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二百六十一話 文字狂い

 

 タクミが腰に帯刀していた魔剣が砕け散った。


 ワタシの中に、残り香のように小さな力が流れてくる。

『タッくん』と、小さく呼ぶ声が聞こえた気がした。


「……聞こえた?」

「何が?」


 そうか、最後の想いも届かないのか。


「心配しないで。すぐに戻してあげる」


 タクミに。カルナに。

 今はいない2人に約束した。


「参る」


 小さな力が火種となり、ワタシの中で業火ごうかがあがる。

 魂を紅蓮に染め上げて、真っ直ぐタクミに向かっていく。

 それでもタクミは全く動じずに、暗黒魔法を口にする。


羅生地獄門らしょうじごくもん


 詠唱なしの魔王バージョン。

 歪な形をした門が目の前に出現する。

 砕いたら、暗黒の腕が地獄に吸い込むはずだが、今回は最初から、その扉は開いていた。


 ぶわっ、と扉から無数の黒い腕が伸びてくる。

 それらの腕が次々と纏わりつき、全身を覆い尽くす。


「……邪龍」


 それは自然と自分の口から発せられた。


邪龍暗黒(じゃりゅうあんこく)大炎弾(だいえんだん)っ』


 黒い腕と同じ数の黒玉が溢れ、羅生地獄門を腕ごと粉砕する。


「なに、それ?」

「覚えてないの? 大事なものを」


 砕けた門の破片を弾きながら、拳がタクミの顔面を捉えた。

 頭に巻いたバンダナが弾け飛び、『第八部ラスボス』の文字が見える。


「弟子の分際でっ、わきまえろっ!」

「武はわきまえない」


 でも当たりが薄い。

 全力の拳が反射された?


「写実空剣」


 手を天に翳しただけで、そこに抜き身の一刀が現れる。

 これまでに見た能力だけじゃない。

 入れ替えのように、タクミはオリジナルの技を次々に生み出している。


超宇宙(ちょううちゅう)薄皮(うすかわ)芋剥千極剣(いもむきせんごくけん)


 芋の皮を剥くが如く、神速の斬撃が宙を舞う。

 これはレイアの技かっ!?

 オリジナルとコピーを織り交ぜて。

 千変万化の攻撃が矢継ぎ早に襲いかかる。


「それは一度見ている」


 レイアの放った斬撃よりも数段早く、神技のごとく美しい。


 それでも普通に。無防備に。無造作に。

 逆に斬撃のほうが避けているように、スタスタとタクミに近づいていく。


曲解きょっかい

「っ!?」


 真っ直ぐだった全斬撃が、一斉に不自然なまでに捻じ曲がる。

 回避不可避。ならばっ


「破ぁああっァァァアァっ」


 全部真正面から受け止める。傷を追いながらも全ての斬撃をぶっ壊した。


「剣を砕くか。まだそんな力が残っているのか」

「剣を使ったのは間違い。ワタシの中にあるものが怒ってる」


 何を言っているのか、とタクミが小さく首を傾げる。

 負けられない。

 今のタクミには、ワタシもカルナも負けられない。


「ふむ、少し出力をあげようか」


 自分で技を作れるようになってから、戦いの主導権は常にタクミが握っている。

 たぶん長引けば長引くほどに、さらに戦術の幅も広がっていくはずだ。


「短期決戦だ。力を貸して」


 タクミと同じように手を天に翳す。 

 そこに黒玉が集まっていき、拳を暗黒に染め上げる。


「くだらないな、魔法が使えないくせに、なんのつもりだ」


 これは魔法なんかじゃない。

 カルナの、ワタシたちの想いだ。


「まあいい、終わらせる。…… 皇大御神降すめおおみかみおろし」


 ぼっ、とタクミの身体が燃え上がる。

 なんだ、これは?

 まるで、目の前に太陽が出現したような、熱波が辺りを覆っていく。


天照大御神アマテラス


 そんな神など聞いたこともない。

 太陽の神を具現化したのか。

 現実世界に行った時の、知識から引っ張り出したのかもしれない。


「最後だ、アリス。降参するなら、また弟子にしてやる」

「なりたくないよ」


 ぴくっ、と少しの動揺、いや、ただの怒りか。

 なんでもいい、それが隙に繋がれば突破口になるかもしれない。


「今のタクミは文字に狂ってる」

「アリスっ!!」


 太陽の光よりもさらに激しく、タクミの身体が燃え上がる。

 地上の全てを焼き尽くすつもりなのか。

 そこに触れただけで焼滅するのはまぬがれない。

 この黒く染まった拳以外は。


「共に参る」


 叩き込む。難しいことは考えない。ただ、ワタシたちの想いを全部のせて。文字に犯されたタクミをぶっ飛ばす。


 ジュッ、と肉が焦げ付く匂い。

 拳以外の全身が焼けていく。

 それでも止まらない。

 いつものように、ただ真っ直ぐに、一直線に、そのままに。全力の一撃を叩き込む。


 っ!?


「空間魔法 世界停止ワールドストップ


 え? 止めた? ……時間を?

 禁魔法、世界逆行ワールドリバースの改変!?

 ビタッ、と空と風と大地の躍動、その全てが固まった。


「タクミっ!」

『タッくんっ!』


 どちらかの想いか。あるいは両方か。

 静止した時間の中で、その拳だけは時間の壁を貫いた。





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