三百三十二話 カット、カット、カット
「タクみーん、タクみーん、ちょっと手伝ってほしいのでござるよー」
ロッカの声を聞いて全力でダッシュする。俺だ、あのタクミでなくて俺が頼られているのだっ。
「はぁはぁ、どうしたんだ、ロッカっ、何か困っているのか!?」
「ああ、間違えたでござるよ。あのタクみんの方を呼ぼうとしていたのでござる。タクみんはゆっくりしていていいのでござるよ」
あからさまなガッカリ顔。俺に何も期待してないのが見てとれる。それでも、それでもだっ。
「あ、あのタクみんにできることは俺にもできるぞ。なんてったって元は一緒だからな」
「元は一緒でも今は全然違うのでござるよ。そんなことを言ったら、あのタクみんに失礼でござる」
おかしい。それはあのタクミが言われるはずの言葉だ。
「あ、あうあうあ」
声にならない声を出している間に、ロッカは俺の横をすり抜けて、あのタクミを探しに行く。最近はもうずっとこんな感じだ。
「どうしてだっ、この世界では俺が本物なのにっ!!」
『どうしてって? それはタッくんがあのタクミに面倒なこと全部任せてサボってたからやで』
「だけどっ、それは仕方なくっ、あのタクミがどこまでできるか、調べなければならなかったからっ」
『ほんまに仕方なくやった?』
くっ、認めざるを得ない。途中から楽すぎて、すっかり本来の目的を忘れていたことを。
「カルナっ、どうすればいい? ここからミラクルな逆転劇はないのかっ!?」
『そんなんいうてる時点でアウトやで。地道に頑張って、また一から信用を取り戻すしかないんちゃう?』
そ、そうしたいけど。そんなことしてる間にトーナメントが再開して、あのタクミとの戦いが始まっちゃうよ。
「ち、ちなみにカルナは、いまどっちの味方なんだ?」
『うーん、6対4であのタッくんかなぁ』
「うわぁあああっ、聞きたくないっ、今のは言わなかったことにしてくれっ、俺は何も聞いてないっ!!」
ダメだ。このままじゃ俺のアイデンティティが崩壊してしまう。いっそのこと、トーナメントが再開される前にあのタクミを……
「私は10対0でタクミさん推しですよ」
「レ、レイアっ!!」
初めて、突然現れた恐怖よりも喜びが上回った。
「そうかっ、お前は俺のほうについてくれるのかっ!? 信じていたよっ、さすがレイアっ、弟子の弟子の弟子なんて比べものにならないよっ」
「ふふ、当然です。あちらのタクミさんは倍率が高すぎて入手困難ですが、今ならこちらは私が独占できそうですから。多少劣っていても我慢できます」
グサァっ、と心に辛辣なダメージが突き刺さる。
「お、俺、あのタクミより劣ってるの?」
「大丈夫です。性能のほうはタクミさんが随分上をいってると思います。ただ性格面で、壊滅的に負けているだけなので、そこを改善すれば……」
「うわぁああああっ、やめてっ、それ以上話さないでっ、今のセリフ、全部カットしてぇっ!!」
ダメだ。もう俺の味方なんて存在しない。わずかな期間で、俺が築き上げてきたものを、全部あのタクミに奪われてしまった。
「はっ、これがあのタクミの戦略なのかっ!? 元から俺の仲間達を奪うつもりで近づいてきたのかっ!?」
『うん、違うでタッくん。近づいたのもタッくんやし、ここに連れてきたんもタッくんやで。仲間があっちにいったんは、ただただタッくんがサボってダラダラしてただけの自業自得やで』
「そんな正論は聞きたくないっ!!」
ダメだ。もう涙で前が見えない。
「こうなったら、真のタクミの座をかけて戦わなければならない。負けたほうがここから出ていく、プライドを賭けたデスマッチだ」
『うわぁ、そんなんして追い出したら、ますますタッくんの株下がってしまうで。だいたいあのタッくん、戦い方、忘れてしもてるやん』
「ふ、別に殴り合いで決着をつけるつもりはない。料理対決だ。あえて向こうの得意なやつで勝負してやる」
『いや、あえてて、タッくんも料理得意やんか。それやのに相手に合わせてやってるみたいな発言が、みんなの好感度を下げて……』
カチン、とカルナを鞘に戻して、『封』と書かれた紙を貼る。んぐぐぐ、とうめくだけで、カルナの声はいっさい聞こえなくなった。
「これから俺に対する悲しい出来事は、全部カットすることにする……わかったな、レイア」
「はっ、常にお側でカットし続けて参ります」
唯一の味方を引き連れて、あのタクミの元へと向かう。
「なんでござるか、タクみん、あのタクみんの邪魔を……」
「なんじゃ、いまあのタクミは晩御飯の支度を……」
「あら、タクミ、今日は夕方までゴロゴロしないの? 大丈夫よ、全部あのタクミがやってくれ……」
「カット、カットっ! カットォオっ!!」
「さあ、勝負だ、あのタクミ」
「へ?」
すべての悲しいシーンがカットされ、次回はいきなり料理対決から始まります。
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