30、スライム神の素性を知る人間
「ほう! 面白いのぅ。ジュリの物質スライムは、ワシの簡易バリアを使えるのだな」
お爺さん……いえ、スライム神は、興味深そうに目を輝かせている。スライム神のギフトなのに、物質スライムの個性は、授けた本人にもわからないみたい。
「ジュリには、バリアが備わったね。それが、新しい物質スライムの能力なのかい?」
オバサンの驚きの声に、私も驚いた。オバサンにはバリアが見えているのかな。
「村長さんにも塗って……あれ? 消えた?」
オバサンにもベースコートを塗ってあげようと思ったのに、白いトレイごとマニキュアの小瓶は消えてしまった。
『オレは、集めた色が持つ魔法を模倣できる。まだ生まれたばかりだから、今は、ジュリさんにしか使えない。腕輪に色が集まったら、ジュリさんの親しい人間にもできるようになるよ』
「成長したら、他の人にもネイルしてあげられるんだね。だけど、ベースコートを塗っただけで、バリアが備わるなんて驚いたよ」
『オレは、あらゆるスライムの能力をひとつずつ借りることができるんだ。スライム神の能力は異次元に高いから、通常バリアを借りることができた。だけど、他のスライムから借りる能力は、まだ、すごく弱いものしか使えない』
「そっか。でも凄い能力だね。キミは、えーっと……」
名前を付ける方が良いのかな。キララは名前を欲しがったけど、二つ目の物質スライムは何も要求してこない。
「ジュリ、新たな物質スライムには、名前を付けないことが多いらしいよ。名前を欲しがらないスライムには、名付けをしても意味がないからね」
オバサンが、スライム神の視線を気にしながら、そう教えてくれた。
「そうなのですね。じゃあ、名前を欲しがるまでは、役割で呼ぶことにします」
「ちょっと、ジュリ! 私にまで、そんな大人のような話し方をされると、違和感しかないよ。ジュリは、8歳になったばかりなんだよ? まぁ、今は、前世のジュリが喋っているのだろうけどね」
「あっ、つい、何となく……祠から出たら、今まで通りの話し方をするように気をつけます」
この不思議な草原も、祠の一部だと思う。きっと他からの干渉もないだろうし、傍受されることもないよね。
「ふふっ、ジュリは、前世ではどれくらい生きていたのかな。村長は、前世は短かったみたいじゃよ」
「スライム神、私は18歳の時に事故に遭って、長い間、病院にいたみたいです。友達の雰囲気からすると、20代半ばまで生きたのだと思いますが」
(あっ、わからないか)
オバサンは少し首を傾げた後、口を開く。
「ジュリ、爺さんのことは、人間の姿をしているときは、爺さんでいいんだよ。スライムの特徴がないだろ?」
「えーっと、はい」
「村長、それは違うぞ。ジュリは海辺の集落に来たときから、ワシがスライムなのを見抜いていた。ジュリの場合は、人化したスライムは帽子を被っているように見えるらしい。サーチではなく、視えるようじゃな」
スライム神がそう言うと、オバサンは目を見開いていた。オバサンは……いえ、オバサンの物質スライムは、サーチ魔法を使うということね。
そういえば漁師のお兄さんは、スライムと人間の区別ができないから、人間の顔を覚えているって言ってたっけ。
「ジュリ、しばらくは前世の自分との折り合いをつけるのは難しいだろう。じゃが、8歳のジュリが消えたわけではないからな。落ち着いたら、ワシの所に来なさい。ジュリには、渡す物がある」
「渡す物って……」
(三つ目のギフト?)
「ふっ、ギフトは二つまでしか与えられないが、ジュリがこの島に来たときから、預かっている物があるのじゃ」
「預かっている物?」
「うむ。それから、ワシの素性を知る人間は、ワシが二つのギフトを与えた人間だけじゃ。すなわち、白い髪で、幼い頃にこの島にたどり着いた子だけじゃよ」
「わかりました。スライム神の素性を知る人間は、少ないのですね。他言はしません」
「ホッホッ、とても賢いのぅ。ジュリの知る前世の知識を見せてもらった。これは緑の帝国が欲しがるだろう。二つ目の物質スライムの能力のことは、しばらくは人間には秘密にしておく方が良さそうじゃな」
(なぜ、欲しがるの?)
私には、軍事的な知識はないし、戦う力もない。前世の私なんて、ネイリストになりたいと思っていただけの平凡な人間だったのに。
「ジュリは、緑の帝国が知らない知識を持っているんだね。アルだけでなく、ジュリも、今以上に隠さなきゃいけないなんて、大変だよ」
オバサンは、そう言いつつ、嫌そうには見えない。
「あぁ、ジュリの前世では、スライムは非常に弱い魔物のようじゃな」
「えっ? あ、それは、アニメやゲームやラノベの世界の話ですから……」
「ジュリの前世の世界に実在しなかったとしても、この世界では、その知識を具現化することで、強力な武器を創り出すことができる。魔法に関しても、未知のものがあったから、ワシに新たな知恵が備わったようじゃよ」
「ええっ? そんなことができるのですか」
「うむ。だから、緑の帝国は、白い髪の人間を集めているのじゃよ。ワシが加護を与えた子は、これまでは上手く逃げていたがな。白い髪は、他の世界からの転生者の証だ。この世界には染まらぬ真っ白に輝く純粋な魂を持っておると、白い髪に生まれるのじゃ」
「真っ白な魂……」
「そうじゃ。青の王国の最後の王は、白い髪だった。赤の王国と黄の王国では、白い髪は国を滅ぼす不吉な存在として、呪いだと噂するようになったのじゃ。あの王が子供だった時代は、まだワシは加護を与えていなかったからな。もっと早く気づいてやれば良かったが……」
スライム神は、とても後悔しているように見える。
「爺さん、また、その話かい? いい加減にしな」
(ええっ!?)
オバサンがスライム神に、いい加減にしろって言った! 驚いたけど、二人の関係がそれだけ良好だということかな。
「まぁ、そうじゃな。アルは、青の王国を復興させようと頑張るだろうから、今度こそ見守ってやらねばな」
「ジュリの物質スライムは、とても成長が早いからね。それに山の中の集落には、もう一人、白い髪の子がいるだろう? 大陸がダークスライムに飲み込まれることになる前に、何とか手を打たないとね」
(ん? いないよ?)
「あぁ、半年ほど前に流れてきた子か。まだ、3歳くらいじゃったな。間に合うといいが……」




