16、海辺の集落で出店!
海辺の集落に戻ると、キララはオバサンの家の前に移動して、パラソルがついた屋台のワゴンに変わったの。
『ジュリちゃん、水の販売用のコップを出したよ。まずはジュリちゃんが飲んでみて』
白い水瓶の横に、たくさんのガラスのコップが現れたよ。
私は、水瓶の蛇口をひねって、コップに水を入れてみたの。水が勢いよく出てくるから、こぼれそうになって、慌てて蛇口を閉めたよ。
「キララ、売り物なのに、私が飲んでいいの?」
『うん! 店主のジュリちゃんが売り物のことを知っておかないと、お客さんから質問されたら困るからね』
「そっか、わかった」
私は、コップに入った水を飲んでみたの。飲み始めると止まらなくなって、一気に飲み干してしまったよ。
「冷たくて美味しい〜」
『いつもの泉の水との違いはわかる?』
「ん? いつもの水より冷たくて、飲み始めると一気に飲んじゃったけど、味は同じだと思うよ」
『そっか。ジュリちゃんには穢れがないから、あまりわからないかな。ロックスなら違いがわかるかも』
キララが呼んだのか、偶然なのかはわからないけど、海岸からロックスさんがやってきたよ。人化したスライムも何人か近寄ってきたの。
「ジュリちゃん、このワゴンは、何なんだ? すごく良い匂いがするけど」
「キララだよ。海辺の集落で出店することにしたの。良い匂いは、売り物のお花だよ。あっ、ロックスさん、ちょっと飲んでみて」
私は、コップに水を入れて、ロックスさんに渡したの。
「ん? 水も売るのか? 俺、お金はほとんど持ってないんだけどな」
「お試しだから、気にしなくていいよ。冷たくて美味しいよ」
ロックスさんは、コップに口をつけたの。すると、やっぱり私と同じで、途中で止まらなくて一気に飲んでる。
「これは、回復薬なのか? 身体を何かが駆け巡っていったぞ。すごいな! 疲れが一気に吹き飛んだよ」
「いつもの泉の源の水なんだって。スライム神が浄化してる湖で、キララが汲んだの」
「ええっ? この島の神様が浄化した水なのか。いつもの泉の水も、初めて飲んだときは身体が軽くなったと感じたが、なるほど、そういうことか。だから、あの泉には、人間が足を踏み入れてはいけないと言われてるんだな」
(ん? 毎日行ってるよ?)
『ジュリちゃんには違いがわからなくても、ほとんどの人間は驚くはずだよ。この花の匂いが漂う場所で飲むと、より一層、人間にはよく効く回復薬になるからね』
キララの声が嬉しそうなの。今の念話は、ロックスさんには聞こえてないみたい。私だけに話したのかな。
「ロックスさん、この水って売れるかな?」
「あぁ、大陸の冒険者が集まるギルドの近くに店を出せば、すぐに大勢のお客さんが集まるよ。だけど、奴らは乱暴だからな。ジュリちゃんが危険かもしれない」
「まだ大陸には行かないよ。ここで店をしてたら、島に住んでいる人が来るかな?」
「そうだな。ただ、ここまで来るのは大変だから、水筒に入れて売れば、よく売れるんじゃないか?」
(あっ、そっか)
一番近い緑の集落に行くのも、ちょっと歩き疲れてしまうくらい遠いもんね。
「でも、このお花の匂いのある場所で飲んでもらう方が、たくさん元気になるみたいなの。あっ! 私達が売りに行けば良いのかな? 難しいかな」
私の髪色は、緑の集落の人達もヒソヒソと話してたし、他の集落の人は、呪われてるって思うだろうから、きっと怖がるよね。
「おやおや、騒がしいと思ったら、ここで店をするのかい? もっと広い場所の方が良いんじゃないかい」
オバサンが家の中から出てきたの。
「キララが、ここがいいって。あっ、村長さんも飲んでみて」
コップに水を入れて、オバサンに渡したの。すると、オバサンも、途中で止まらなくて一気に飲み干したよ。
「ふぅ〜、これは山の中じゃなくて、地底湖の水だね? スライム神が浄化した水が溜まっているんだよ。あちこちの泉に湧き出している源だ。泉の水には、山が蓄えた水が混じるから、ここまで純度の高い精製水にはならないんだよ」
(難しいお話なの)
オバサンの話を聞いて、ロックスさんが驚いた顔をして、ふむふむと頷いてるよ。
「暗い湖だったけど、岩壁はキラキラしてたよ」
「地底湖には、誰も入れないはずなんだけどね。キララは、透過魔法も使うのかい?」
「ん? 何の魔法かわかんないけど、キララは、壁をすり抜けることができるんだよ」
「それを透過魔法というんだよ。ジュリの物質スライムは、とても珍しい能力を持っているね。転移魔法も使うし、珍しい物の採取には最適な能力だよ」
オバサンはそう言いつつ、ワゴンに並べたお花をジッと見てるの。
「キララは、仕入れだって言ってるよ。村長さん、お花は高い場所にある草原で摘んだよ。薬になるんだって」
「確かに、店だから仕入れだね。その花は、私も若い頃に摘みに行ったことがあるよ。この海辺の集落からだと、行くだけで丸一日かかる。人間には、匂いだけで様々な回復効果があるのさ。スライムは吸収しないと効かないけどね」
「このお花も売れるかな?」
「あぁ、スライム達は買うだろうね。ただ、スライム達はお金を持たない個体が多いから、物々交換になるかもしれないが」
「ぶつぶつこうかん?」
「もう、スライム達はそのつもりみたいだよ。キララが値段の交渉をしているんじゃないかい?」
ワゴンの方を見てみると、人化したスライム達が、すっごくたくさん集まっていたの。
『ジュリちゃん、お花が欲しいスライム達に、売ってあげて。お金がない人は、物で支払いをするよ』
今の声は、オバサンやロックスさんにも聞こえたみたい。
「うん。でも、値段がわからないよ」
『それはボクに任せて! ジュリちゃんが、あんな高い場所で頑張って摘んでくれたから、適正価格で売るからね』
キララは、ときどき難しい言葉を使うの。
「私は、お花を渡せばいいかな?」
『うん、それでいいよ。じゃあ、これから夢光花を販売するよ! 欲しい人は、村長の家の前の、ボクとジュリちゃんのお店に来てね』
(むこうか?)
キララがそう念話すると、集まっていた人化したスライム達は、すっごく嬉しそうな顔をしたよ。まだ気づいてなかったスライム達も、こっちに歩いてくる。
私が花束を持って、人化したスライム達に、欲しいと言われた色の花を渡していくと、ワゴンには物々交換の品物が置かれていったよ。




