27、人間に寄生するスライム
「アルくん、外の音が聞こえないね」
私とアルくんにバリアみたいなものを張ってくれた後、海辺の集落の人化したスライム達は、オバサンの家の前にズラリと並んでるの。なんだかまるで、私達に見せないように壁を作っているみたい。
「防音バリアだと思う。ジュリちゃん、ゴソゴソ動かないで、海の方を見ていて」
「だって、スライム達が並んでるから、見えないんだもん。どうして、こんなことに……」
(アルくん?)
私がオバサンの家の方を見ようと頑張っていたら、アルくんが私を、きゅ〜って胸の中に抱きしめたよ。
「ジュリちゃんは、見ちゃダメだ」
「どうして? 倉庫にいるのは人間だったよ? ロックスさん以外は、みんな怪我人だよ」
「俺の物質スライムは、人間のステイタスを見る能力がある。俺には、自分より強いか弱いかを色分けで伝えてくるんだ。倉庫の中にいた人達の中に、その色分けのない人が二人いたんだよ」
「ん? 色分けがないとどうなるの?」
「人間じゃないということだよ」
「私が見たときは、みんな人間だったよ?」
「ジュリちゃんは、スライムか人間かの見分けができるんだな。確かに人間だ。じゃないと、この島には入れないんじゃないかな」
アルくんの話は、何だかおかしいの。この島には、大陸から来た人化したスライムも、たくさん入ってきたよ。
『ジュリちゃん、アルは言葉を選んでくれてるんだよ』
(キララ、全然わかんないよ)
『ジュリちゃんは、もうすぐ8歳になるから、ボクから話すね』
オープンしてないのにキララの声は、アルくんにも聞こえたみたい。小声で、わかったって言ったの。私のほっぺは、アルくんの胸にくっついてるから、アルくんがどんな顔をしてるか見えないけど。
『ジュリちゃん、アルが色分けがないと言った人間は、もう死んでるんだ。アルの物質スライムは、すべての人間の強さがわかるけど、死んだ人間の強さは見えないんだよ』
「えっ? 死んでる人? でも……」
『大陸にいるスライムには、人間の身体に寄生する種族もいるんだ。この島に入るときには、本体の核は、人間の胃の中でジッとしていたんだと思う。スライム神は、人間の身体の内部がダークスライム化していたら気付くけど、胃の中に潜んでいると食べ物との区別ができないからね』
(難しいお話なの)
「きせいって、何?」
『身体の中に棲みつくことだよ。人間に寄生するスライムは、人化できないんだ。だけど、その人間の臓器を喰って、体内に広がり、その身体を奪うことができる』
「ええっ? どうして、そんなことするの?」
『弾力のないスライムだから、飛び跳ねて移動することができないんだ。居たくない場所に入り込んでしまったときに、動物の身体を利用することを覚えたらしい。知能は低いんだけど、寄生した動物の脳を利用できるから、人間に寄生することを好むみたいだよ』
「ええっ……」
難しいお話だけど、大変なことなのは、わかったよ。でも、そんなスライムが身体に入ってた人は、気づかなかったのかな。
「ジュリちゃん、あのドロドロのスライムは、緑の帝国に、たくさんいるんだよ」
「アルくんは、知ってるの? ドロドロなの?」
「あぁ、見たこともある。土の上にいると、泥沼があるように見えるんだ。ズズズって身体を引きずって移動するから、段差があると上がれないし、通った場所には、体液が残るからすぐにわかる」
「そんなスライムもいるんだね。でも、なぜこの島に来たのかな。あっ、偶然、来ちゃったのかな」
「俺の物質スライムが言うには、戦乱が起こると、スライムに寄生される人間が増えるらしい。偶然ここに来たというより、俺を捜していた大陸の人化できるスライムが、持ち込んだ可能性が高いと思う」
「えーっ? スライムに寄生された人も、アルくんを狙ってるの?」
そう尋ねたとき、アルくんは、私の顔を自分の胸にギュッと押し当てて、腕で隠しちゃったよ。なんだか変な臭いがしてきたの。魚が腐ったみたいな臭いかも。
『ジュリちゃん、そのままジッとしてて。アルも怖いのを我慢してるからさ』
(何? なんだか臭いよ)
『ここのスライム達が、人間に寄生していたスライムを引っ張り出して燃やしたんだよ。寄生期間が長いと、スライムが食べない臓器は腐ってしまうんだ。今、この近くを通ったよ。人間は海に還すみたいだね』
お話が難しいの。キララは、わざと難しい言葉を使っているみたい。
アルくんの腕の中は、あたたかくて、なんだか眠くなってきちゃった。
◇◆◇◆◇
「ジュリを眠らせてくれたんだね。助かるよ」
「あぁ、さすがに、7歳の子には見せられないからな。青い髪の子は、しっかりしてるようだが、強いダメージを受けている」
人化したスライムは、ジュリに眠りに誘う魔法をかけ、村長の家へと運んできた。
「アルは、11歳だからね。まだ、ギフトは使えないみたいだけど、あの子の物質スライムは、アルをしっかり支えているから大丈夫だ。ん? アルは一緒じゃなかったのかい?」
「海岸にいる。青い髪の漁師が、あの子と話をしている」
「そうかい。アルは、初めてこの島に来た頃は、強いストレス状態で声が出なかったからね。やはり、まだ、この島に来る前のことを思い出すと、不安定になるようだ」
村長は、ジュリをベッドに寝かせ、靴を脱がせて布団を掛ける。すやすやと眠るジュリの顔を見て、ホッと息を吐いた。
「青の王国の王家の子らしいな。最後の王の孫だったか。あの漁師は、王家に仕えていた者なのだろう?」
「まぁ、そんな感じだね。あー、人間には言わないでおくれよ? 青い髪の漁師は、アルにさえ、まだ素性を隠しているんだからね」
「わかっている。草原から小さなスライムを連れて来ようか?」
「いや、ジュリは、何が起こったか理解できてないはずだ。大丈夫だと思うよ」
「そうか。では俺は人間の集落を偵察してこよう。ここに二体居たことを素早く発見してくれたから、今回は、他の人間への寄生は防げるだろう」
「頼むよ。一応、私の物質スライムが、4つの集落に連絡は入れたけどね。大型船が来るたびに、入り込んでくるね。しかし今回は、なんだか嫌な意図を感じるよ」
「そうだな。今回は数が多い。青い髪の子を捜し、殺させるためかもしれないな」
人化したスライムは、村長の家の外へ出ると、スッと姿を消した。




