54、たくさんのスライムとお風呂
「昨日は確かに雨だったけど、こんなに泥だらけになるか? あっ、ぬかるみで滑って転んだのか。怪我はないか?」
(ひーん)
アルくんは、あちこちジッと見てくる。
「スライム達と遊んでいて転んだんだろ。ジュリ、着替えてきな。晩ごはんの前に、お風呂に入るかい?」
オバサンは、私の行動パターンがよくわかってる。アルくんは、かなり心配性ね。
「うん、そうする。あっ、キララのカゴは……」
オバサンが、カゴの中を覗いて固まってる。これは、怒っているかも。大勢のスライムを連れて来たからだよね。
「あはは、たくさんのお友達が来たんだね〜。ジュリちゃん、この子たちも、泥を落とさなきゃね〜」
(確かに……)
「じゃあ、この子たちも一緒にお風呂に……」
「ジュリ! 風呂場が泥だらけになるじゃないかい」
(た、確かに……)
「村長さん、泥だらけになったら、ネイルの能力で掃除をするよ。浄水ができるから……あっ、水を入れ直せばいいのかな? この子たちを先に洗ってしまう方がいいかも」
オバサンは、ムスッとしてる。この顔は、どういう顔なのか、わからない。
「ジュリちゃん、早くお風呂に入っておいで〜。風呂の水の入れ替えは、海辺のスライムにお願いすればいいよ〜」
「はーい、わかったの」
私は、オバサンにこれ以上叱られないように、慌ててキララのカゴに触れた。
◇◇◇
「あー、飛び込んじゃった」
キララは、お風呂の中に転移したみたい。キララのカゴごと、私達は浴槽の中にいる。私なんて、ワンピースを着たままだよ。
(わっわっ!)
キララが人型に変わったから、カゴの中にいたスライム達が、お風呂に浮かんでる。そんなに熱い湯じゃないけど、驚いている子が多いみたい。
でも、すぐに慣れてきたのか、ぷかぷかと浮かんで楽しそうにしてる。色とりどりのスライムでいっぱいね。あっ、沈んでいる子もいるかも。
「キララ、この子たち、お風呂に入って大丈夫なの?」
『うん、この水は、海辺のスライムが出した無害なものだから、スライムでも大丈夫だよ。冷たい場所を好む個体は、少しつらいかもしれないけど、もう慣れたかな』
「キララは、水の中で大丈夫なの? ロボットは防水機能が……あっ、キララはロボットじゃないから大丈夫かな」
『ボクは、汚れないから大丈夫だよ。ジュリちゃんの知識を借りると、防水機能も完璧だからね』
「そっか。じゃあ、よかった」
ガラッと扉を開ける音がした。振り返ると、オバサンが呆れた顔で立っていた。
「ジュリ、着替えとタオルを持ってきたけど、服のまま、何をやってるんだい」
「あ、ありがとう。みんなでお風呂に入ってるよ」
「はぁぁ、そうかい。まぁ、この状況では、服を脱ぐわけにもいかないね。スライム達の身体の水を切ってから、食堂に来な。いいかい? そのままはダメだ。家の中が、びちょびちょになるからね」
「はーい、わかったの」
返事をすると、ピシャっと扉が閉められた。
(オバサン、怒ってる)
『ジュリちゃん、ネイルを使えばいいよ』
「あっ、そうだね。ネイル、どう組み合わせればいいかな。アドバイスある?」
『ジュリさんは、泥だらけの服を先に着替えてください。スライム達の特性を分析し、ダメージを与えずに水を切る組み合わせを考えます』
「うん、わかった。ネイル、お願いね」
チェーンブレスレットが淡く光ってる。ネイルが何かの術を使っているのね。
私は、オバサンが持って来てくれた服に着替えた。ちゃんと拭いてなかったから濡れてしまったけど、まぁ、いっか。
『ジュリさん、マニキュアセレクトって言って』
「ん? マニキュアセレクト?」
(わっ!)
マニキュアの小瓶が4つ乗っている白いトレイが現れた。ネイルがセレクトしたものだけを呼び出せるのね。
『ジュリさん、ベースコートの塗り直しをして』
「今朝、塗ったけど、塗り直し?」
『塗り直してください』
「わかったの」
一番左にある小瓶を手に取り、両手の爪にベースコートを上から重ね塗りするようにして塗った。たぶん、ベースコートにはリセット機能もあるのね。重ね塗りをすると、その下のマニキュアが消える気がする。
『左から、3、2、1 です』
「指の本数? 両手を使わないと6本にならないけど」
『はい、両手に塗ってください』
青が3つ、緑が2つ、赤が1つか。水魔法、風魔法、火魔法だよね。私は、左手に青3本、右手に緑2本と赤1本を塗った。
(めちゃくちゃ派手だよ)
どれも、1連目のマニキュアだから、マットな感じで、派手派手になってる。
「できたよ。あっ、消えた」
白いトレイが消えたから、これでいいみたい。2連目や3連目の補助は要らないのかな。
『ジュリさん、もう少し後ろに下がって、両手を前に出してください』
「うん、わかった。泉のスライム達は?」
『オレが指示をしたので、大丈夫です。風に弱い種族はお風呂の中に沈んでますから』
そういえば、私がマニキュアを塗っている間に、みんな慌てて大移動してたよね。
『ジュリさん、セレクトオールと言って』
「うん、セレクトオール!」
(うわぁ〜、すごい)
私の両手から、小さな嵐が飛び出した。まるで、亜熱帯なスコールって感じ。
お風呂のお湯は一気に蒸気に変化し、スライム達は強い風に巻き上げられて天井近くに浮かんでいる。天井全体が、色とりどりの絵の具をぶちまけたみたいに見える。
浴槽のお湯が無くなり、泥も砂になって天井近くに巻き上がってきた。
キララが窓を少し開けると、天井近くの砂が外へ出て行った。ネイルがキララにお願いしたのね。砂が全部出て行くと、キララは窓を閉めた。
ものすごい湿気。湿度100%じゃないかな。
(わ〜、面白い!)
浴槽に水が戻っていく。それと同時に、湿度もマシになってきた。スライム達もゆっくりと降りてくる。
『ジュリさん、終わりました。お湯の温度を確認してください』
湯船に手を入れてみると、いつもよりは少し熱いけど、お風呂としては完璧ね。
「うん、大丈夫だよ。ネイル、すごいね。私の服も、しっかり乾いたよ」
『はい、計算しました!』
ネイルは、少し照れたのかな。念話だから感情が伝わってくる。
「じゃあ、みんな、食堂に移動するよ。キララのカゴに入って。外の砂が付くと、また村長さんに叱られるからね」
キララがカゴに姿を変えると、スライム達の玉入れ競争が始まった。下手な子は、また跳ね返って慌ててる。
(ふふっ、かわいい)
そして、私達は転移の光に包まれた。




