32、前世の記憶と感覚のズレ
翌朝、私は、いつも通りに過ごそうと決め、朝ごはんの後に、上の草原に水汲みに来た。
『ジュリちゃん、大丈夫?』
(えっ……ええっ!?)
一瞬、キララが話しかけてきたのかと思ったけど、念話の声が違う。新たな物質スライムの声でもない。
「今、お話してくれたのは誰?」
そう尋ねてみると、泉にたくさんいる水色のスライムが、ポヨンと飛び跳ねた。
『わぁい! ジュリちゃんが聞こえるようになってる』
「えっ? 私、スライムの声が聞こえるのかな?」
『聞こえてるよ! わぁい!』
『こら、ダメだよ! ジュリちゃんは頭の中がごちゃごちゃなんだからねっ』
『ジュリちゃん、遊ぼっ』
赤いスライムが飛び跳ねると、次々と他の色のスライムも集まってきて、ポヨンポヨンとジャンプ競争が始まったみたい。
「わぁっ! 高く飛べるのね」
気がつくと、私もその場でジャンプしていた。
(何をやってんの? 私……)
ハッと我に返ると落ち込んでしまう。昨日、スライム神に言われた言葉が、そのまま頭に浮かんできた。
『ジュリ、しばらくは前世の自分との折り合いをつけるのは難しいだろう。じゃが、8歳のジュリが消えたわけではないからな』
(確かに、ね)
前世の自分との折り合いか。今、何かを考えるときは、前世の私の感覚が優先されている。だけど、8歳の私が消えたわけではないのよね。無意識なときは、8歳の私が優先されるのかな。スライム達と飛び跳ねてしまうのは、その証拠だと思える。
『ジュリちゃん、大丈夫? 困ってる?』
(わっ!)
座り込んだ私の周りには、スライム達が折り重なるように集まってきてる。
心配そうな顔をしているスライムが多いけど、気にせずヘラヘラと笑っているスライムもいる。同じ色でも、それぞれ個性が違うのね。
「ありがとう。みんな、優しいね」
『ジュリちゃんは、昔の記憶を思い出して困ってるんでしょ? 気にしなくていいよ』
『そうだよ! ジュリちゃんはジュリちゃんだからね』
『昔のジュリちゃんって、異世界の子でしょ? 白い髪だもん』
『腕輪の物質スライムは、機嫌が悪いのかな。ツーンってしてるよ。指輪の物質スライムは、こんにちはって言ってくれるのにー』
『新しい物質スライムは、戸惑ってるんじゃない? まだ赤ん坊だもん』
スライム達は、返事をする暇がないくらい、どんどん話しかけてくる。返事を期待してないのかも?
「みんな、いつも、こんなにたくさん話してくれてたの?」
そう尋ねると、スライム達は一斉にポヨンと飛び跳ねた。ふふっ、すっごく元気ね。
『いつも、いっぱい喋ってるよ。でもどうして、ジュリちゃんは、聞こえるようになったのかな?』
「新しい物質スライムを得たからかな?」
『違うと思う〜。アタシの言葉が理解できる人間はいないもん。同じ色の人間がいないから〜』
「わっ! 銀色のスライムだ。銀色の髪の人間は居ないの? あっ、初めましてかな?」
今まで見たことのない銀色のスライムが、突然、現れた。20体いや30体ほどいるだろうか。どの個体も、泉にいるスライム達より、ひとまわり大きい。スライム達は、私の後ろに隠れるように移動してしまった。
『アタシ達は、海底にいるスライムだよ〜。島の周りの珊瑚礁の監視をしてる〜』
「へぇ、海底にいるんだね。海から出ても大丈夫なの?」
『うん、平気〜。ジュリちゃんが私達の声が聞こえるのは、スライム神のバリアの影響だよ〜。ネイルがはがれたら、聞こえなくなるよ〜』
「えっ? バリアの影響で言葉がわかるの?」
『そうだよ〜。だけど秘密にしておく方がいいよ〜。あー、秘密にしない方がいいかも〜』
銀色のスライム達は、何か相談を始めたのか、静かになった。仲間だけの念話かな。キララも、念話を聞かせる対象を変えることができるもんね。
(わっ!)
私の後ろは、スライムだらけになってきた。泉にいるスライム達が、みんな私の後ろに隠れているみたい。震えているスライムも多い。あんなに賑やかだったのに、誰も話しかけてこない。
『ジュリちゃんは、スライムを集めるんだよね〜? そんな物質スライムは、初めてだよ〜』
「ん? スライムを集めるというか、色を集めるみたいだけどね」
『ここのスライム達は無理だよ〜。体液を操れる大人じゃないとね〜。何色くらい集めるの〜?』
「どうかな? ブレスレットは、これだけじゃないから、かなりの数が保管できそうだけど」
『じゃあ、アタシ達の色も欲しい〜?』
(ん? 嫌な予感)
交換条件に無理難題を押し付けられそうな気がする。そもそも、こんなに泉のスライム達が怖がっているんだから、甘い言葉に乗せられてはいけないよね。
『へぇ、キングパープルが気に入っているだけのことはあるね〜。その警戒心は、大事だよ〜』
(警戒心って……あれ?)
見たことのない人化したスライムが、銀色のスライム達の後ろに現れた。紫色の髪のイケおじね。ということは……。
「なぜこんな所に来たのだ? キングシルバー。しかも、分裂して何をしている?」
『分裂しないと、この場所には入れないだろ〜。アタシは、あんたと違って大きいんだよ〜』
(キングシルバー?)
「人化すれば良いだろ。泉のスライム達が怯えているじゃないか」
『嫌だね〜。異世界の子に、ダサいと思われたくないよ〜。アタシは、まだ、完璧な姿を発見してないんだよ〜』
紫色の髪の人化したスライムは、銀色のスライム達を睨むと、私の方へと近寄ってきた。
「ジュリ、新たな物質スライムを得たのだな。色を集めていると聞いた。俺が二番目に……」
『ちょっと待ちな〜。アタシが先なんだよ〜。スライム神に次ぐスライムは、アタシだからね〜』
「は? おまえの色をジュリが欲しがるか?」
『たくさん集めるみたいだから、欲しいんじゃないの〜?』
(どうしよう……)
なんだか、謎のケンカが始まってしまった。
「あの、素朴な質問をしてもいいですか?」
そう尋ねると、私に視線が集中した。
「ジュリ、何かな?」
「えっと、確認なのですが、貴方は、スライム神の側近のキングパープルさんですよね?」
「あぁ、そうだ。人化した姿だから、わかりにくかったか」
「はい、まぁ。それで、キングシルバーさんというのも、スライム神の側近なのですか?」
「そうだ。やはりコイツは、何も言ってなかったのだな。海底火山に棲み、地熱を司っている。スライム神が与える物質スライムの源となるスライムだ」




