二百二十三話 ニシヘヒガシヘ
草木も枯れ果てた極寒の地。
ゴツゴツとした岩場の一つに腰をかける。
巨大なバスターソードを、どんっ、と固い地面に叩きつけ、大きく息を吐く。
目の前には拙者が倒した、数えきれないほどの蛮族の山が積み上がっていた。
「あなたこそが禁断の第六魔法、六花なのです」
え? 拙者が第六魔法?
チョビ髭が訳のわからんことを言っている。
「何をふざけたことをっ、拙者、生まれも育ちも魔法とは無縁の北方戦士でござるよっ」
「それは後から植え付けられた記憶ですよ。 ご両親のお顔、はっきりと思い浮かべることができますか?」
「はんっ、そんなの当たり前でござるっ ……よ?」
あ、あれ?
父上と母上の顔がボヤけてハッキリしない。
10歳まで一緒に暮らしていたはずなのにっ。
「やはり、でてこないのですね。あなたの両親にまつわるエピソードは、さほど重要ではありませんから」
「なっ、なんだ、それはっ!?」
「正式な手順で封印が解かれてない第六魔法は不完全なのですよ。発動する前の記憶は、適当に作られたものなのでしょう」
「そんなはずはないっ!!」
吹雪の中を、自分よりも大きなバスターソードを背負って真っ直ぐに歩いた。
向かってくる蛮族たちをすべて薙ぎ倒した。
10歳にも満たない歳で、大陸でも随一の戦闘民族が揃う蛮族地帯、北方ノースカントリーを制圧し、戦姫と呼ばれた。
「拙者はっ、拙者はっ……!」
「北方出身のリック殿にも確認しております。殆どの者が赤髪で生まれる北方で、金髪の少女が蛮勇を振るい、戦姫と呼ばれているなどという噂は、聞いたことがないと仰っておりました」
ち、ちがうっ、ちがうっ、ちがうっ、ちがうっ!!
「せ、拙者は、確かにっ、そこで生まれっ……」
「そもそも、その言葉使いも北方のものではありませんね。レイア殿としばらく修行していたため、東方のなまりがうつったのでしょう。過去に北方にいたことなどなく、一番長く過ごしていたのがレイア殿の近くという証ですよ」
「ち、ちがうでござ…… ちがうっ! それに東方の仙人は、最初から、拙…… 私のことを、ちゃんと知っていたっ!!」
『ほう、お主が北方の蛮勇、戦姫ロッカか』
そう、あの老人は初対面にも関わらず、私の噂をちゃんと知っていた。
「あの方はストリーテラーです。物語をスムーズに展開させる為に、うまく回しているだけですよ。実際は貴方が第六魔法ということをご存知です」
「うるさいっ、うるさいっ、うるさいっ! これ以上、戯言をほざくなっ!!」
「いっ、いたたたたたっ! な、なんですかっ!? わ、私のトレードマークをっ! おやめなさいっ!!」
チョビ髭のチョビを力任せに左右に引っ張る。
全力で引っ張ってるのに、どこまでも、びよーん、と伸びて引きちぎれない。
「ちょっとストップっ、ロッカっ! そいつに頼らんと、タクミ殿のところに行けんくなるでっ!」
「はっ!」
クロエの声に、ピタっ、とチョビ髭のチョビを引っ張る手を止める。
そうだった。元々、タクみんを追う為に、このチョビ髭の道具を借りる予定だったのだ。
仕方なくチョビを離すと、伸びに伸びたチョビが一瞬でくるくると元通りになる。
「と、とにかく、まずはタクみんの行方でござるっ、チョビ髭、タクみんがどこへ向かったのか、すぐに調べるでござるよっ!」
「そうですね。できれば私もこの騒動の顛末を、間近で見たいと思っております」
チョビ髭が腰に巻いた袋から水晶の玉を取り出した。
食卓のテーブルに置くと、ぼやっ、と淡い光に包まれる。
「これはっ、中に二人の人影がっ」
「千里眼の水晶です。リック殿からお借りしてきました」
タクみんとあの偽物が写っているでござるか?
「ここは? やけに暗いですね、地下室でしょうか? 誰かが破壊したのか瓦礫が散らばっています。かろうじて床に六芒星のマークが見えますね」
な、なんだ? こんな場所、行ったことがないはずなのに……
拙者、ここがどこだか知っているでござる。
「マジックキングダムの地下室。魔法王国、西方ウエストランドの本拠地でござるよ」
え? マジックキングダム?
聞いたこともない名前がするすると自分の口から発せられる。
なのに何も思い出せない。
「……誰かが拙者の記憶を、持っていったでござるか」
……まさか、あの人が。
第六魔法に関わっているでござるか。
「ロッカ、汗がすごいで。大丈夫なん?」
「だ、大丈夫でござる。タクみんの居場所もわかったし、早く行くでござるよ」
一人だけ知っている。
記憶も記録も根こそぎカットできる人物を。
「ふむ、やはり舞台は西方ですか。全ての魔法の始まりの場所……」
「ごちゃごちゃうるさいでござるっ! いいから早くするでござるっ!」
「わ、わかりました。わかりましたから、私のチョビに触れないで下さいっ!」
誰が味方で誰が敵なのか。
頭が悪い拙者にはわからないでござる。
ただ、一つ、自信を持って言えるのは……
「タクみんだけは、拙者の味方でござるっ」
チョビ髭が懐から、黄金に輝く方位磁針を取り出して、拙者たちに見せる。
「これは金色の転移磁針です。世界に二つしかないのですが、対となる銀盤の転移磁針はシャサ殿に渡してしまいました」
え? シャサ?
その名前はタクみんがつけたばかりで、他に知ってる者はいないはずだが? どうして、チョビ髭がそれを……
「さあ、それでは参りましょうか」
チョビ髭がニコリと笑い、Eに向けて磁針を動かす。
ん? 西方は、Wではござらんか?
「ま、まさかっ、貴様っ!!」
「申し訳ありません。タクミ殿の所へ行かせるわけにはいかないのですよ」
カチリ、という音と共に、ぐにゃりと景色が歪む。
「チョビひげぇえええええっっっ!!」
真逆の東に飛ばされて、タクみんとの距離は最大限に広がった。




