレコレと工作をしていた頃、海岸近くの岩場には、20体以上の人化したスライムが隠れていた。
「バリアを張ってごまかしているつもりらしいが、頻繁に海辺のスライムが出入りしている。これまでに、こんなことはなかっただろう?」
「だが、子供達が家から出て行く姿は、見てないぞ」
「白い髪の子の物質スライムは、転移魔法を使う。転移魔法を家の中で発動した痕跡も残っている」
「あの紫色の髪の子で、俺達の目を欺くつもりらしいな。背格好は似ているが、俺達が色まで見えることには気づいてないらしい。甘いんだよ」
「白い髪の子の部屋には、大量のスライムを詰め込んであるぜ。なぜ、人間の家の中がスライムだらけなんだ?」
「ん? 白い髪の子の部屋には、人間の反応がないな。人化する小柄なスライムがいるだけだ」
「やはり二人は、黄の王国の大型船に乗せるんじゃないか。俺達があの家に気を取られている隙に、乗り込んだかもしれんな」
「いや、ちょっと待て。大型船じゃなくて、暗闇に紛れて、小島から小島に、今、何かが転移したぞ」
これは、キララの工作ではない。ただの偶然だ。いや、ただの偶然を装って、キングシルバーが何かをしたようだ。
そして岩場には、さらに数人の人化したスライムが移動してきた。互いに状況の報告をして、子供達が島を出たかもしれないと、海上のサーチを始めた。
「あー、紫色の髪の子供が居なくなっているぞ」
「夜遅くなったから、自分の集落に帰ったんだろ。海辺のスライムが送り届けたんじゃないか」
「これで、確定だな。島から出て行ったんだ。白い髪の子の物質スライムは、長距離の転移ができる。チッ、逃げられたな」
「俺達が、大勢で来たせいじゃないか?」
「あぁ、そうかもな。緑の帝国の大型船の時は、かなり派手に、島の奥まで入ったみたいだからな。これ以上は、ここに居られないと考えたんだろう」
「あーあ、知らないからな」
「とりあえず、中継地になりそうな小島を探すか。大陸までは何日もかかるはずだ」
「大型船に乗っている可能性もあるぞ。大型船が着く前には、大陸に戻らないとな」
大陸の人化したスライム達は、無数にある小島へと、散っていった。




