18、アルくんには秘密があるみたい
それからしばらく経った風の強い日、オバサンは、漁師のお兄さんを、朝ごはんに呼んだよ。
「カール、この風では海は大荒れだね?」
「あぁ、漁は休みだな。黄の集落に行くのか?」
お兄さんは、オバサンにそう返事したのに、なぜか私の方を見たの。昨日もキララと地底湖に行ったから、水瓶には、たくさんの水が入ってるよ。
「昨日、頼んでいた物が出来たと、知らせが入ったからね。海岸は風が強いが、山に入れば気にならないだろう」
「わかった。ジュリちゃんの店の宣伝をするのか?」
「それは、黄の集落の人達の反応次第だね。黄の王国では、白い髪を持つ人間は災いを起こす呪術士だという噂もあるんだよ。だから、ちょっと怖がられるかもしれない」
「赤の王国も似たようなものだ。生まれたときに白い髪だと呪われていると言われるが、白い髪を見るだけで呪いが移るとも言われている。馬鹿げた噂話だよ」
(やっぱり怖がられるよね)
だけど、オバサンは私の髪をスカーフで隠そうとはしない。緑の集落で失敗したからかな。
「ジュリちゃんは、呪いなんて受けてないです。山の中の集落では、黄髪や赤髪の子も、ジュリちゃんを怖がらなかったです」
「アル、私達はもちろん、わかっているさ。ただ、赤の王国出身のロックスも、ジュリの髪を初めて見たとき、驚きで声が出なくなったらしい。王国では、奇妙な噂が広がっているからね」
「村長、ロックスさんはギフトをもらってない人なんですか? 物質スライムがいれば、そんな噂には惑わされないと思います」
「あぁ、ロックスは、ダークスライムに襲われて、この島で浄化中の冒険者だからね。カールのように物質スライムを失って療養中の人間なら、噂がデマだとわかるんだけどね」
(アルくんは大人なの)
アルくんは、オバサンと難しい話をしても、完璧に答えてる。山の中の集落では、あまり話したことはなかったけど、私が子供だから話さなかったのかな。
「俺、この島に来て、髪色から黒さが抜けてから気づいたんですけど、赤の王国での白い髪に関する噂は、酒場や市場などの人が集まる場所で、いつも必ず耳にしたんです」
ロックスさんが、難しい話に参加したよ。彼は、食後の赤くて甘酸っぱい果実を食べているとき、よくしゃべるの。
「やはり、そういうことか。意図的に噂が消えないように動いている者がいるんだろうな。俺も妙な連中が騒ぎを起こしたときに仲裁に入って、ダークスライムに襲われた。人化したダークスライムが、おかしな噂を広めているんじゃないか?」
(ダークスライムも人化するの?)
「カールが不覚をとったときの話だね? 槍の物質スライムは、スライムが相手ならかなり優位に立つはずだけどね」
「まぁ、俺にも油断があったのだと思う。それに、ダークスライムは突然、しかも大量に現れたからな。俺の物質スライムが自爆して、ダークスライムを消し飛ばさなければ、あの付近にいた多くの人間がダークスライムに飲み込まれただろうな」
(怖い話……)
お兄さんとオバサンの話を聞いていたロックスさんは、ちょっと震えてるの。さすらいの荒野でダークスライムに襲われたときのことを思い出しちゃったのかな。
「ロックスさんも、赤の王国で、ダークスライムに襲われたんですか」
アルくんが、素朴な質問をしたけど……ロックスさんは答えたくないかも。
「いや、俺は……立ち入りが禁じられている場所で、ダークスライムと遭遇したんだ。俺の場合は、自業自得だな」
ロックスさんは、少し辛そうに見えるの。すっごく後悔してるみたい。
「さすらいの荒野ですか」
アルくんがそう尋ねると、ロックスさんはコクリと頷いたよ。ロックスさんもイーグルさんも、真っ黒な髪色になってたもんね。
「俺は、さすらいの荒野のことも調べたいんです。この島には、緑の帝国、黄の王国、赤の王国の集落があるんですよね? もうひとつは、さすらいの荒野にいた人の集落ですか?」
アルくんの質問に、ロックスさんは答えられなくなったみたい。そういえば、海辺の集落以外に、4つの集落があるって言ってたよね。
「アル、もうひとつは、小国出身者が集まる集落だ。こないだ行った緑の集落の奥にあるよ。さすらいの荒野のことを知りたい気持ちはわかるが、祠の爺さんと話すまでは、目立つ行動はしない方がいい」
「わかりました。カールさんがそうおっしゃるのは、俺の髪色が特殊だからですよね」
「あぁ、アルは、この島に来る前の記憶はあるんだったな?」
「はい、俺がここに来たのは7歳のときですから、だいたいは覚えています。俺は、青の王国を復興するために、この島に隠されたようです」
(青の王国の復興?)
「うん? アル、おまえ、今いくつだ? 青の王国が滅んだのは、俺が生まれた頃だと思うが」
漁師のお兄さんは、今、たぶん22歳だから、22年前ってことかな?
「俺は、11歳です。俺は、青の王国の……」
「あー、もう、いつまで喋っているんだい? さっさと出掛けないと、遅くなっちまうよ」
オバサンは、アルくんの話を途中で止めたの。きっと、秘密の話なのね。
「そうだな。アル、自分の出生のことは、簡単に話すんじゃねぇぞ。この島にいても安全だとは限らない。海辺の集落は、まぁ、大丈夫だが、他の集落の人間が魚をもらいに来ることも多いからな」
そういえば、さっき、知らない人が海岸にいたの。私は頭を見ればスライムか人間かわかるけど、人間だったよ。
「わかりました。すみません」
アルくんが話そうとした秘密が気になるけど、たぶん私も聞いちゃいけないことだと思うよ。
「じゃあ、黄の集落へ行くよ。アルには道を覚えてもらいたいから、歩いて行こうかね」
「村長、歩かない方法もあるんですか?」
アルくんが素朴な質問をしたの。オバサンが、私の方を見てる。私から教えてあげる方がいいのかな。
「アルくん、キララは転移魔法が使えるんだよ。帰りは、キララがここまで運んでくれるの」
「えっ? あ、ジュリちゃんの物質スライムか。俺達まで運べるのか」
「うん、キララは力持ちだから、大丈夫だよ」
アルくんは、目をぱちぱちしてるの。
「さぁ、出発するよ。草原から、左の方に進むよ。ちょっと大きなスライムもいるが、気にしなくていいからね」
(左の方?)
緑の集落とは反対に進むみたい。左の方には行ったことないから、ちょっと楽しみ。




