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異世界黙示録マイノグーラ~破滅の文明で始める世界征服~  作者: 鹿角フェフ
第七章:数多の願いが集うとき

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第百四十八話 思惑

 サザーランドがマイノグーラとの交渉方針について侃々諤々のやりとりをしている一方。

 マイノグーラもまたサザーランドとの交渉について基本的な方針を固めるべく話を進めていた。


「さて、キリキリやっていこう。戦闘が確実に起こらないと分かっている現状はマイノグーラにとってある意味で奇貨だ。今後の事も見据えて少し強引にいっても良いかと思っている」


「サザーランドの件ですね。拓斗さまとしては圧力をかけてでも早急に取り込む必要があると?」


 アトゥが合いの手を入れ……。


「うん、今までの状況であればもう少し時間をかけてゆっくりと話し合いをしても良かった。けど1年という期間を考えるのであれば、ここで悠長に時間を潰している暇はない」


「そしてここで躓いている暇もない、ということですなぁ!」


 ヴィットーリオが補足する。


 宮殿の会議室にはいつもの面々が勢揃いだ。

 犬猿の仲であるはずのアトゥとヴィットーリオすらこの場でおとなしく出席している。

 アトゥはこの場でことさら騒ぎ立てて会議を遅らせることがマイノグーラにとって致命的になることを理解しているが故に。

 ヴィットーリオは下手にアトゥをからかうよりもより上質な楽しみが今後待っているであろう事を確信しているが故に。

 奇しくも、両者のそのような思惑によって拓斗にとってストレスフリーな会議進行が現在行われている最中だった。

 最も、その内容に関しては少々急いて事を進めなければならないという点であまり楽な話ではなかったが……。


「サザーランドの取り込みはあくまで大前提の話。もちろん腹案がないという訳じゃないけど、早めに結果は出しておきたいね」


 暗黒大陸第一の国力を持つサザーランドとの交渉はマイノグーラにとって必須とも言える事柄だ。

 まずここから始まると言っても過言ではない。

 大儀式の期限が1年である以上、最初の要所であるサザーランドの取り込みに手こずっていては全ての作戦に遅れが生じる。

 すなわちそれはマイノグーラの敗北を意味するのだ。ここで躓くわけにはいかず、なんとしても成功せねばならない。それも早急に。

 全陣営会談の破談からまだ数日。1年という期間を考えれば些細な日数と言えるかも知れないが、逆に言えばもう数日も過ぎているとも言える。

 兵は拙速を尊ぶとは有名な格言ではあるが、それを念頭に置いた上でさらなる迅速な対応が今のマイノグーラには求められた。


「となればどのような手段を用いて頭を垂れさせるのでしょうか? 大儀式で戦争行動が封印されている以上、直接的な手段は取れませんが……」


「確かにその通り。だけど向こうがそれを知っている訳ではない。少なくとも、フォーンカヴンには余計な事を言わないよう釘を刺しているから、相手側にこちらの弱みは伝わっていないはずだよ」


「拓斗さまの仰るとおりですが……」


 アトゥが煮え切らない反応を見せる。彼女の中で交渉とはすなわち互いの差を明確に見せることだ。特に事を急いている場面では下手に言葉を交わすより一撃大きな衝撃を与えた方が話が早いことが多い。

 だが戦争行動ができない状態ではそれら武を見せることも難しいのではないか?

 そのような疑問が生じていたのだ。

 むろん拓斗としてもその辺りの懸念はすでに考慮済みだ。むしろシステムの穴をつく事は彼にとって慣れ親しんだ事ではあるし、その辺りのノウハウも十分に蓄積している。

 同じく話を聞いていたヴィットーリオは拓斗の推測に思い立った様で、ふむふむと興味深げに頷いている。


「すなわち、ハッタリかます!……ということですなぁ!」


「言い方はちょっとかっこ悪いけど、まぁそういうことさ。幸いマイノグーラのユニットの姿は他国の人からはとても恐ろしく見えるらしい。その辺りを上手く利用できるはずさ。最悪、模擬試合程度ならなんとかなるしね」


 力の差を見せつけるのに何も直接的な戦闘行動に出る必要は無い。特に現在のマイノグーラには見た目の威圧感がすさまじいユニットがいくらか存在している。

 それを見せて相手の意思を挫けば話も早く進むだろう。あとはフォーンカヴンに対して行ったよう友好的に技術供与などをちらつかせればよい。

 すなわち飴と鞭作戦だ。


「一度ビビらせてからその後よしよしして仲良くするという魂胆。うーん、ヤクザかな? しかぁし、そうもうまくいきますかな?」


「その為のイラ教だと僕は理解しているけど? サザーランドは閉鎖的な国家だけど交流が全く無いわけじゃあない。であるなら楔を打ち込む隙間はいくらでもあるというわけだ。そしてその手筈はすでに整っている」


 もちろん、拓斗が一見して無謀に見えるこの作戦を全面的に良しと判断した理由は見た目恐ろしいユニットの存在だけではない。

 彼の言うとおりイラ教の存在が要素の一つとして大きくあった。イラ=タクト本人を神として崇め奉る異常者の集まりイラ教。

 それら宗教はすでにこの大陸全土に浅く広く分布している。まだ数は少ないがその手は確かにサザーランドにも伸びている。

 システムでそうであると定義された信徒は強力だ。拓斗が一声かければどのような事情があれど喜んで彼の言葉に賛同するだろう。

 だからこそ、拓斗はサザーランドの取り込みを半ば強引なまでに推し進めようとしていた。

 推し進めることができると判断していた。


「実におみごとぉ。まぁ大儀式下では吾輩の能力も十全に発揮できるとは言いがたい。手札でやりくりする必要はあれど、その仕込みは十分。といったところですねぇ」


 パンパンと機嫌良く拍手をしながらヴィットーリオが拓斗の決断を賞賛する。

 拓斗はその賞賛に応えることなくチラリとアトゥの方を見、彼女がやや不機嫌ながらも会議の成り行きを静かに見守っている事を確認する。

 次いでダークエルフたち。会議に当初から参加している彼らも今は静かに拓斗の言葉を傾聴していた。

 まずは方針を聞いてから質問という考えだろうか。もしくは危機的状況にあっては王である拓斗の判断に全てを任せるが一番であると考えたが故の態度か。

 ともあれ、普段から聞き分けの良い彼らがいつも以上におとなしくしてくれていることは拓斗にとってもありがたいことだった。

 ……話を進める。


「フォーンカヴン経由でサザーランドが持つ技術はある程度把握している。どれもこれもマイノグーラが未入手の技術だ。より上位の秘匿技術が存在しないかなんて欲をかいちゃうけど、現状でも絶対入手しておきたいところだ」


 チラリと視線を向けた先でモルタール老が深々と頭を下げた。

 主に彼が主導して収集してくれていた値千金の情報だ。サザーランドの優先度が低い時に集めた情報に加え、ここ数日で慌ててかき集めてきた情報であるためそこまで精度は高くない。

 だがそれでもマイノグーラが有していない未発見の技術を複数保有している事は明らかになった。

 現状では海洋系の技術が多くあまり有効活用できないと思われるが、逆に簡単に調べただけでここまで出てきたのだ。とっておきを隠している可能性は高いだろう。


「何はともあれ早急にサザーランドと交渉の場を持つ必要があるということですね拓斗様。それも数日中に」


「うん、サザーランドさえ堕とせば残る二つの都市国家は正直どうとでもなるし、最悪放っておいても良い程度の国力だ。対正統大陸連盟への第一歩は明確だよ」


「実際サザーランドに関してはフォーンカヴン経由で元々交渉の依頼も来ていたんですよね? 通常の判断力があればすぐに我々の提案を頷くと思いますが」


「と思いたいけど僕らは邪悪属性だからさ……。ほら、どこで話がこじれるか分からないし」


「ああ、邪悪属性の辛いところですよね」


 アトゥと拓斗がほんの少し苦々しい表情を見せる。過去……すなわち病室でゲームをプレイしていたときに何があったのかが脳裏をよぎったようだ。

 属性の違いよる価値観の差、その差から来る衝突は道理とは言えあまり歓迎したくないものだ。

 もっとも、水と油が簡単に混ざると考える方が間違いとも言えるが。何にせよ道理を覆すのなら手間暇はかかるものだ。


「その時はイラ教の信者を先導して革命でも起こせばいいのでは? 後は指導者を街の角に見せしめとして吊せば万事OKですぞ!」


「戦闘行動はできないって言ってるでしょ。いや、中立国家へのスパイ活動や破壊活動はいけるのか? その前に僕がお気持ち表明するだけで信徒が動くから完全にルールの裏をつけるのか。政治的な親マイノグーラ勢力として考えていたんだけど……イラ教信徒ほんと厄介だなぁ」


 思わず眉を顰めてしまう拓斗。

 その発言を聞いたらイラ教の代理教祖であるヨナヨナ辺りは卒倒してしばらく寝込みそうだが、この場にはいないので良しとする。

 ヴィットーリオ以上にアンコントローラブルな彼らに関しても注意は必要だ。下手に放置すると勝手な行動を起こして全てをご破算にしかねない。


(また後で時間見つけてヨナヨナに話を通しに行かないとなぁ。ほんと苦労の多い子だ)


 実のところイラ教に関しては他にもいろいろと考えている事はある。その為には今までの方針を変更して今後イラ教とも積極的に交流しなければならない。

 そういう意味では代理教祖という立場のヨナヨナとは密接な交流が必要なのだ。

 本人が聞いたらまた卒倒してしばらく寝込みそうになる計画を立てながら、拓斗は会議の参加者を見渡す。

 その後はいくつかダークエルフから質問が飛んだが、概ね理解は得られたようだ。

 もっとも現状ではとりあえずサザーランドと接触し、暗黒大陸軍事連盟の設立に向けて取り込みを図るという大方針しか打ち立てられないのであまり細やかな話にはならなかったが……。


 全員が納得していることを確認した拓斗は、宮殿のデザインに溶け込むよう選んだ木製の時計をチラリと確認する。

 時刻はすでに深夜。本日は会議前に各ユニットへの指示や都市への方針通達、諜報関連の指示など多種多様な業務を行っていたのでこの時間に会議を終えられたのはまぁ上出来と言ったところだろう。

 これならば軽く睡眠をとって翌日の朝一で出立ができる。


「というわけで、僕が出よう。幸い大儀式によってこちらへの危害も自動的に防がれる仕様だ。速度重視で移動できる」


 すでに大儀式の内容についてもダークエルフの幹部組は把握済みだ。

 慣れない部分があったのか若干の驚きがあったが、しばらくすればそれも収まり皆一様に納得の表情となる。


「直接的な危害はもちろん。暗殺なんかも戦争行動として防御されますからなぁ。このタイミングでできる事は全部やっておきたいですな!」


「大儀式はどのような手段でも覆すことのできない絶対の魔法。流石にこれが打ち破られるとは考えにくいですからね。少なくとも何らかの兆候はあるでしょう。もちろん、私も常に拓斗さまのお側で護衛しますが!」


 加えて二人の英雄の太鼓判も上手く作用してくれた。

 大儀式は『Eternal Nations』の中でも特別な位置を占める魔法だ。国家として発動するそれはあらゆる例外処理が効かず、ゲーム内では決して打ち破ることのできない絶対のものとして動く。

 むろん設定もその性能に準拠しており、通常の魔法とはまた別のより高い位階の法則から生み出されるものとされている。


 これらの設定を考えるとこの大儀式自体が攻略されることはおおよそ無いと判断してもよかった。少なくともアトゥの言葉通り異変が起こった時はなんらかの兆候があるだろう。

 だからこそ今は拓斗が比較的周囲への警戒度を下げて自由に動ける絶好の機会なのだ。

 その確信と自信は自然とダークエルフたちにも伝播していく結果となり、だからこそ反対の声もあがらなかった。


 以前に意識を失う醜態を見せていた拓斗としてはここでダークエルフがまた過保護な事を言い出したら説得が厄介だと思っていただけに安堵する。

 人間――まぁダークエルフだが、人の感情は複雑だ。理性でそうであると分かっていても感情が許さぬ事は数多くある。

 そこが人間の素晴らしいところであり、また弱点でもある。

 拓斗もこの世界に来てその事がよく理解できるようになってきた。病室での無味乾燥な人付き合いではなく、ある意味で喜怒哀楽の激しい人々とのやりとりは確かに彼の心を成長させていた。


(国内の説得がスムーズにいって良かった。最悪のパターンではここで躓く可能性もあったからね)


 ヴィットーリオは意図してフォローを入れてくれたようだが、アトゥはおそらく天然だろう。だとしても二人の英雄に助けられたのは事実。

 拓斗はこの頼もしい仲間に感謝しながら、全員に視線を合わせ自信を持って発言する。


「サザーランドには別大陸由来の物が数多くあると聞く。この状況であまり浮ついた気持ちになるのも良くないけど、少し楽しみだね」


 全員が頷く。

 深夜という時間帯も相まってひどく静かだった。

 いつもの流れならここで拓斗が号令をかけて会議が終了する手はずだ。

 拓斗もそのつもりで席を立ち締めの挨拶をしようとする……が、彼は何かを思いついた様子で「ああ……」とだけ小さくつぶやいた。

 視線が王へと集中する。


「二つ、ああ、じゃなかった三つかな。サザーランドから技術移転を受けると、アレが解禁されるね」


 サザーランドとの協力を無事取り付けることができ、技術を譲り受ける事ができた場合。当然ながらマイノグーラの保有する技術の総数が増える事になる。

 それは説明するまでもない当然の結果で、上から下へと水が流れるのと同じ道理だ。

 そこに一体何の意味が? 一体何が解禁される?

 疑問を持った一同だったが、すぐさま反応したのは二人だけだった。

 すなわち汚泥のアトゥ、幸福なる舌禍ヴィットーリオ。


「何が……あっ!」


「新しい英雄……ですな!」


 ダークエルフたちが息をのむ。

 英雄の召喚はマイノグーラが保有する技術と密接な関係を持っている。

 特定の技術の発見が必要だったりと条件がいくつか存在するが、その条件の中に保有技術数というものがある。

 以前のクオリア潜入の時に入手した技術。そして次にマイノグーラが入手できるであろう技術。それらの総数を合わせると上手く事が運べば新しい英雄を召喚することができるのだ。

 マイノグーラの手札がまた一つ増える。

 ダークエルフたちの表情に喜色が見える。だがどうだろう? 少し浮かない顔の者もいるのは気のせいだろうか……。

 拓斗はその表情も、その理由も正しく把握しながらあえて話を続ける。

 大丈夫。次に召喚する英雄はほんの少しマシだから……。

 全然マシとは言えないのが辛いところだった。マイノグーラが持つ英雄の良識枠はイスラで終わってしまったが故に……。


「マイノグーラの英雄も残り二体。性格はさておきどちらもその能力は折り紙付きだ。コストは重いけど……一年という時間なら余裕を持って召喚可能だ」


 少し面白くなってきた。

 次の英雄はどちらにしよう。拓斗の中で作戦がどんどん組み上がってくる。

 残り二つの英雄はどちらもピーキーな能力を有しており、使い方によってはかなり強力にマイノグーラの戦力を増強させてくれる可能性を秘めている。

 どちらでも良い。状況によって判断を変えるのも良いなと拓斗は内心で考える。


「さて皆に問おう」


 少し興奮が出てきたのか、拓斗は気まぐれにこの場に集まった者たちに問いかける。

 英雄の二人はさておき、ダークエルフでは判断がつかないであろうということも理解しつつ。

 それでもなお自分が持つ興奮を抑えきれなかったのだ。


「どちらの英雄と会いたい?」


=Message=============

現在把握しているサザーランドの未知技術は以下の通りです。


《光学》《天文学》《遠洋航海》《初期ロジスティックス》《文化鑑賞》

―――――――――――――――――

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唯一の良心が最初に殺されてて魔王軍の罪は重い。
モンスター退治もできないんかな?できたらヒロインがめっちゃパワーアップしちゃうか
光学とか天文学で解禁される英雄は強そう
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