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六十話 パーフェクトワールド

漫画版3巻の発売を記念して、第二部の後半、60話から70話と第二部の閑話の全てを大きく改稿しております。


 漫画版のコミカルな感じを重視するため、シリアスなお話はほとんどカットされています。時系列がややこしいため、閑話のアリス大戦シリーズもなくなりました。

 元のお話から、かなり変わっておりますが、よくできた面白いものになったと自負しておりますので、一度第二部を読まれた方々も、もう一度読んで頂けると有り難いです。


「ああ、よくわかったな、その通りだ」


 例の俺の決め台詞は、10年前から始まっていた。※


「リックが黒幕だった以上にびっくりだよ」

『そんなことよりタッくんっ、死にかけてるやんっ! 大丈夫なんっ!?』

「ああ、俺もずっと不思議に思ってたんだ。普通に死んじゃうよね」


 あの時の俺は気づくことが出来なかった。

 過去の俺のまわりに、キラキラ光る破片みたいものが散らばっている。

 俺のダメージを減らすために、リックが見えない盾で防御していたんだ。


「この時から始まっていたのか」

『え? 何がなん?』

「最初からアリスの勘違いを利用して、俺を宇宙最強にする筋書きだった」


 過去のリックに今の俺の声が聞こえているはずがない。それなのに……


「ああ、そうだ、タクミ」


 リックはしっかりと俺を見て、そう答える。

 と、同時に、ピシッというガラスにヒビが入る音がした。

 なんでもない景色に、イナズマのような亀裂が走る。


「俺はお前を」


 ピシッ、ピシッとさらに亀裂は広がっていく。


「世界の王にして終わらせる」


 パァァアンっ、とガラスが割れるように、10年前の場面が全部バラバラに砕け散る。

 目の前にいるリックだけが、そのままの姿で残っていた。



「やっぱりこの回想は、リックが見せていたんだな」

「魔剣までついてきたのは予想外だったがな」

『うちはいつでもタッくんと一緒やねんっ』


 俺が知らなかったことまで補完される過去回想なんて、誰かの介入がなければあり得ない。


「どうして俺を、こんな最弱な男を宇宙最強になんて勘違いさせたいんだ?」

「……すべての痛みを知る、最も弱い人間が我らの王とならなければいけない。そして、その最弱の人間は、我らより強くなければならない」

「それってアザトースが言ってた……」


 リック、まさかお前っ!?


『魔族やないで、タッくん』

「え? 違うの?」

『うちと一緒や。魔装備そのものが本体や』

「えっ!? リック、ヨロイだったのっ!?」

「ああ、そうだよ、タクミ。肉体はとうに朽ち果てた」


 リックが初めて、自らの鎧兜よろいかぶとに手をかけ、その素顔を表に出す。だがそこには何もなく、その先に夕暮れの景色が広がっていた。


「タクミ、俺は……」

「ひぃーーっ!! こ、こわっ、思ってたよりだいぶ怖いっ!!」

『いやぁーーっ、首なしやんっ! わかってても中身入ってないのん、めっちゃ怖いっ!!』

「いや、俺は、あの……」

「いいからっ、いいから早く兜かぶってっ! 生首が喋ってるみたいだからっ!」

「わ、わかった。ちょっ、ちょっと待っててくれ」


 ふぅ、リックが鎧兜を被り直したので、ようやく落ち着いて話ができるぞ。


「リック、俺が世界の王なんかになっても何も変わらないぞ。俺は何もしないし何もできない」

『うん、タッくん、いっつもゴロゴロしてるだけやからな』

「勘違いの王でいいんだ、タクミ。最強はアリスが引き受けてくれる。その世界こそ、俺が何千年かけても叶えることが出来なかった世界、パーフェクトワールドだ」

「……え? パ、パーフェクト、ワ、ワールド?? 気持ち悪っ! てか、何千年もそんなこと考えてたのっ!? こわっ!!」


 リックの鎧がぽっ、と真っ赤に染まる。


「悪いけどリック。俺はそんな(恥ずかしい)世界の王にはならないよ」


 さすがに可哀想なので、(恥ずかしい)は小声でつぶやいておく。


「お、お前が望まなくとも、もう勘違いは止まらないっ! パーフェクトワールドの王としてっ、未来永劫っ、この世界に君臨し続けるのだっ!!」


 しつこいなぁ、まだ鎧がほんのり赤いのに、必死に立て直してきたよ。


「てかリック」


 大武会の時と同じだった。

 いつも予想外の時に、いきなり現れる。


「後ろ見て、後ろ」

「へ?」


 振り向いたリックが、本物の鎧みたいに固まった。


 巨大な真っ白いモフモフの塊が全力疾走で、ドドドドドと砂煙をあげながら突進してくる。


「ベビモっ!!」

「むきゅーーんっ!」


 名前を呼ぶと巨大な身体に似合わない可愛い声で、答えてくれる。

 そして、そのベビモの上には、アリスがちょこんと乗っかっていた。


 大武会の後、忽然と姿を消して、いったいどこに行っていたのか。

 いつのまにかタクミポイントの管理を任されていたのはなんだったのだろうか。

 なんでこの場面で、また突然現れたのか。

 聞きたいことが山ほどあったが、出会った頃と変わらない、真っ直ぐなアリスの瞳を見ていると、全てがどうでもよくなって笑みがこぼれてくる。


「アリスーー、リックがさーー、パーフェクトワールドとか言っててさーー」

「お、おいっ、コラっ、ちょっ、おまっ、やめろっ!」


 張り詰めた空気は、いつのまにか霧散して。


「ちょっとこらしめてくれないか?」


 小さく頷いたアリスがベビモの上から、とんっ、と降り立つ。


「参る」


 長い金髪が風に揺れ、アリスがリックに向かって全力の拳を振りかぶった。



※ こちらのお話は、第一部 転章「閑話 アリスとタクミ」に載っております。よければご覧になってみてください。

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