28、ジュリ8歳になる
「樹里、それ全部買うの?」
(ん? 誰?)
知らないお姉さんが私に話しかけたの。でも、何だか変な感じ。私は頭を動かしてないのに、見えるものが変わっていく。どれも知らない物ばかりだよ。
「当たり前じゃん。このためにバイトして貯めたんだからさ」
(今のは、私の声?)
目に見えていたガラスの小瓶を、どんどんカゴの中に入れていく私。
(黒い……)
顔を上げた私の目に飛び込んできたお姉さんの髪は、真っ黒だったの。私がどこかに歩いていく。目に映る人の髪も、みんな黒いの!
「樹里、カフェに寄ってから帰る?」
「えー? 今日は、速攻で帰るよ。ネイルアートの練習しなきゃ。上手くなったら、結花にもやってあげるね」
(わっ、私の髪も黒いよ)
ガラスに映った見覚えのないお姉さん。これが大きくなった私? ダークスライムに襲われて黒い髪になっちゃうの?
◇◇◇
「樹里、危ない!」
突然、景色が変わったの。私は、空を飛んでいるみたい。でも、だんだん落ちていく。
(あれ? 何?)
遠くで声は聞こえるけど、何も見えなくなっちゃった。
◇◇◇
「どうして……樹里がこんなことに……」
また、景色が変わってる。私は寝転んでいるみたい。白い天井が、ぼやっと見える。
ずっと同じ景色が続いてる。
たまに目を開けると、遠くで声が聞こえるけど、何を言ってるのかわかんない。
◇◇◇
また、景色が変わったの。
(あれ?)
大きくなった私が、木の箱の中で寝てる。結花って私が呼んでたお姉さんが、私の手を触っているみたい。
でもどうして、私が私を見ているのかな。あっ、これは夢なんだ。だから私が見える?
なんだか、私の爪の色が不思議なの。全部の指の爪が違う色をしてる。小さなお花が描いてあったり、海の中みたいな絵もあるよ。
「結花ちゃん、ありがとうね。綺麗にネイルしてもらって、樹里もきっと喜んでいるよ」
「おばさん……。樹里は、結局ずっと眠っていたのね。せっかくバイトして、マニキュアを大量に買ったのに、一度も使えないなんて、あんまりだよね」
「たまに目を開けたように見えたときもあったけど、ずっと眠っていたのかもしれない。これは、樹里が買ったマニキュアを使ってくれたのね。ありがとうね」
たくさんの人がいるの。みんな黒い髪で、黒い服を着てる。顔はよく見えないけど、暗い表情をしてるみたい。結花さんは、最初に見たときより、なんだか大人になってる。
◇◆◇◆◇
「あれ? 私……」
お腹がクゥ〜ッと鳴って、目が覚めたの。変な夢を見ちゃったな。私、昨日は、えーっと?
『ジュリちゃん! お誕生日おめでとう。8歳になったよ。ボクは2歳になったんだ〜』
「えっ? 今日、お誕生日なの? 前のお誕生日のときに、大型船が5回くらい来たら8歳になるって、お兄さんが言ってたよ?」
『大型船が来る頻度が、変わったんじゃないかな? 大陸は戦乱が起こっているからね』
「ふぅん。あっ、キララ、2歳おめでとう。そっか、私、8歳になったのね。前世の記憶が戻るかもって思ってたけど、お誕生日に思い出すわけじゃないのかな」
『ありがとう。うん、ジュリちゃんは8歳になったよ。朝ごはんを食べたら、祠においでって、スライム神が言ってたよ』
「ええっ!? それって、ギフトをもらえるってこと?」
『うん、そうだよ』
「でも、緑の集落の村長さんは、前世の記憶が戻ったら二つ目のギフトを授かるって言ってた気がするよ。私、前世の記憶なんて、戻ってないのに?」
『うーん、ボクにはわからないけど、スライム神がおいでって言ってたから、二つ目のギフトをもらえるよ』
◇◇◇
私は、服を着替えて、私の部屋を出たの。朝ごはんを食べに行こうと廊下を歩いていると、何だか変な臭いがしてきたよ。
(あっ! 昨日の臭い……)
昨日、アルくんと外に出て、変な臭いがして……えーっと、私は外で眠っちゃったのかな。
「ジュリ、早いね。おはよう。晩ごはんを食べずに寝たから、お腹が空いて早起きしたのかい」
「村長さん、おはよう。お腹がクゥ〜ッて鳴ったよ。昨日、私は外で寝ちゃったの? アルくんがあたたかくて眠くなった気がするけど、よく覚えてないの」
「あぁ、外で寝たみたいだね。スライムが防音バリアを張っていたから、眠くなったのかもしれないね」
(ん? 何か変なの)
オバサンは、私の方を見ないし、手から野菜が落っこちたよ。まだ眠いのかな。
「私、朝ごはんを食べたら、スライム神の祠においでって、言われてるみたい」
(また落っことした)
「ジュリ! 8歳になったのかい?」
「うん、8歳になったって、キララが言ってるよ。でも、前世の記憶は戻ってないよ。私が黒い髪になってる変な夢は見たけど」
「そうかい、ジュリ、お誕生日おめでとう! 黒い髪になる夢かい? 誕生日の朝に、嫌な夢だね」
「うん、何だか変な夢だったよ」
「ギフトを二つもらった人間は、ダークスライムの影響は絶対に受けないから安心しな。守ってくれる物質スライムが二体いるということだからね」
「物質スライムを失った人間がどうとか、昨日、大陸から来たスライムが言ってたけど……」
「大陸の人化するスライムは、頭のおかしな個体が多いから、気にしない方がいいよ。さぁ、朝ごはんにしようか。今夜は、ジュリの誕生日祝いをしなきゃね」
オバサンは、ちょっと無理して元気なフリをしている気がするよ。でも、それは言わない方がいいよね。
「うん、ありがとう」
オバサンは、ニコッと笑った後、何かに気づいたみたいに、ハッとしたよ。
「あっ、ジュリ。朝ごはんを食べたら、祠に行く前に、水浴びをするんだよ? 私も、一緒に身体を洗おうかね。ちょっとクサいだろうからね」
「昨日の、変なスライムの臭いがまだ残ってるね」
「スライムの臭い……かな。そうだね。倉庫は使えなくなったから、新たに建て直すか。ジュリの二つ目のギフトが、小屋を建てる物質スライムなら、ジュリにお願いしようかね」
「そんな物質スライムがいるの?」
「あぁ、いるよ。この島に残っている人は、大抵が、生活に役立つ物質スライムを持っているんだよ」
「ふぅん。剣と盾が多いと思ってたよ」
「まぁ、そっちの方が多いだろうけどね。さぁ、ジュリ、奥の小屋で水浴びするよ」
「はーい、わかったの」
オバサンの家の奥の小屋には、温かい水が溜まっている小さな池があるの。洗い物に使う小川の水とは違って、スライムが魔法で出してるんだって。ずっと温かくて不思議な水なの。




