40、スライム神から渡された手紙と赤い石
「アル、誕生日おめでとう。ジュリは眠くないか?」
スライム神の祠のある洞穴に着くと、お爺さんの姿のスライム神が待っていた。
「爺ちゃん、ありがとう。ジュリちゃんは、まだ寝る時間には早いと思うよ」
「ふむ、そうか。話を聞きたいというスライム達も集まっている。アルは、大きなスライムが苦手じゃったか」
「あ、いえ。大丈夫です」
アルくんは少し強がっていると思うけど、人化するスライムって、みんな大きいから、最近は大丈夫なのかも。森の中に、剣の訓練に行ってるもんね。
お爺さんの後ろから少し歩いていくと、突き当たりに灯りが見えた。オバサンの背丈くらいの祠ね。その前には、貢ぎ物らしきものが積み上がっている。
以前に来たときは、奥の草原に行ったけど、お爺さんは左側の方へと進んでいく。スライム神が歩いて行くと、岩壁が下がっていくから不思議。魔法なんだろうな。
少し進むと、突然、広い部屋があった。
そして、たくさんの大きなスライムがいる。海辺のスライム達だけじゃない。キングパープルさんや大きな白いスライムもいる。
「待たせたな。ほう、かなりの数が集まったようじゃな。青いスライムだらけになるかと思っておったが、色とりどりじゃのぅ」
お爺さんは、部屋の奥へと進んでいく。大きなスライム達で見えなかったけど、その奥には祭壇のような物があった。
そういえば、オバサンはここで二つ目のギフトをもらったのかも。私が8歳になったばかりのとき、左側に行かないのかって聞いてたもんね。
祭壇のような物にお爺さんが近づくと、床には大きな魔法陣が現れた。今まで見たことのない無色透明な光で描かれている。
「すっごく綺麗だね」
私は、アルくんに話しかけたけど、彼は首を傾げている。緊張しているのかも。青い髪のアルくんは、物質スライムは剣だけだもんね。
「ジュリちゃん、床の光のことを言ってる〜?」
「うん、綺麗だなって思って。広い部屋全部が、キラキラしてるもん」
(ん? あれ?)
銀色の髪の超絶すぎるイケメンは、オバサンの方をチラッと見た後、アルくんの方を見てる。
「ジュリちゃんの物質スライムは、かなり成長したみたいだね。床の魔法陣は、人間には見えないみたいだよ。海辺のスライム達にも、中央部分しか見えてないんじゃないかな」
「そうなの? キララとネイルは、すごいんだね」
「ふふっ、アタシは、ジュリちゃんがすごいんだと思うよ〜。前世で眠っていた時間が長かったからなのかな〜。ジュリちゃんは、前世の世界にいた魔物と仲良しになってたんだね〜」
「へ? 魔物なんていないよ」
「あっ、そっか。生と死の狭間を彷徨っていた時のことだから、記憶はないんだね〜。幽霊とか妖怪っていうものなのかな? だから、スライム達とも仲良くなれるんだよ〜」
(幽霊や妖怪?)
「そんなオカルト系の話は、作り話なんだけど」
そう反論してみたけど、ふと、何かが頭をよぎった。事故に遭って眠っていた間に、私はいろいろな夢を見ていた。その夢の中では、鼻の長い天狗の高笑いや、川で溺れるカッパや、霧の中に護符のような物が現れたり……写真のようないくつかの場面だけは記憶している。でも、ただの夢だよね。
「おぉ、これじゃな。探すのに時間がかかってしまったが、ジュリに渡すべき預かり物だ」
魔法陣の光が消えた。魔法陣の中は倉庫なのかな? お爺さんは、私に、少し汚れた手紙と小さな布袋を手渡した。布袋には、硬い小さな何かが入っているみたい。
「これが、預かり物……」
「あぁ、布袋はワシが用意した物じゃが、手紙はそのままだ。布袋の中を見てから、手紙を読んでみなさい」
「私、この世界の文字は知らないです」
「大丈夫じゃ。物質スライムを得た人間は、すべての人間の国や集落の言語を理解できるし、文字も読める」
「へぇ、すごいんですね」
小さな布袋の中を覗くと、赤い石が入っていた。取り出そうかと思ったけど、やめた。スライム神が布袋を用意したのは、これを他の人やスライムに見せないためかもしれない。
私は、手紙を広げてみる。
◇─────────────────────◇
賢者様、このような無礼をお許しください。
私は、リーネルと申します。私が産んだ娘を、どうか預かっていただきたいのです。
私の国では、白い髪の子は呪われた子だとして、赤ん坊のうちに殺されます。ですが、他国では別の解釈がされています。私は、自分の子には生きてほしい。だけど、私の元に置いておくには限界となりました。とても身勝手なお願いであることは、存じております。ですが、他にすがる手段がないのです。
娘の名前は、ジュリエッタと名付けました。
賢者様は、世界のあらゆる魔術に精通し、奇跡を起こしてくださると聞きました。この子の髪色を変えることができれば、生きられると思います。どうか、お願いです。この子が生きられるように、お力を貸していただきたいのです。もし髪色を変えられないのであれば、賢者様の島にて、この子が寿命を終えるまで、働かせてやってください。
願いを込めて、国を示す石を添えます。
ジュリエッタ、どうか生きて……幸せになって。
◇─────────────────────◇
これは、私の母が書いた手紙なのね。スライム神の預かり物が手紙だろうとは思っていた。
母の名前と私の名前、そして国を示す石しかないなんて、ちょっと予想外だったな。でも、私を殺そうとして海に捨てたわけではないことは理解できた。私を生かすために、賢者様に……うん?
(賢者様?)
「あの、お爺さん、この手紙の宛名になっている人は、お爺さんのことですか?」
「ふむ。そのようじゃの。ワシは、確かに多くの知識を得ているから、大陸の人間は、そう呼ぶようじゃな」
(賢者がいた!)
ロックスさんとイーグルさんは、この島に賢者を探しに来たんだったよね。まさか、こんな近くにいたなんて!
でも、そっか。お爺さんの素性は、人間には秘密だから、白い髪でギフトを二つ得た人間しか知らない。アルくんがいるから、口を滑らさないように気をつけないと。
「手紙には母の名前と私の名前しかないから、国を示す石があるけど、大陸に行けても、何も探せないですね」
「ジュリちゃん! その石は青色?」
アルくんが、慌てた顔をして、どこからか取り出したピカピカと輝く青い石を、私に見せた。




