第百五十二話 奇策
暗黒大陸某所。
グラムフィルとアイアンヘンジの都市間を結ぶ道とも言えぬ道。
ろくに整備する者もいないのであろう。所々で方向を示す薄汚れた文字のかすれた立て札や、朽ちた村のなれの果てらしき石と木材の山。
それらをを横目に繰腹慶次はよろよろと、まるで病人が如き緩慢な動きで、いずことも知れず歩みを進めていた。
「ひぃ、ひぃ……疲れた。もう動けねぇ、死ぬ……」
だがそんな彼の努力もむなしく――いや、彼にしてはよく頑張ったと言うべきであろうか?
とかく遂に限界に達したのか、繰腹はその場に倒れ込むように座ると、言外にもう動けないと訴えかけるよう恨めしげな視線を向ける。
その先にいるのはザンガイと呼ばれる少女。繰腹が出会った由来不明の存在で、失ったエラキノの後釜に座るかのように彼と共に行動を共にしている謎多き人物である。
そんな謎多き彼女だったが、少なくとも分かることが一つだけあった。
すなわち目の前で文句を垂れる男の数倍、数十倍、あるいはそれ以上。彼女の気力と体力は底をついていないという悲しき事実である。
「なーにへこたれてんの? その程度でプレイヤーが死ぬわけないじゃん。普通の人間とは違うんだよ? ほら、シャキシャキする!」
疲れを知らぬザンガイは何が楽しいのかケラケラと笑いながら発破をかけていく。だが反面繰腹はすでに満身創痍だ。
全身から汗が噴き出し、身体の節々は痛みを訴えかけている。疲労が溜まりきったのか筋肉は労働を拒否し、喉はカラカラに渇き水分の補給を訴えかけてくる。
それもそのはず、飲まず食わずでただただひたすらに歩かされているのだ。
イラ=タクトへの復讐。その過程として二人の聖女との合流。
気炎を上げて今後の目標を大言壮語してからこの時まで、繰腹はずっと歩きっぱなしだった。
数日前の勢いはどこへやら、すでに彼の心は折れかけていた。
唯一変わらず行動にいそしむのはよく回るその口のみであろう。だがそれですら……。
「うう、そうは言うがよぉエラキ――ぐぇ!」
ザンガイによって止められた。酷く頭が痛い。おそらくゲンコツでも食らったのであろう。
由来不明の少女の表情は酷く不機嫌であった。先程までカラカラと笑っていたエラキノに似たこの少女にとって何が気に食わなかったのか。
繰腹はハッと意識の底にザンガイに対する重要な注意事項が存在していた事を思い出した。
「いい加減コレのことをエラキノって言うのやめろって言ってるじゃん。分からないマスターだなぁ」
そう、そうなのだ。
ザンガイはエラキノと自分を同一視されることを酷く嫌う。確かに他人が自分に対して自分とは違う誰かを見いだすという行為は酷く不快感を伴うだろう。
繰腹とて自分が同じ状況に陥った事を考えれば文句の一つも言いたくなる。むしろこの程度の文句ですんでいることに感謝するべきだろう。
とは言え、繰腹だけが全面的に悪いと言いがたい事情もある。
彼がザンガイに向ける恨めしげな視線には、言外にその様な意図が含まれていた。
「だってよぉ、見た目がまんまそうなんだぜ? 勘違いするのも仕方ねぇだろ?」
ザンガイは名前が示すとおりエラキノの残骸である。本人は中身が違うと言って憚らないが、人とは視覚にその情報の多くを依存する生き物である。
繰腹が彼女を見る度にかつていた愛すべき少女を思い出して情けなく嘆きの言葉を漏らすのも致し方ないことだろう。
その事をザンガイ自身も理解していたのだろう。フムと小さく声を漏らした彼女は軽く顎を触りながら明後日の方向を向きウンウンと頷く。
「なるほど。確かにそう言われてみればそうかな! じゃあコレでどうだ! 《美容》」
=Message=============
ザンガイの《美容》判定
判定:確定成功
―――――――――――――――――
繰腹の目が見開かれる。変化は劇的だった。
彼女がTRPGの技能を使った瞬間、まるで魔法がかかったかのようにザンガイの服装や髪色が変化していく。
エラキノを象徴する色が血の色を連想させる深い赤色だとすると、ザンガイのソレは深海を想起させる深い青色だ。
「おっ、おお!?」
幻想的なその光景と色。ある種の奇跡にも似たその光景を目にしながら、繰腹の感想はただ「ゲームの2Pキャラみたいだな」とひどく知に乏しいものであった。
「なんで色が変わったんだ? 髪型も……」
「まぁ、本当は服装とかも変えたかったんだけど、コレはあまりその辺りのセンス無いからな。ってかそこからかよ……」
自らの新たな色に機嫌良くくるくる回りながら己の色彩を確認していたザンガイ。繰腹は彼女に説明されて要約その意図を理解するが、なるほど確かにこれだと分かりやすいと得心する。
繰り返し注意と仕置きを受けていたエラキノとの誤認もいくらかマシになるだろう。
両手を広げてどうだ? と言わんばかりに自分を誇示してくるザンガイ。気の利いた男ならここで浮いた台詞の一つでも言ってみせるだろう。
だが彼は繰腹慶次。ギャンブル好きで女がいないと何もできない……女がいても何もできない情けない敗北者だ。
彼はザンガイの期待する言葉とはまったく別の事を考えていた。
「うーん? ザンガイ。そういやお前っていったい何者なんだ?」
「言わなかったっけ? ザンガイだって。それ以上でも、それ以下でも無いよ」
ザンガイが少しばかり顔を顰めたのは果たしてどういう意図か?
無論それを一切理解していない繰腹は彼女の言葉だけを反芻し吟味する。
「むむむぅ?」
そもそもだ……。
目の前のザンガイと自らを呼ぶ少女は最初から謎が多すぎた。
そもそも論として今の彼の境遇は謎が多すぎる。
この世界にやってきた仕組みも謎、エラキノが自分に付き従ってくれていた理由も謎。自分に接触した神という存在が自分を選んだ理由も謎。
だがその意図なら……すでにおぼろげな記憶になりつつあるが、いつかの時に出会った《《ダイスの神》》との会話にて判明している。
――自分は何らかのゲームに巻き込まれ、その駒として存在している。
TRPGの存在も、かつて仲間として理想を追い求めたエラキノや二人の聖女も。彼の楽観的な理想と夢と戦略を思いもよらぬ手段で打ち砕いて見せたあのイラ=タクトでさえも……。
この世界を舞台に神々によって行われているゲームという仕組みの中に存在しており、その仕組みを用いれば容易に説明できた。
だがザンガイは違う。彼女はそのどれとも違う理論で動いている。
繰腹は流されやすく調子に乗りやすい人間だと自分を理解している。
その結果が今の状況だし、今の苦境であり、目の前のザンガイではあるが……。
彼はなんとも言えない、自分でもどう表現して良いか分からない奇妙な感覚に苛まれていた。
「は? なにキモい顔で悩んでいるんだよ。そんな暇があったら動く動く!」
「て、てめぇ! 俺だってなぁ、いろいろ考えているんだよ!」
もっとも、繰腹のその悩みもザンガイにとっては知らぬ存ぜぬと言ったところだろう。
彼女は気分良く繰腹を罵倒するとまずは一歩を踏み出すことを求めた。
大切なのは踏み出すこと、決断すること、意思を現実に示すこと。
またしても、繰腹は誰かの意思によってけむに巻かれる。
だが少なくともザンガイは無知なる繰腹に対して踏み出すべき一歩を提示することだけは怠っていなかったようだ。
「まっ! そんなややこしい話はどうだっていいじゃん? 今はあの二人の聖女を助けるのが先でしょ? ホラ、さっさと調べる!」
「調べるってったってどうやるんよ? もうGMの能力は封印されているだろ? 神さんに」
「シナリオプレイヤーとしての能力は残っているよ。サイコロならいくらでも振れる。試してみな。《調査》だ」
確かに……。繰腹は自らの勘違いにようやく気づく。
イラ=タクトとのあの忘れたくても忘れられぬ決戦の際、繰腹はその万能たるゲームマスターの権能を剥奪された。
憎きイラ=タクトはいろいろと言葉を並べ立ていたが、簡単に説明のするならそれは『繰腹がGMとして不適格』という指摘に他ならない。
TRPGのシステムはそれを採用し、結果GMの能力は初めて自分に与えられた時の様にいつにあっさりと離れていった。
だがそれはあくまでGMの権能――《裁定者》の能力に過ぎない。彼はTRPGのプレイヤーであり、ゲームマスターだ。GMとして裁定する能力が剥奪されたとしても、プレイヤーとしての権能は残っている。
すなわちサイコロを振って出目の通りに現象を起こすという力だ。
(ってかなんでコイツがそんな事を詳しく知ってるんだ?)
だが繰腹は訝しむ。
なぜザンガイが自分の事をここまで詳しく知っているのだろうか? エラキノの残骸であるのなら当然とも言えよう。しかしながら奇妙にも思える。
とは言え頭を捻って答えの出ない問題に延々苦しむよりはやるべき事があった。
サイコロを振ることである。
「んー? よし! 《調査》! ソアリーナの場所を調べる!」
=Message=============
繰腹慶次の《調査》判定
1d100=【54】 判定:失敗
聖女ソアリーナの場所は不明です
―――――――――――――――――
「あー、失敗だ。わりぃ……」
落胆のため息は思ったよりも大きかった。
ザンガイに明らかに誘導された行動ではあったが、存外自分は期待していたらしい。
繰腹は申し訳なさそうにザンガイを見やる。誰かや何かのせいにせずぶっきらぼうながらも謝罪ができたのは彼が成長できている証だ。
だが返ってきたものは呆れた表情。そして何より意外とも思える言葉だった。
「何落ち込んでるんだよ。成功するまで振りなよ?」
「……へ? せいこう?」
自分でも馬鹿な言葉だなと繰腹は思った。馬鹿な言葉な上に、表情もさらに馬鹿げた格好悪いものなのだろう。
「はぁ……やっぱそこからか……ちょっとこれはしっかりとレクチャーが必要だな」
思考が追いついていない繰腹に追い打ちのようにかけられた言葉に乗った感情は、落胆というよりも決意が強い。
小学生の頃、いつまで経っても九九が覚えられない自分に根気強く付き合ってくれていた教師の事をなぜか思い出した。
「いいか。お前はいきなりGM能力なんてチート能力与えられちゃったから勘違いしちゃっているかも知れないけど、本来の能力の使い方ってのはそういう表面的なもんじゃないんだよ」
「…………」
相づちをうつでもなく、疑問を挟むでもなく、不満をこぼすでもなく。
繰腹はただその言葉を真剣に聞いていた。
きっと勝利への道はここにある。いや、ここにしかない。
「振れ、何度でも。それを非難する奴も否定する奴もここにはいない。お前が振りたいと思うだけ、サイコロは振れる。もちろん望む答えが見つかるまで、あらゆるダイス判定は許容される」
静かに頷く。そして思いっきり、肺が痛くなるほどに空気を吸い込み。
「《調査》! 《調査》! 《調査》!」
=Message=============
繰腹慶次の《調査》判定
1d100=【68】 判定:失敗
―――――――――――――――――
=Message=============
繰腹慶次の《調査》判定
1d100=【17】 判定:失敗
―――――――――――――――――
=Message=============
繰腹慶次の《調査》判定
1d100=【74】 判定:失敗
―――――――――――――――――
その必要が無いほどに――否、今の自分にはその必要があるとばかりに強く叫ぶ。
何度も、何度でも。勝てるまで……。
「《調査》! 《調査》!! 《調査》!!!」
=Message=============
繰腹慶次の《調査》判定
1d100=【43】 判定:失敗
―――――――――――――――――
=Message=============
繰腹慶次の《調査》判定
1d100=【87】 判定:失敗
―――――――――――――――――
=Message=============
繰腹慶次の《調査》判定
1d100=【50】 判定:失敗
―――――――――――――――――
「《調査》!!!!――あっ!」
そして、勝利への道は輝かんばかりに照らし出された。
=Message=============
繰腹慶次の《調査》判定
1d100=【100】 判定:クリティカル!
聖女ソアリーナの場所が判明しました
―――――――――――――――――
「マジかよ……」
一瞬不正では? と思った。
望む出目が出るまでダイスを振るなど無法にもほどがある。当たるまでスロットを回せば当たる。そんな当たり前の事をさも必勝の方法と言わんばかりに披露しては問題がないのかと。
だが同時に繰腹は気づく。
文句を言う存在は、この場に誰もいないことに。
繰腹はザンガイを見る。
彼女の視線は、まるで彼の魂まで見定めるかのように、彼をじっと見つめていた。
「いいか、大事な点はどうやって合法的にイカサマするか、だ。ルールの穴をつけ、規範を無視しろ、常識を覆せ、約束を反故にしろ。相手が嫌がる選択肢をとり続けろ」
ザンガイは楽しそうに嗤う。ただただ嗤う。
それはまるで自分こそがこのゲームの真の遊戯者で、自分こそがこのゲームの真のGMだとでも言わんばかりの傲慢さだった。
「それがこの盤上遊戯の楽しい楽しい遊び方だ。なぁ、マスター?」
一陣の熱い風が繰腹の魂を揺さぶる。
今までの彼ならこの熱に浮かされ、己の心が命じるままに叫び喜んでいただろう。
文言は簡単だ。我必勝の策を見つけたり!
だが目の前で彼に熱狂を囁くその存在の見た目があまりにもあの日、自分の愚かさによって失われた少女にそっくりで……。
だから繰腹慶次という男は二度目の過ちを犯すことはなかった。
「…………どうした? 嬉しくないのか?」
コテンと首をかしげる。それはザンガイだ。
意外な事に彼女は凄く不思議そうに、どこか困った表情さえ見せている。
きっと彼女の望むそれとは違う反応だったのだろう。
繰腹はまるで攻守を交代するとでも言わんばかりにザンガイを見つめる。
今度は彼がその魂を見定めるとでも言わんばかりに、真剣な視線でもってザンガイを打ち付ける。
「お前は、一体誰なんだ? なんの目的で俺のところにいる? ザンガイだなんて言ってるけど、俺にはどうもそうは思えねぇ。お前は……」
その言葉が言い終わらぬうちに、ザンガイは大声で笑った。
笑ったという表現は些か語弊があるかも知れない。
それは笑ったと言うよりも侮蔑したという言葉の方が正しい。
繰腹慶次は、動じずザンガイを見つめ続ける。
「ハハハハ! ああ、笑った笑った! プッ! なんだぁ!? 真面目な顔して。もしかしてコレに惚れたか? まぁエラキノの残骸だからなぁ。確かに惚れる要素は――」
「《調査》――ザンガイの正体を調べる」
=Message=============
繰腹慶次の《調査》判t
1d100=【10 ■■■■■■■■■■
ザンガイの正ta■■■■■■■■■
―――――――――――――――――
「くひっ!!」
ソレは嗤った。ひどく、ゆがんだ、そして不気味な、だが心底楽しそうな、人が有する理解の外の感情で。嗤った。
「いいねぇ! 今の最高にいいよ! 凄くコレ好みになってきたじゃん!」
カラカラ、とダイスの音が鳴る。
カラカラ、カラカラと、終わることなく。何かを待つように。
「けどぉ……」
=GM:Message===========
ゲームマスター権限行使
繰腹慶次の《調査》判定を強制中断します
―――――――――――――――――
「コレの好感度が足りませぇぇぇん!」
エラキノさえ見せなかったかのようなゆがんだ表情で、ザンガイは嗤った。
ゆっくりと彼女の歩みが進む。向かう先はもちろん一つ、繰腹慶次だ。
一歩、繰腹は後ずさる。
ここに来て意思よりも恐怖が勝った。ヘタレ根性が出たとも言える。
ずんずんと速度を上げるザンガイ。対して繰腹は情けなく尻餅をつく有様。
そしてザンガイの顔が繰腹の目の前までやってくる。
その残虐な笑みが視界いっぱいに広がり――。
「まっ、まて! 俺にここで手を出したら……んぶっ!」
繰腹の口内に煮えたぎるような熱が広がる。
頭を両手で掴まれ強引に口づけされたと理解したのは、彼が呼吸困難に陥り思わずザンガイの肩をバタバタと叩いた後だった。
「ふふっ、今はコレで勘弁してよ」
じゅるりと、よだれを拭きながら満足したかのように言い放つザンガイ。
あまりにも傍若無人で少女らしからぬ行為ではあったが、繰腹も繰腹で突然の出来事に思考が追いついていかない。
別に女性経験が無いわけではなかったが、少なくともここまで強引に唇を奪われたことがなかった。
「それでも知りたいなら。もっとイベント積み上げて、好感度稼ぎましょうね~♪ マイマスター♪」
唖然とする繰腹に何がうれしいのかザンガイが微笑みかける。何が彼女の琴線に触れたのかは分からないが、ひどく機嫌が良い事だけは分かった。
「さっ、コレたちの冒険は始まったばかりってやつだよ。考えろ。それが重要だ。ない頭を限界まで絞り知恵を出せ、そこに活路があるんだぜ」
「お、おう……」
「というわけで、まずは何を持ってしても聖女たちだな。破滅の王をぶっ殺すにしても、仲間が必要だ」
先ほどの件について言及する度胸は繰腹にはなかった。どちらにしろ好感度が足りないらしいので自分が満足する答えは返ってこないだろうとも思ったが……。
とかく繰腹は話を先に進めることにする。思いつきと無謀に任せた行動の結果どのような変化が起きたかは考えたくもなかったが、少なくとも先ほどの事に目を背けるだけの目的が、今の繰腹には存在していたからである。
すなわち、夢破れ分かたれる事となったかつての仲間との合流である。
もっとも前途は多難であることは明らかだが……。
「でも仲間っていったってどうするんだよ?」
繰腹にしては的を射た反論だった。
いくらTRPGの能力や強みを理解したところで相手は人間だ。意思も感情もあり、加えてそれらを能力で操作することはやりたくない。もっともGMの能力は失われているので、できない。が正しいが……。
いずれにしろ、華葬の聖女ソアリーナと顔伏せの聖女フェンネが再び繰腹と行動を共にすることはかなりの困難に思われる。
「どうせ愛想尽かされてるんだ。もう一回一緒にとはいかねぇだろ? それに能力で洗脳とかは嫌だぜ? 一度失敗しているしな」
その事を問うたはずだ。自分としては正しい質問をできたと思ったし、他の誰が考えてもその疑問にたどり着くと思った。
重要な問題を、重要な仲間に、真剣味を帯びて質問したはずだ。少なくとも繰腹は遊びやおふざけでこの質問をしたわけではない。
「何言ってるんだ。古今東西男が女を連れてくる方法なんざ一つしかないっしょ」
だがその答えは……。あまりにもふざけていた。
「口説き落とすんだよ」
ニコニコとご機嫌に、ひどく楽しそうにザンガイが笑う。
コイツ恋愛脳か何かか?
経験上その事を口にすると仕置きを受けることは間違いないので頭の中で考えるだけにとどめる繰腹慶次。
彼がザンガイの真意に気づくことは無いのだろう。今も、そしてきっとこれからも……。




