36、マニキュアリスト
それから、しばらくの時が流れた。
この島には四季はないけど、大陸ではそろそろ雪解けの季節らしい。もうすぐ、アルくんの誕生日だね。
あれからキングシルバーさんは、本当にオバサンの家に棲みついてしまった。彼は、完全に人間だと思われているみたい。海辺の集落にいる人化するスライム達も、彼の正体には気づいてない。スライム神に次ぐ存在だと冗談っぽく言っているけど、本当にそうみたい。
キングシルバーさんは、人化することが珍しいらしく、だから余計に、海辺の集落のスライム達も気づかないのね。初めて会ったときも、人化を嫌がっていたっけ。
今でも髪型がキマらないって、毎朝大騒ぎしてるよ。オバサンが、彼の髪をブラシで整えることが、日課になってる。
ネイルは、色が増えたよ。チェーンブレスレットの穴は、まだ全ては埋まってない。あと4つかな? 色が増えるたびに、物質スライムは成長しているみたい。
スライムから色を集める時には、かなりの魔力を使うらしくて、キングシルバーさんとキングパープルさんに色をもらったときは、キララが魔力補助をしていたんだって。
集めた色が5つになったとき、マニキュアのリストが出るようになったよ。それまでは、すべての小瓶が飛び出していたけど、リストを表示すれば、必要な物だけを取り出せるようになった。
『マニキュアリスト』
【ベースコート】
●爪の表面の保護のために塗る下地。
●スライム神の通常バリアが常時発動する。
【銀ラメ:Lv.1】
●無色透明、銀色のラメ入り。
●キングシルバーの盾。
【紫:Lv.1】
●マットな紫色。
●キングパープルの微毒、毒耐性・弱。
【白:Lv.1】
●クリアな白色。
●クリアスライムの毒消し・弱。
【赤:Lv.1】
●鮮やかな赤色。
●レッドスライムの火魔法・弱。
【黄:Lv.1】
●やわらかな黄色。
●イエロースライムの土魔法・弱。
【青:Lv.1】
●爽やかな青色。
●ブルースライムの水魔法・弱。
【緑:Lv.1】
●明るい緑色。
●グリーンスライムの風魔法・弱。
白、赤、黄、青、緑は、どれも、大きなスライムの草原にいたスライム達から、色をもらったんだよ。それぞれの魔法をネイルで発動すると、皆、すっごく喜んでくれた。スライム達は真似をされると、なぜか嬉しいみたい。
どれも大きなスライム達が使える最弱の魔法だけど、物質スライムが成長すると、威力も変わってくるだろうって、キングパープルさんが言っていた。
でも、これでも、人間が使うには充分すぎると思う。特に、クリアスライムの毒消しは、人間が受けたほとんどの毒を消せるみたい。
レッドスライムの火魔法は、指先にポッと小さな火が出るから、ライターみたいな感じ。イエロースライムの土魔法は、土がボコッと盛り上がるから、何かを植えるには良いかな。ブルースライムの水魔法は、指先からチョロチョロと水が出るから、根気よく待てば水が溜まる。グリーンスライムの風魔法は、指先からふわっと風が出るから、濡れた髪を乾かすには良いかも。
人間は魔法なんて使えないから、すごいことだと思う。だけど、スライム神にも言われたように、他の人には、ネイルの能力は隠してる。私自身が、もっと大人にならないと、悪い人に利用されるだけだもんね。
◇◇◇
「もうっ! イケメンさん、ついて来ないでよ」
銀色の髪の超絶すぎるイケメンは、私が家を出ると、必ずついてくる。海岸にいるロックスさん達にお弁当を届けるだけでも、ついて来るのよね。
「アタシは、ジュリちゃんと一緒に居たいのよ〜」
(たぶん護衛だよね)
彼の話し方は、ずっと変わらない。人間らしくしているつもりかもしれないけど、何だか最近は、オネエっぽく聞こえる。
私は、プイッと無視して、海岸へと歩いていく。私がどんな失礼な態度でも、キングシルバーさんはニコニコしてる。
「ロックスさん、村長さんからお弁当を預かってきたよ。村長さんは昼から出掛けるんだって」
「ジュリちゃん、ありがとう。オジサンの分もある?」
「うん、大丈夫だよ。新人さんの分もあるよ」
いつからか、漁師は一人増えていた。お爺さんではないけど、初老の人かな。頭は剃っているのか、つるんとしてる。でも、帽子を被っているようには見えないから、人間なのは確かだと思う。
私とは全く話さないけど、アルくんと楽しそうに話しているのを見たことがある。新人さんは、青い髪なのかもしれない。眉毛は、何かを塗ってごまかしてるけど、青っぽく見えるもんね。
「イケメンさんは、いつもジュリちゃんと一緒にいますね。暇だったら、漁をしてみますか?」
「ロックス、それは嫌なのよ〜。海風を浴びていると、髪がガサガサになるじゃない〜? アタシ、髪型に苦労してるの〜」
(ナルシストだもんね)
「確かに、髪はすぐに、ガサガサになりますね」
「でしょう〜? 海水が髪に悪いのかな〜」
海底に棲むキングシルバーさんが、何を言ってるんだろう。しかも、彼の銀色の髪は、いつもサラサラでキラキラなのに。
私は、オバサンの家に戻ろうと歩き始めた。
(あれ?)
いつもなら、大騒ぎしながらバタバタと、超絶すぎるイケメンが私を追いかけてくるのに、足音がしない。
振り返ってみると、超絶すぎるイケメンは、ニヤッと好戦的な笑みを浮かべていた。
(何? 一体……)
『ジュリちゃん、ボクを呼び出して!』
(ん? キララ、オープン。どうしたの?)
キララは、見たことのない木の箱になって、私を覆った。
『襲撃だよ。ジュリちゃん、小さな小屋の中で嫌かもしれないけど、ジッとしてて』
(えっ? 襲撃って……誰が来たの?)
『これから来る。イケメンがいるから大丈夫だけどね。たぶん、ジュリちゃんとアルを狙ってる』
(真っ暗で、何も見えないよ)
『ジュリちゃんを隠してるんだ。ボクには何が来るかわからないから、暗いけど我慢して』
キララは、いつもとは違って、かなり警戒してる。だけど超絶すぎるイケメンは、さっき、ニヤッと笑ってたよね?
「漁師たちは、漁船に戻って〜。もうすぐ襲撃者が転移してくるよ〜」
「えっ? あ、ジュリちゃんは……」
「大丈夫〜。ジュリちゃんの物質スライムは賢いね〜。どこにいるのが一番安全か、ちゃんとわかってるよ〜」
(だから、転移で逃げないのね)
ロックスさん達が、桟橋を歩く音が聞こえる。そして、海辺の集落のスライム達が、海岸に集まってくる気配を感じた。




