55、しずく種とまだら種
「ジュリちゃん、怪我は無かった? どこか痛い所は?」
いつもの場所にキララが着地すると、アルくんは、まだ心配そうにしていた。
「アルくん、大丈夫だよ。ありがとう」
そう返事をすると、アルくんは、やっとホッとした笑顔を見せた。山の中で剣の訓練をするようになってから、彼は急に大人になったような気がする。前世の記憶が戻った私の方が圧倒的に大人だけど、アルくんの前では、8歳の少女のフリをしているから、子供扱いされるのよね。
「ジュリちゃん、泉で転んだんだって? 薬草を食べておく方がいいんじゃない?」
(あっ、ロックスさんもいた)
「転んだけど、大丈夫。ワンピースが泥だらけになったのは、泥だらけの泉のスライム達と遊んでたからなの」
「ふっ、そういうことか。ん? キララのカゴは消さないのか?」
「うん、バラバラになると、叱られそうだもん」
ロックスさんは、キララのカゴの中を覗いて、あぁと小声で納得していた。キララのカゴが消えると、マイペースなスライムは、家の中を探検するかもしれないもんね。
「ジュリ、早く晩ごはんを食べな。炒め物が、すっかり冷めちまったよ」
「はーい、わかったの」
私が晩ごはんを食べ始めると、頭の上に、水玉模様の泉のスライムが乗ってきた。ねちょ〜っと溶けると、重さは感じなくなるのが不思議ね。
「えっ? 村長さんが言っていたのは、これですか」
アルくんが驚いた顔をしてるけど、さっきも見たよね? 泥だらけのワンピースに気を取られて、気づいてなかったのかな。
「そうだよ。アルの分もあるはずだ。家の外からのサーチなら、これでごまかせるはずだよ」
「この距離でも、ジュリちゃんは、水色の髪に見えますよ。でも、俺の髪色は白じゃないからなぁ」
「あぁ、確かに、水色のスライムを乗せても、青い髪は青いままかもしれないね」
『ジュリちゃん、この人間達に教えてあげて。アタイは、アルくんの髪には、赤い子がいいと思うんだー』
「ん? 赤い子?」
そう聞き返すと、キララのカゴから、不思議な赤いスライムが顔を出した。赤いけど、透明なスライムを着ているような、不思議なスライム。真ん中はギュッと赤みがあるけど、外側は透明っぽい。何だか、赤い水まんじゅうみたい。
『そうだよ。この子も、ジュリちゃんの部屋にいつも居た子だよー。赤い雫だからね』
「赤い雫?」
するとイケメンさんが、口を開く。
「ジュリちゃん、しずく種だよ〜。スライムは普通は一色だけど、今、ジュリちゃんの頭に乗ってる子は、まだら種と呼ばれてるよ〜」
「しずく種と、まだら種?」
「そうだよ〜。まだら種は、他の色の斑点があるけど、その色の能力はない。魔力の高さの証なんだ〜。しずく種は、二色の複合体だよ〜。その子は、基本はレッドスライムだけど、ウォータースライムの特性も兼ね備えてるんじゃないかな〜」
「へぇ、面白いねー」
赤い水まんじゅうに見えたのは、案外、間違いではないということね。
「しずく種は、珍しいんだよ〜。美味しそうに見えるから、仲間に喰われてしまうことも少なくないんだ〜」
「えっ! 食べられちゃうの?」
「この子は、大丈夫だよ〜。かなり魔力が高いからね〜。ジュリちゃんの頭に乗せてみてよ〜」
「イケメン! ジュリはまだ食事中だよ」
オバサンに叱られて、イケメンさんは、てへぺろをしてる。たぶん、わざとだよね。
「あぁ、漁師の二人も来たね。姿見が欲しかったから、ちょうどいいよ」
私が晩ごはんを食べ終わったときに、漁師のオジサン達が、晩ごはんを食べに来た。元々いる青い髪のオジサンは、綺麗な盾の物質スライムを持っているのよね。
「えっ? ジュリさん、その髪は……」
(わっ、しゃべった)
無口な人だから、話しかけられると、私の方が驚いてしまう。
「この子は、泉のスライムです」
私が手を出すと、頭の上に重さを感じた。そして、ポヨンと飛び跳ねて、水玉模様のスライムは、私の手の上に乗ってきた。
「な、なんと!」
「ジュリちゃん、次は、赤い雫を乗せてみて〜」
なぜかイケメンさんは、ソワソワしてる。あ、急いでるのかも。
頭の上に、赤い水まんじゅうみたいな子を乗せた。しばらくすると、やはり重さを感じなくなる。あまりねちょ〜っとはしないな。
青い髪のオジサンが、盾を出してくれた。
(赤い髪になってる!)
とても自然な光沢のある赤い髪ね。
「うん、やっぱりジュリちゃんは、赤の王国の子だね〜。水色の髪もかわいいけど、赤い髪が似合ってるよ〜」
「そうなのかな? あっ、赤い子は、アルくんの髪色をごまかすんだった。青い髪の子がアルくんだよ」
私がそう教えると、赤い水まんじゅうみたいなスライムは、アルくんの頭に移動した。そして、まるで染み込むようにアルくんの髪を覆った。
(わっ、綺麗〜)
アルくんの髪色は、ツヤのある紫色に変わった。よく見ると、透明な部分があるから被り物だとわかるけど、透明だから目立たない。
「アルの髪色が、紫色に見えるよ。よく見ると、被り物だとわかるが、近づかないとわからないね。漁師の二人は、こっちに来て、晩ごはんを食べな」
オバサンも、スライムを被りたいのかも。興味津々だけど、さすがに言い出せないみたい。
アルくんは、青い髪のオジサンの盾を鏡にして、自分の髪を確認してる。珍しく少年らしい笑顔を浮かべていて、楽しそう。
「村長さん、いつまで頭に乗せておくの? 眠るときは、さすがに難しいと思うよ」
「今夜は、かなりの人間が動くからね。大型船は、朝まで小島にいるから、皆が寝静まるまでは、このままがいいんだけどね」
「外からのサーチって、家の中が見えるの?」
「人化するスライムなら、家の中まで見えるだろうね。たぶん、アルを捜しているだろうから、今夜は、アルには、座ったまま寝てもらおうか」
(いや、さすがにそれは……)
扉が開き、人化したスライムが二人、入ってきた。オバサンもだけど、漁師の二人がギクッとしている。でも、この二人は、海辺の集落にいるスライムだよ。
「ちょ、スライムが入ってくるんじゃないよ!」
「村長、俺達は呼ばれたから来たんだが」
イケメンさんの方をチラッと見てみたけど、彼は首を傾げていた。人間のフリをしてるもんね。
「誰が、呼んだんだい?」
『ボクだよ、村長。たくさんのスライムがいるから、良いことを考えたんだ』
カゴのキララは、得意げに返事をした。
(何を考えたの?)




