【後日談】お兄さんが移住してくるよ
今回で最終話です。
いつもの2倍くらいの量になっています。
あっという間に、2年半ほどの時が流れた。
私は少し前に12歳になったよ。幼さが消えていくにつれて、前世の感覚が強くなってきた。生きてる時間を合わせるとアラサーってことかも。
キララとネイルは、私の身体の成長と共に、人の姿が成長している。キララは、ずっと私と同じくらいの背丈で、ネイルはキララより少し低いかな?
クイーンホワイトさんの分身のふわしろスライムさんは、全く変わらない。相変わらず2〜3歳の姿で、海辺の集落に来た人達に癒やしを与えるアイドルのような存在。
あれから、いろいろなことがあった。
アルくんが頑張っている青の王国の再建は、まだ途中だけど、スライム神をまつる神殿のある宿場町は、今では、住人も増えて、大きく発展している。
海辺の集落にいた青い髪の漁師のオジサンや、山の中の集落にいたピードくんとサフィさんも、アルくんの国に移住したよ。
大陸全土に広がっていたダークスライムは、個体数はあまり変わってないみたいだけど、個々が小さくなったことで、整備された街道や人間の国には、あまり現れなくなったらしい。
ジャックの役割のグレー髪のオジサンが、頑張ってたからね。でもまだ、20体以上は、大きな個体がいるらしいけど。
私は、キララの転移魔法で、月に2回くらいのペースで大陸に行っている。最初は、髪色を変えたい人は2人しか来てなかったけど、2回目からはどんどん増えて、今では行くたびに、ネイルが、50人以上のヘアマニキュアをしている。
赤い髪の女の子は、キララに会えるから、毎回必ず誰かを連れて来てる。ポウロくんと母を連れて来ることもあるけど、赤の王国に住む普通の住人も、連れて来るようになった。
大陸の人化したスライムは、最近はおとなしい。また、大国同士の戦乱も、大きなものは起こってない。だけど、これは、この半年くらいのこと。それまでは、何度もいろいろな事件が起こったみたい。
大陸全体が静かになってきたのは、半年ちょっと前に、キララとネイルが怒ったからだと思う。緑の帝国は、青の王国の宿場町を潰そうと、それまでにも何度も、軍隊を率いてきたらしいけど。
ネイルは、キララと手を繋ぐと、大陸のどこにでも、魔法攻撃ができるようになったの。びっくりだよね。
キララは大陸全体をサーチできる。キララが見たものは、ネイルも共有できるの。またキララは、ネイルの魔法を転移することができるようになった。だから、ネイルが発動する魔法を、キララが別の場所に転移することで、遠く離れていても魔法攻撃ができるんだって。
半年ちょっと前に、青の王国の宿場町を、緑の帝国と緑色の髪の人化したスライムが襲撃して来たとき、私達も神殿にいたの。
怒ったネイルは、宿場町の門に迫っていた緑色の髪の人化したスライムに、火の雨を降らせたの。緑の帝国の人間は殺さないように、キングシルバーの盾も展開していたみたい。
だけど、そのときの光景が、神の怒りだと噂になったらしく、緑の帝国の人達は、スライム神をまつる神殿のある宿場町には、手を出さなくなったらしいよ。
さらにネイルは、私達が大陸にいるときに、人化したスライム達が悪さをしていると、キララと手を繋いで、青の王国から離れた場所にいる人化したスライムを攻撃するようになった。
ネイルは弱点攻撃を正確にするから、人間の支配を諦めない人化したスライム達は、ネイルを恐れて、私達が大陸に行くと、すぐに隠れるようになったんだって。
赤い髪の女の子も、人間を支配しようとする人化したスライム達を見つけると、徹底的に潰していたから、そういう支配欲を持つスライムは減っていったみたい。
キララが、賢い子のおかげだって、本人がいる前で何度も話していたから、赤い髪の女の子は、より一層やる気を出したんだと思うよ。
◇◇◇
「ジュリ、大型船が着いたよ。早く起きな」
(早くない?)
まだ、外は薄暗い。オバサンは数日前からずっと緊張してるみたい。
「村長さん、まだ夜明け前だよ。小島からここには、明るくなってからじゃないと来られないよ」
「すぐに明るくなるよ。漁師はもう起きて、朝ごはんを食べてるよ。あー、ふわしろスライムには、靴を履かせておくれよ。掃除をする暇はないからね」
「はーい、わかったの」
ここしばらくは、大陸の青の王国の宿場町に、母や弟が来ていない。また、ひと月ほど前から、お兄さんの姿も見なくなった。
母の体力が戻り、長い船旅にも耐えられるようになったことで、この島に向かっていると聞いた。手紙などは届いてないから、おそらくサプライズのつもりだと思うんだけど、スライムが統べる世界で、そんな隠し事はできないんだよね。
朝ごはんを食べて、泉に水汲みに行って、白い髪の小さな女の子が、ウトウトと昼寝を始めた頃に、小島からの小舟が、海辺の集落にある桟橋に到着し始めた。
最近は、頻繁に大型船が来ていて、大陸とスライム神の島を行き来する人間も増えた。ダークスライムに遭遇して黒い髪になった人は、すぐにスライム神の島へ行けばいいという噂が広まったためだ。オバサンは、ほぼ毎日のように『脱色』をしてる。
「ジュリちゃん、久しぶりだね」
「わっ、お兄さん?」
騎士のような服を着たお兄さんが、海辺の集落にやってきた。その姿を見て、人化したスライム達も驚いた顔をしてる。
「あぁ、この服か。一応、正装しておく方がいいと思ったんだ。村長は家にいるかな?」
「うん、ずっと緊張してるみたい。お兄さんは、母と弟の護衛で来たんじゃないの?」
お兄さんと同じ小舟で来た人達の中には、二人の姿はない。まだ小島にいるのかな?
「リーネル様とポウロ様は、まだ小島にある宿屋の食堂にいらっしゃるよ。荷物を下ろしてすぐに乗船する商人を優先しているからな」
(なるほど)
「最近は、頻繁に大型船が来てるけど、確かに商人は忙しそうだもんね。頻繁に来るから、他の集落の人達は、小島に行かなくなってる」
「そうらしいな。小島に停泊するのも半日以内という決まりができたから、商人達は必死だぜ。人間達がバタバタしているのも、スライム達には面白く見えているらしいけどな」
「スライムから見れば、人間は愛玩動物だからね。でも、お兄さんが正装してるのって……」
(あっ、オバサンが出てきた)
「カールかい? 随分と雰囲気が違うじゃないか」
「村長、お久しぶりですね。俺も、もう27歳だからな」
「いきなり歳の話はやめておくれ。それより、ジュリには話したのかい? 大陸の協定の話は」
(協定?)
「いや、まだ話してないよ。リーネル様とポウロ様は、まだ小島の宿屋だ。村長がこの島の人間の責任者でいいんだよな?」
「私が一番古いからね。仕方ないだろ」
もしかしてオバサンが緊張してたのって、大陸の協定のことなのかな。
しばらくすると、見慣れない小舟が桟橋に到着した。大型船に積んできたのかも。
「あっ、来たみたいだな」
小舟から降りてきたのは、真紅の髪の母と、白い髪に戻ってるポウロくん、そして数人の赤の王国の兵だった。
ゆっくりと桟橋を渡ってくる。
(あっ、行っちゃった)
私達の横をすり抜けて、白い髪の小さな女の子が砂浜を走っていく。しかも、オバサンが嫌がる裸足だよ。さっき靴を履かせたのに、すぐに脱いじゃうのよね。
「ポウロ〜! あそびにきたよ〜」
(違う、逆だよ)
桟橋の上を緊張した表情で歩いていたポウロくんは、白い髪の小さな女の子の顔を見て、ふわっと笑った。
「ふわしろスライム、遊びに来たのは俺の方だぞ?」
「ん〜? わかんない。あそぼっ」
「ふふっ、ふわしろスライムさん、こんにちは」
「リーネルも、あそぶ?」
「まぁっ、仲間に入れてくれて嬉しいわ。その前に、村長さんとお話があるの」
「ふぅん、じゃあ、ポウロがさきにあそぶ?」
「俺も、村長さんと話があるんだぞ」
「むぅ〜、ジュリエッタぁ〜、ポウロがいじわるだよ〜」
私の方に戻って来て、膨れっ面をする白い髪の小さな女の子。すぐに拗ねるけど、すぐに忘れるのが、この子の特技だよね。ポウロくんは、慌ててるけど。
「リーネルさん、ポウロさん、初めまして。この集落の村長をしています。名は事情があって言わないことにしているんですよ。中へどうぞ」
オバサンは、緊張した表情で、母とポウロくんを、家の隣に建てた小屋へと案内してる。この小屋は、商人の商談にも使っているみたい。
「リーネルは、すなはまで、ころばないようにねっ。ポウロも、ころばないでねっ」
(もう機嫌が直ってる)
「ええ、ありがとう。歩きやすい靴を履いてきたから大丈夫よ。ポウロは、砂浜は初めてかしら」
母がそう言うと、白い髪の小さな女の子は、ポウロくんの手を掴んだ。ポウロくんの頬が少し赤い。照れる年齢になったのかな。
「村長さん、こちらが大陸の協定書になります。目を通していただき、これで大丈夫なようでしたら、スライム神にお渡しください」
小屋に入ると、母がオバサンに、書類を渡した。オバサンは、サーっと目を通すと軽く頷き、私に手渡してきた。
「ジュリも、目を通しておくれ」
「うん、わかった」
その書類には、この島にある無統治状態の集落のことが書かれてあった。
この島と大陸との行き来が活発になってきたことで、あの大きな集落の中に、大陸から来た人間を管理するエリアを作りたいみたい。いわゆる役所のようなものね。
そのエリアは、人が定期的に入れ替わるみたいだけど、大陸の王族を中心とした人間が駐在するんだって。確かに、王族がいれば、みんな従うよね。
(えっ? お兄さんが?)
新たに作るエリアの長を、赤の王国の英雄カールが務めると書いてある。また、立ち上げから数年間は、赤の王国の前王妃リーネルと前国王の令息ポウロが駐在するという記載もあり、大国の連名のサインらしきものが書かれている。
「お兄さんが、役所の所長さんで、お母様とポウロくんが、初代の駐在員なの?」
私が変な言い方をしたためか、みんなが首を傾げてる。そっか、役所や駐在員だなんて言葉は使わないよね。
「それが、ジュリの世界での用語なんだね。カールのことを所長と呼べば、村長との区別がわかりやすいね」
「あー、うん。そうだね」
「ジュリエッタ、私達は、しばらくはこの島でお世話になるわ。構わないかしら?」
「ええ、喜んで。ふわしろスライムさんも、嬉しそうだよ。あの子は、人間が大好きだから」
白い髪の小さな女の子は小屋の外にいるから、話は理解してないみたいだけど、ニコニコしてる。
「そう、良かったわ。それから、カール。貴方が、この役割を受けることにした理由を聞かせてくれるかしら? スライム神の島で話すと、約束していたわよね?」
母がそう促すと、お兄さんは緊張した表情をした。お兄さんは、所長の役割を立候補したってことみたい。アルくんの国が、だいぶ大きくなってきたから、次の仕事が欲しかったのかな。
「それは、その……」
お兄さんは、話しにくそう。だけど、母もオバサンも、お兄さんが何を言いたいのか、わかってるみたい。オバサンは、すっごくニヤニヤしてる?
「カール、少し前に、大陸で統一した決まりがあったね。12歳を成人にするんだったかい? ジュリは、12歳になったよ」
(私の年齢が何?)
私が首を傾げていると、お兄さんは、私をチラッと見た後、母の顔を真っ直ぐに見た。
「俺が所長の役割を引き受けたのは、ジュリエッタ様……いや、ジュリちゃんが居るからです。俺がずっと伴侶を持つことを断っていたのも、その……」
(ええっ!?)
オバサンが、お兄さんの背中をバシッと叩いた。
「カール、しっかりしな! そんなんじゃ、ジュリに振り向いてもらえないよ。まぁ、少しずつ頑張りな」
「あぁ、わかってる……」
(それが理由? ええっ!?)
お兄さんは、私の方は見ない。私はそんなことは考えたこともなかったから、すっごく驚いて……何も言えないよ。
「まずは、その集落の整備からね。時間はたくさんあるわ。ジュリエッタも、まだよくわかってないみたいね」
(いや、わかったよ)
「ジュリは、カールのことをお兄さんって呼んでるからね。まずは、友達になることを目指したらどうだい?」
母とオバサンに同時に見つめられて、お兄さんはタジタジになってるみたい。
「おはなしは、まだぁ? おなかへった〜」
白い髪の小さな女の子が、小屋の中に入ってきた。綺麗な床には、小さな足跡がペタペタとついてる。オバサンは、深いため息を吐いた。
「じゃあ、赤の集落に、食べに行こうか」
「やだぁ、みどりがいい〜」
「は? 緑の集落の食堂かい? ふわしろスライムは、ほとんどの料理や汁を飛ばすじゃないか」
そう。なぜか今、白い髪の小さな女の子は、緑の集落の飲茶にハマっている。フォークで突き刺すのが難しいからかも。
「村長さん、たぶんポウロくんは、緑の集落の料理を食べたことがないから、楽しめるかも。それに緑の集落は、どんな髪色にも偏見がないからね」
「それもそうだね。緑の集落に行くことにしようか」
「キララが運ぶね。護衛の人も行くよね?」
キララは、人の姿で現れた。最近は、触れてなくても、この人数なら余裕で転移できる。だけど、白い髪の小さな女の子は、置いていかれたくないから、キララの手をしっかり握ってる。
「あぁ、みんなで行こうか。この島では、生まれも育ちも、ほとんど関係ないからね」
大陸との違いを知るのには、一番良い場所かもしれない。緑の集落は、緑の帝国とは全然違うもの。
「じゃあ、食べ放題の食堂に行くよ〜」
私達は、キララの転移魔法の光に包まれて、緑の集落へと移動した。ポウロくんが喜んでくれたら嬉しいな。きっと賑やかに……ハチャメチャになりそうだけど。
皆様、後日談も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。ふんわりした雰囲気のまま、おしまいにしました。
いつも読みに来ていただき、ありがとうございました!
あっ、ブクマ枠に余裕がありましたら、つけていただいていたブックマークは、そのままにしておいてもらえたら嬉しいです。減ると寂しくなるので……。
次作は、簡易プロットは完成済みで、少し書き始めています。ハイファンタジージャンルで男主人公です。これまでにあまり書いてなかった、追放から始まる外れスキル主人公の話になっています。始まりの設定は数年前のテンプレですが、主人公は陰キャで優しい性格なので、全体の雰囲気は違う感じになると思います。
もうしばらく書き溜めたいので、来月から、遅くとも中旬には投稿を始める予定です。よかったら、また覗いてみてください。
後書きも最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
♪ アリ(´・ω・)(´_ _)ガト♪




