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39、強すぎる孤独

「アルくん、12歳おめでとう」


「ありがとう。誕生日を祝ってもらうなんて、初めてかもしれない。見たことない料理もある!」


 改造スライムの襲撃から数日後、オバサンの家で、アルくんの誕生日のお祝いをしたよ。あまり喋らない青い髪の漁師さんはもちろんだけど、髪の毛のない新人の漁師さんも来ている。



「この料理は、ジュリが作ったんだよ。前世の記憶にあったパンケーキという料理らしい。麦粉をこんな使い方するなんて、私も驚きだね」


「へぇ、ジュリちゃんが作ってくれたのか。ありがとう」


「アルくんの誕生日だから、ケーキを焼きたかったけど難しくて、パンケーキなら作れたから、ケーキっぽく飾ってみたよ」


 私は言い訳がましく説明してしまったけど、皆には伝わらない。そもそもケーキが、この世界には無いみたいだもんね。麦粉は、小麦粉ではないから、少し不安。


「アル、ジュリが作った料理は、食後に食べる方が良さそうだね。さぁ、冷めないうちに食べようか」


「はーい! いただきます〜」


 銀色の髪の超絶すぎるイケメンが、真っ先に食べ始めた。主役はアルくんなのに、わかってないよね。



 彼がキングシルバーだということには、海辺のスライム達は、まだ誰も気づいてないみたい。スライム神が、彼がキングだということは明かしたけど、銀色の髪なのに、キングシルバーだと思わないのね。


 スライム神の側近は、キングという名前が付いているらしいけど、素性を隠しているキングもいるんだって。だから海辺のスライム達は、イケメンさんのことを、素性を隠しているキングだと思ったみたい。


 彼が素性を隠す理由は、キララによると、スライム神に次ぐ存在だからって言ってた。キララはそれ以上はわからないって言ってたけど、たぶん、今の現状を知られたくないのだと思う。スライム神の次に強いキングシルバーじゃないと、改造スライムの襲撃を抑えられないってことなんじゃないかな。



「わぁっ! ジュリちゃんの料理、すごく美味しい!」


 アルくんが、子供のように目を輝かせてる。彼は、ずっと、大人のような振る舞いをしていたから、ちょっと意外な反応かも。


「パンケーキって、甘くてふわふわで幸せな気分になるね〜。まるで、ジュリちゃんみたいで美味しい〜」


(はい?)


「ちょっと、イケメン! 変な言い方をするんじゃないよ。まぁ、ジュリにはわからないだろうけどさ」


 オバサンは、変な誤解をしてる。そういえば、イケメンさんが棲みつくようになってから、オバサンはいつも綺麗にメイクしてるよね。


「アタシは、変な言い方はしてないよ〜。ジュリちゃんみたいにふわふわだなって言ったの〜。村長が考えてるような下心は無いよ〜」


「下心って何だい。イケメンは、すぐにそうやって、私をからかうんだね」


「ふふっ、村長はすぐに顔が赤くなるから、楽しいんだよ〜。それから、アタシの素性を探るのは無しだよ〜。秘密のベールに包まれている方が、カッコいいでしょ〜」


(あっ、そっか。知らないんだ)


 彼がキングだということは、海辺のスライム達から聞いたはずだけど、どこにいるキングかは知らないのね。


 オバサンを守る物質スライムは、彼の正体をまだ隠してるのね。隠し事をされて、オバサンも面白くないんだと思う。キララやネイルが私に隠してることもあるのかな。



『ジュリちゃん、ボクはジュリちゃんには嘘はつかないよ。村長の物質スライムは、村長のために隠してるんだ』


(キララ、どういうこと?)


『ジュリちゃんも気づいてるだろうけど、村長はイケメンに恋心を抱いてるでしょ。キングシルバーは、いろいろな噂があって、ちょっと嫌われてるんだよ』


(どうして嫌われるの? 何かやった?)


『うん〜。この島で一番強いことを自慢してるからね。それに、スライム神からのギフトである物質スライムの王様が、キングシルバーなんだ。野望があるように見えるんだよ。わざとそう見せているのかもしれないけど』


(ふぅん、そっか。だから、道化どうけを演じるのかもしれないね。それで逆に、距離ができちゃうのかも)


 キングシルバーさんが圧倒的な力を持っていることで、いろいろな不都合が起こっているのかな。でも、ナンバー2って、そういう運命なんだと思う。


 野望があるかなんて、本人にしかわからない。あっ、違うか。人間の考えを覗くことができるスライム達は、たぶん、何を考えているかを覗けないから不安なのね。


 キングシルバーさんは、道化を演じている気がするけど、普通にしてたら、すごく近寄りがたいんだと思う。距離を縮めようとして、こんな感じになってるけど、スライム達は裏があるんじゃないかと疑うのね。人間関係も大変だけど、さらに様々な能力を持つスライム関係は、もっと複雑で大変ね。


(あっ、そういうことか)


 私の記憶の中から、いろいろな真似をしているのは、今の状況を変えたいからなのね。


(やっぱり……)


 私が考えていることを、彼はジッと眺めていたみたい。今、ちょっと動揺したよね。


 キングシルバーさんは、強すぎるから孤独なのか。今の彼のキャラクターは、これまでの試行錯誤の結果なのかもしれない。白い髪の子の前世の記憶を覗くことで、必死に最適解を探しているのかも。




「あ、ジュリちゃん。俺の物質スライムが、ジュリちゃんと一緒に、祠へ行けって言ってる」


 子供っぽい笑顔だったアルくんが突然、その表情を引き締めてる。


「今から? もう外は暗いよ?」


「夜の方がいいみたいだ。夜は、島を覆う結界が強くなるから、外からの襲撃はないんだって。それに夜は、他の集落から人間は来ない」


「そっか。うん、わかった」


 私が立ち上がると、片付けを始めていたオバサンが、洗い物をやめた。


「じゃあ、私も行こうかね。ロックス、留守番を頼むよ。夜は、たまに、小さな魔物が入ってくることがあるからね。漁師の二人も、私達が戻るまで、ここにいてくれるかい?」


「村長、わかりました。お任せください」


 ロックスさんはすぐに返事をしたけど、漁師の二人は、アルくんに付いて行きたいみたい。


「アルのことなら、アタシがジュリちゃんの護衛をしてるから大丈夫だよ〜。祠には、スライム神に許された人間しか入れないからね〜」


 銀色の髪の超絶すぎるイケメンは、いつもとは違って、真顔で、彼らにそう伝えた。



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