34、キングパープルの毒
「乾いたよ。えーっと?」
左手の小指の爪が、銀ラメで派手派手になっているけど、私は、盾には変身していない。
白いトレイは、マニキュアが乾くと消えるのかな。私が指示しなくても、いつの間にか消えてる。
『ジュリさん、術名を言わないと発動しないんだ。キングシルバーの盾って、言ってみて』
「わかった。キングシルバーの盾!」
(わぁっ!)
私の左手には、キラキラと輝く透明な盾が現れた。すっごく軽いけど、私の背丈ほどの大きさがある。
『アタシの盾のお子ちゃま版だね〜。真似っこしてくれて、かわいいな〜』
(お子ちゃま版……)
「あまり効力はないのかな?」
『試してみればいいよ〜。後ろにいるスライム達の攻撃くらいなら、弾くんじゃないかな〜』
「えっ? スライム達が攻撃するの?」
私は、軽いショックを受けていた。スライムが私に攻撃したことなんて、一度もないからかも。
「泉のスライムはジュリの友達だぞ? これだから、キングシルバーは野蛮なんだ。だが、攻撃はしなくても、事故が防げるかを確認しておくのもいい。ジュリ、盾をそのまま持っていなさい」
紫色の髪のイケおじは、私にそう言うと、近くにいた泉のスライムを掴んで、私に向かって放り投げた。
(ええっ!?)
投げられたスライムは焦った顔をしていたけど、盾にべちゃっと当たると、ポヨンと跳ね返って地面に落ちた。
「ふむ。ジュリ、左手は大丈夫か?」
「はい。ほとんど衝撃は無かったです」
「それなら良かった。キングシルバーは人化すると、魔力で作り出した盾を持つことがある。その盾のお子ちゃま用みたいだな。キングシルバーの盾は、何も通さない。ジュリの盾の強度は、かなり低いが、物質スライムが成長すれば、その強度も上がるだろう。次は、俺だな。その盾を消してくれ」
「えっ、あ、はい」
(どうすれば消えるのかな?)
『ジュリさん、盾を消そうと意識すれば消えるよ』
「じゃあ、キングシルバーの盾、終了」
透明な盾は、パッと弾けるように消えた。
「えっと、パレット」
ブレスレットが光って、白いトレイのような物が現れた。もう、手順は覚えたよ。
「この上に垂らすのだな? 俺の色がどんなチカラに変わるか、楽しみだ」
紫色の髪のイケおじは、大きな手から、白いトレイの上にポトリと、紫色の液体を落としてくれた。
白いトレイの上で、紫色の液体が静かにくるくると回ると、頭に文字が浮かんできた。
【紫:Lv.1】
●マットな紫色。
●キングパープルの微毒、毒耐性・弱。
また、レベル1って書いてある。毒耐性って、すごくありがたいかも。
「早く使ってみてくれ」
「あ、はい。えっと、マニキュア」
私の左手首から、小瓶が3つ飛び出してきた。ブレスレットに空いた穴は、スライム神の無色透明な石の隣に、紫色の石がハマっている。側近の石が、スライム神の石の両側に配置された感じ。
(えーっと、次は……)
白いトレイに勝手に乗った小瓶は、綺麗に整列している。石の並び方とは違って、一番左側にスライム神の【ベースコート】の小瓶がある。
小瓶に触れると、私の両手の爪が全てピカッと光った。だけど、その横の【銀ラメ】の小瓶に触れても反応がない。
(あれ? 取れてる)
『ジュリさん、キングシルバーの盾を発動したときに、ネイルは爪から剥がれて盾になったんだよ。だから、左手の小指は、【ベースコート】しか残ってないよ』
「そっか、使ったら取れるんだね。じゃあ、除光液は無くてもいいかな」
私は、紫色の小瓶に手を伸ばし、左手の小指に塗ってみた。マットな紫色という表現通り、あまり光沢のない紫色だから、派手さは控えめかな。
「おぉ! 弱い毒耐性か。森の中を歩く時には役立つだろう」
紫色の髪のイケおじは、満足そうに何度も頷いている。
『ジュリさん、術名を言ってみて』
「えっ? もしかして、キングパープルの微毒って……わっ!!」
私の左手から、紫色の煙みたいなものが、ぶわっと出てきた。これって毒? スライム達がいるのに!
「ふふっ、さっきの草刈りの真似か? かわいいではないか。だが、それを使うときには腕をサッと振らなければ、地面に落ちてしまうぞ」
「草刈り? 毒って書いてあったけど、スライム達は……」
泉のスライム達は、紫色の煙をポヨンポヨンと踏んで遊んでる。
「これはスライムには効かないよ。だが、人間には少し効くだろうな。この毒を上回る耐性がジュリには備わっていたが、毒が消えると、耐性も消えてしまったようだな」
左手の小指からは、紫色のネイルは消えている。
「一度使うと、消えてしまうみたいです」
「そうか。ふふっ、真似をされるというのは、何とも可愛らしい。他のスライム達にも伝えておこう」
「はい、キングパープルさん、ありがとうございます」
紫色の髪のイケおじは、とても満足そうに見えた。次は、クリアスライムさんかな?
『やっと順番が回ってきたが、ジュリの物質スライムの魔力が尽きてしまいそうだな。残念だが、またの機会にしよう。ジュリも、お腹が空いただろう』
白い大きなスライムは、優しい笑みでプルンと震えている。
「じゃあ、私は、海辺の集落に戻ります」
『アタシが送ってあげようか〜? ここから歩くと遠いよ〜』
「えっ、あの、私は……」
『キングシルバー! ボクがいることがわかってて、ジュリちゃんが困るようなことを言ったでしょ』
(あっ、キララ!)
『アタシの方が、転移は速いと思うよ〜。それに、ジュリちゃんを送ってあげたら、海辺の集落に入れるからね〜』
(何か怪しい)
銀色のスライムは、海辺の集落に出入り禁止をくらっているのかもしれない。
『海辺の集落は、昼間はスライムの姿は禁止だよ! 他の集落から人間が来るからね。それに今は、大陸から来たスライムが残した、寄生するスライムの駆除に忙しいんだ』
『え〜、アタシは、暇なんだよ?』
巨大すぎる銀色のスライムは、砂浜に穴を空けてしまいそうだし、分裂したら銀色のスライムだらけになるよね。
『じゃあ、人化するなら、ボクが連れて行ってあげるよ? 村長のごはんは、海辺のスライム達も美味しいって言ってたよ』
(ちょ、キララ!)
銀色のスライムは、巨大すぎるスライムに合体した。怒って海底に帰るのかな?
「仕方ないなぁ〜。髪型がキマらないんだけど〜」
(うわっ!)
銀色の巨大すぎるスライムがパッと弾けるように消えると、銀色の髪の超絶すぎるイケメンが現れた。




